一章五話 笑わない少女
三人は中心街から離れた場所にあるリリーの家まで逃げた。
周囲に追っ手がいないことを確認する。
女性がライトへ頭を下げた。
「名前も知らないマッチョさん、本当にありがとう! 私、ルナ・ナイト・メアル! ルナって呼んで!」
「俺はライト・ザック・バーナル! ライトでいいぞ!」
「あたしはリリー・フロスティ! 九歳! リリーって呼んでねでし!」
「ライトとリリーちゃんね! よろしく!」
ルナの声は明るい。
身振り手振りも大きい。
しかし――表情だけが全く動いていなかった。
「ルナは何で追われてたんだ?」
「私は幸せになるために、自分の呪いを解きたいの」
「呪いを?」
「神託の内容からして、たぶん『真実の愛』ってやつを知る必要があると思っててさ。だから色んな国を旅して、私に真実の愛を教えてくれる伴侶を探してるってわけ!」
やはり声は異様なほど明るい。
でも真顔。
「ほーなるほど」
ライトは腕を組む。
「肉食清楚系パッションガールって感じだな」
「何それ?」
「ヴォルケニア島で使ってた褒め言葉みたいなもんだ。明るくて、勢いがあって、綺麗で可愛い女性を指す!」
「そりゃどうも」
「たださ」
「何?」
「笑った方がもっと可愛いんじゃないか? その方が伴侶も見つかりやすそうだし」
「あー」
ルナは軽い調子で答えた。
「私の呪い、笑うと寿命が減るの」
「…………」
「糞みたいな呪いでしょ? 今も心の中ではニッコニコで二人と話してるつもりなんだけどね」
「……悪い」
「いいっていいって!」
「でも、笑わなくても十分モテそうな顔してるし、真実の愛ってのを見つけて、いつか呪い解けるといいな!」
「ありがと」
ルナはライトをじっと見る。
「ねえ、どう? ライト君、私と一旦付き合ってみたりする?」
「それはハレンチだあああああ!」
ライトの顔が真っ赤になる。
「良くない! 非常に良くなあああい! 付き合うなら、お互いもっと深く知ってからだ!」
「うわ。めっちゃ暑苦しい……」
「何!?」
「やっぱ無しかも…」
「判断早すぎない!?」
「デーシッシッシッシッ!」
リリーが笑った。
「リリーちゃん、笑い方かわいいねえ」
ルナはリリーの頭を撫でる。
「それとね。さっきの大人たちは、幸せなんて知る必要がないって言ってたけど、そんなことないからね」
「そうなの?」
「他の国でそんなこと言われたことないよ。そもそも、人は幸せになるために生きたっていいんだから」
リリーの目が輝いた。
「あたしも、幸せになっていいでし!?」
「もちろん」
「じゃあ、あたしも幸せって何か知りたいでし!」
その言葉を聞いたライトは、ダンベル村を思い出した。
フィーナ。
村のみんな。
自分は幸せを探す旅へ出る前に、大切なものをたくさん受け取った。
なら、リリーにもその自由があっていいとライトは思った。
「うっし!」
「何?」
「この国でも、自由に幸せを探せるようにするか!」
「は?」
「ちょっと待ってろ、リリー!」
ルナが嫌な予感を覚えた顔で尋ねる。
「……どうするつもり?」
「とりあえず、王様にお願いしてみる」
「は?」
「守備兵長って肩書きのおっさんもいい人だったし。まず話してみる!」
「無理に決まってるじゃない!」
「できる!」
ライトはその場で腕立て伏せを始めた。
「気合い! 努力! 根性! フン! フン! フン! フン!」
「馬鹿らしい……」
ルナはため息を吐いた。
「とりあえず、助けてくれたことは本当にありがとう。またどこかで会えたらよろしくね」
立ち去ろうとする。
その袖を、リリーがそっと掴んだ。
「ルナちゃん……もう少し一緒にいてほしいでし……」
「…………」
その瞬間。
ルナの頭の中へ、直接感情が流れ込んできた。
――寂しい。
――また一人になる。
――嫌だ。
――もっと一緒にいたい。
ルナは一瞬、警戒する。
精神支配系の能力か。
しかし、リリーを見る。
少女は俯き、涙を必死に堪えていた。
「あー……」
ルナは頭を掻いた。
「用事思い出しちゃった」
「?」
「街には戻れないし、しばらくリリーちゃんの家に泊まってもいい?」
リリーの顔がぱっと明るくなる。
「うん! いいよ! 嬉しいでし!」
リリーの能力は、触れた相手へ自分の感情を共有すること。
言葉にできない感情を、相手へ届けられる能力だった。
「フン! フン! フン!」
見ると、ライトはスクワットへ移行していた。
「リリーちゃん。あの筋肉は放っておいて家で遊びましょ」
「うん! ライトも休憩中は遊びに来てね!」
「おう! インターバル中は行く!」
「フン! フン! フン!」
◇
翌朝。
ルナが目を覚ますと、ライトの姿がなかった。
「……あの筋肉、どこ行った?」
隣ではリリーがまだ眠っている。
外へ出る。
遠く、城のある中心街から騒ぎ声が聞こえてきた。
「…………」
ルナは嫌な予感しかしなかった。
「絶対あいつだ……」




