一章二話 幸せを禁じられた国
街を囲む巨大な城壁まで来ると、門の前に鎧を着た男が立っていた。
「止まれ。見かけない服装だな。何の用だ?」
「冒険の旅に出てるから、この国に寄りたいんだ!」
ライトは胸を張った。
「なら旅人証を見せろ。世界同盟加盟国なら発行されているだろ?」
「ん? 旅人証?」
ライトは首を傾げる。
「そんなもの聞いたことねーぞ。旅人になるのに証なんているのか?」
男が眉をひそめた。
「お前……世界同盟加盟国の人間じゃないな? どこ出身だ?」
「今もあるか分からないけど、ヴォルケニア島のパッション村。あと、心の故郷は神の捨て場所にあるダンベル村!」
「ヴォルケニア島だと!?」
男の目が大きく開く。
「あそこは八年ほど前、大地震の影響で火山が噴火して、島民ごと消滅したと聞いているぞ。それに神の捨て場所だと? 危険度A級以上の猛獣が何匹もいるせいで、誰も近寄らない場所じゃないか」
ライトを上から下まで見る。
「……怪しいな」
「怪しくない怪しくない! ほら、この筋肉見て!」
ライトは右腕を曲げ、自慢の上腕二頭筋を見せた。
「むむっ?」
男の表情が変わる。
「……なかなか鍛え上げられた腕だな」
「だろ! おっさんも鎧で隠れてるけど、いい筋肉してるのビンビン伝わるぜ!」
「ほう」
男は少しだけ胸を張った。
「お前、なかなか話が分かるな」
「やっぱり?」
「だが、筋肉だけで入国させるわけにはいかん」
「そりゃそうか」
「旅の目的は何だ?」
ライトは少し考えてから答えた。
「自分にとっての幸せが何なのか知りたいんだ」
「幸せ?」
「世界を回って、いろんなものを見て、いろんな人に会ってさ。その中で、自分が一番幸せだと思えるものを探したい」
男の表情が僅かに強張った。
周囲を確認し、声を落とす。
「……その言葉、この国へ入ったら大きな声で言わない方がいい」
「なんで?」
「俺も思うところはある。だが……」
男は城の方へ視線を向けた。
「王に仕える身としては、これ以上は言えん」
「そっか」
「それとこの国は人手不足でな。本来は城の守備兵長をしている俺まで、門番に駆り出されている。普段なら旅人証のない者を俺の一存で通すことはできんが……」
男はライトを見た。
「最低限の身体検査と能力検査を受けてもらう。それで問題がなければ、緊急用の特別通行許可証を発行してやる」
「マジか! ありがとう、おっさん!」
「まだ通すとは言ってない!」
一通りの検査が終わる。
最後に、男がライトの正面へ立った。
「一つ質問する」
「おう」
「この国で能力を使い、国を陥れたり、悪事を働いたりするつもりはあるか?」
「全っ然ない!」
男は数秒、ライトの顔を見つめた。
そして頷く。
「合格だ」
「お?」
「俺の能力は、質問に答えた相手が本心からそう思っているかを判断できる。少なくとも今、お前にこの国を害する意思はない」
「便利だな、それ!」
「よし。これを持っていけ」
男は紙で作られた通行証を渡した。
「特別通行許可証だ。一週間だけ滞在を許可する。それから……さっき聞いた『幸せ』って言葉は聞かなかったことにしてやる」
「ありがとな!」
ライトは通行証を受け取る。
「今度、合同トレーニングしようぜ!」
「考えておく」
男はため息交じりに笑った。
「ただし、その通行証には保証人が必要だ。今回は俺が保証人になっている。お前が問題を起こせば、最悪の場合、俺の首が飛ぶ」
「…………」
「その顔は何だ」
「絶対に問題起こさない!」
「今、ちょっと間があったな?」
「気のせい!」
男は大きくため息を吐いた。
「では改めて。この国――エリシア王国での旅が、お前にとって良いものになるよう祈っている」
「おう! ありがとう、おっさん!」
ライトは大きく手を振り、門をくぐった。
◇
「おお~!」
エリシア王国へ入ったライトは、再び目を輝かせた。
石造りの建物。
ダンベル村にはなかった大きな商店。
統一された街路。
「やっと異国に来たって感じだなあ!」
辺りを見回す。
「一週間しかいられないし、とりあえず宿でも――」
そのとき。
ぽすっ。
「ん?」
膝に何かがぶつかった。
同時に、不意に胸の中へ感情が流れ込んでくる。
寂しい。
一人は嫌だ。
誰かと話したい。
「……?」
足元を見る。
そこには、小さな少女が立っていた。




