一章三話 1週間の専属ガイド
「お兄さん! 旅の人? あたしが案内してあげようかでし?」
「おおん?」
ライトはしゃがんで少女と目線を合わせた。
「お嬢さん。俺の名前はライト・ザック・バーナル! 俺が旅人だってよく分かったな!」
「あたしはリリー・フロスティ! リリーって呼んでいいでし!」
「じゃあ俺のこともライトって呼んでくれ!」
「分かったでし!」
「それで、何で旅人って分かったんだ?」
リリーはライトの服を指さした。
「この辺で見ない服だし、それに目がキラキラしてるでし」
「目?」
「この国の人たち、ほとんどつまらなそうな顔してるから」
ライトは周囲を見る。
確かに、道を歩く人々には笑顔が少なかった。
「そうなのか……」
気にはなった。
だが、入国前に守備兵長から言われた言葉を思い出す。
「まあ、立ち話も何だし、案内してもらうついでに何か食いに行くか?」
「本当!?」
リリーの顔が一気に明るくなる。
「行く行く! 案内するでし!」
ぴょんぴょん跳ねながら歩き始める。
「元気だなあ」
ライトは笑い、その後を追った。
数分後。
「ンアッ!」
「どうしたの、ライト?」
「リリー……すまん」
「?」
「俺、金持ってなかった……」
「え?」
「今までいた村、金貨とか使わなかったから、旅に必要なものとして完全に頭から抜けてた……」
「あれま」
リリーは少し考える。
「じゃあ、ご飯はなしで案内だけするでし」
「いや、一週間この国にいるんだ。金の問題は何とかしたい。物を売れる場所ってあるか?」
「あるでし!」
リリーは再び元気よく歩き始める。
「こっち!」
しばらくして、一軒の店の前で立ち止まった。
「着いたでし!」
看板にはライトが見たことのない文字が書かれていた。
「……これ、何て読むんだ?」
「『換金屋』でし。あたしもよく物をお金に換えてもらうの」
「お小遣い稼ぎ?」
「ううん」
リリーはあっさり答えた。
「あたし、パパとママいないから。ご飯とか、学校に行くのにお金がいるでし」
「……そうか」
ライトの表情が曇る。
「嫌なこと聞いてごめんな。家はどうしてるんだ?」
「パパとママと住んでた家に、そのまま住んでるでし。パパの友達だった換金屋のおっちゃんが、ご飯持ってきたり様子見に来たりしてくれるでし」
「そうなのか……」
ライトは少し安心する。
「国から何か援助はないのか?」
「前は孤児の子を助ける制度があったみたい。でも何年か前に王様が国の方針を変えてから、ほとんどなくなったっておっちゃんが言ってたでし」
「……九歳でそれは大変だな」
「大丈夫でし!」
リリーは笑った。
「それより、早く行くでし!」
「おう!」
店の扉を開ける。
「たのもー!」
中には、頭髪がかなり寂しくなった中年の男がいた。
「おお! リリー!」
男はリリーを見ると満面の笑みを浮かべた。
「今日は何を持ってきたんだ?」
「今日はあたしじゃないでし。このマッチョが物を売るでし」
「マッチョ?」
男の顔がライトへ向く。
「おおん!? お前、この国の人間じゃねえな!?」
「旅人だ!」
「俺はな、リリーの親父みてえなもんだ! テメー、リリーに何かしたらぶっ飛ばすぞ!」
「ああん!? んなことするわけないだろうが!」
ライトも身を乗り出す。
「俺はライト・ザック・バーナル! この国に少し滞在するから、金が必要なんだ。物を売りたい!」
「ほほぉん? なら見せてみろ!」
「ふっふっふ……」
ライトは鞄を漁った。
「驚くなよ!」
どんっ。
「ダンベル村特産! ダンベルキノコ盛り合わせ!」
「…………」
「どうだ! 金貨百枚くらいくれ!」
「何じゃこりゃ」
「え?」
「見たことねえ。図鑑にも載ってねえな。価値が分からん」
「ぬおおん!? ダンベル村を馬鹿にするな! すっげー美味いんだぞ!」
「食えるのか?」
「食える!」
店主は一本つまんだ。
もしゃ。
「…………」
「どうだ?」
「めっちゃ美味え」
「だろ!?」
「だが、換金価値は分からん」
「俺のキノコ返せえええ!」
「もう食った!」
「テメー!」
ライトが店主の腕を掴もうとした。
その拍子に鞄が倒れる。
中から一枚の鱗が床へ落ちた。
「…………」
店主の動きが止まる。
「お、おい……」
「ん?」
「これ……どこで手に入れた?」
「さっき」
「さっき!?」
店主は鱗を手に取った。
「こいつはハピネスドラゴンの鱗じゃねえか!」
「ハピネスドラゴン?」
「滅多に人前に姿を現さない伝説級の竜だ。昔から幸せを呼ぶって言われてる」
「へえ」
「しかも、本来は人を襲わないことで有名だ」
「嘘だろ。俺、めっちゃ襲われたんだけど」
「何したんだ、お前……」
「何となく最終的には仲良くなった気がする」
「んな馬鹿な……」
店主は鱗を光へ透かした。
「まあ、この国じゃ今、『幸せを呼ぶ』って理由で逆に不吉な象徴扱いされてるがな」
声を落とす。
「あ、俺が今『幸せ』って言ったのは内緒だぞ」
「この国、本当にどうなってんだ?」
「深入りしねえ方がいい」
店主は鱗を置いた。
「こいつなら金貨五枚で買える」
「金貨五枚ってどれくらい?」
「一枚あれば、一人なら一か月くらい普通に暮らせる」
「マジか!」
ライトは驚いた。
「じゃあ一枚だけ売る!」
「一枚?」
「五枚くらいあるから」
「お前……とんでもねえもん持ってんな」
金貨を受け取ったライトは、リリーへ差し出した。
「リリー。よかったら、この一週間、俺の専属ガイドしてくれよ」
「え?」
「報酬」
金貨を見て目を丸くする。
「こ、こんなにもらえないでし!」
「じゃあ、管理はおっさんに任せる」
ライトは店主へ渡した。
「ガイドの報酬以外で余った分はリリーの生活や学校に必要な分に使ってやってくれ」
「……分かった」
「あと、店主のおっさんがいいって言うなら、俺が泊まる宿の食堂とかで一緒に遊ぼうぜ」
店主がライトを見る。
「宿の部屋に連れ込むとか言ったら、ぶっ飛ばしてたぞ」
「何でだよ!?」
「お前見た所、十七歳か、十八歳くらいだろ! リリー九歳だぞ!」
「筋トレするだけだぞ!?」
「余計に不安だわ!」
「ダンベルに誓って変なことはしねえ!」
「何だその誓い!」
リリーが笑い出す。
「デーシッシッシッシッ!」
「何だその笑い方!」
「パパもママも、この笑い方だったでし!」
「そ、そうか……」
ライトは少しだけ苦笑いした。




