一章四話 これが幸せかもでし
店を出てからの日々はリリーは約束通り、ライトを街のあちこちへ案内してくれた。
学校の話。
好きな動物。
好きな食べ物。
好きな色。
ライトはいつしか、自分の幸せを調べるという旅の目的を一旦忘れ、リリーが楽しめるように過ごしていた。
両親がいない寂しさが、少しでも和らげばいい。
それだけだった。
リリーはライトと一緒にいる間、よく笑った。
「デーシッシッシッシッ!」
「その笑い方、何回聞いてもすげえな……」
「デーシッシッシッシッ!」
そんな二人を、通り過ぎる国民たちは冷たい目で見ていた。
誰も注意はしない。
ただ、笑っているリリーを見ると目を逸らしていく。
「あー、久々にこんな笑ったでし!」
「そうか!」
「明日はもっと楽しい場所に行くでし!」
「おう!」
「あと、宿の食堂で筋トレ?もやってみたいでし!」
ライトの目が輝いた。
「よく言った! じゃあ食堂に集合したら、ライトブートキャンプの開催だああああ!」
「デーシッシッシッ!」
その翌日。
「身体痛いでし……」
「筋肉痛は成長の証だ!」
「案内できないでし……」
「すまん!」
そんな日々も、あっという間に過ぎていった。
◇
ライトが滞在できる最後の日。
二人はテラス席のある店で昼食を食べていた。
「いやー、一週間あっという間だったな!」
「どういたしましてでし!」
「ありがとな、リリー。楽しかったわ」
「リリーも楽しかったでし!」
ライトは少し迷ってから尋ねた。
「そういえばさ。聞いていいのか分からないんだけど……リリーにとって、幸せって何だ?」
「幸せ?」
「うん」
リリーは首を傾げた。
「学校で、幸せなんて必要ないって教えられてるから、よく分からないでし」
「……そうなのか」
門の男の言葉を思い出す。
政治の問題だ。
他国の人間が簡単に口を出していい話ではないのかもしれない。
そう思った。
「でもね!」
リリーが身を乗り出す。
「この一週間、すっごーく、すっごーく楽しかったでし!」
「おう」
「久しぶりに、ちゃんとしたご飯を誰かと話しながら食べられたし、いっぱい遊べたし……なんか胸の奥があったかくなったでし」
リリーは胸へ手を当てた。
「これが幸せっていうのかもでし!」
「……そうか」
ライトは笑った。
「幸せかどうかは俺にもまだ分からない。でも、リリーが喜んでくれてよかったよ」
◇
食事を終え、店から出た直後だった。
「そこのマッチョな人! 助けて!」
「ん?」
一人の女性が全速力で走ってくる。
その後ろには、複数の衛兵。
女性はライトの背後へ隠れた。
「衛兵の人たち~。何でこの人追いかけてるんだ?」
「その旅人は、この国で幸せを求める発言だけでなく、実際に幸せを見つけるための行動まで行った!」
「は?」
「国法により処刑する! その女を渡せ!」
ライトの後ろには女性とリリーがいる。
リリーはライトの服を掴んでいた。
「なあ」
ライトは衛兵を見る。
「ずっと気になってたんだけど、この国の人たちにとって、幸せって何なんだ?」
「幸せ?」
衛兵が怒鳴る。
「そんなものは知らない! 知る必要がないと王がおっしゃっている!」
「…………」
「早くその女を渡せ!」
衛兵たちが武器を抜いた。
「……悲しい奴らだな」
ライトは手を向けた。
温かい湯へ浸かった日の記憶を思い浮かべる。
「お風呂気持ちいい雷――リフレッシュ・ライトニング!」
雷が走る。
「ぐああっ!」
衛兵たちはその場へ倒れた。
命に別状はない。
「あっ」
ライトの顔が固まる。
「やっべ。守備兵長のおっさんとの約束、破った」
「か、雷!?」
背後の女性が叫んだ。
「とりあえず、俺だってバレないように変顔しとくか」
「もう顔見られてるから無駄でし!」
「確かに!」
「とにかく逃げよう!」
女性に急かされ、ライトは二人を連れてその場を離れた。




