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一章一話 幸せになる!

 森を無事に抜けたライトは、目の前いっぱいに広がる草原と青空を見て目を輝かせた。


「すっげー……! 久しぶりに、こんな広い青空見たなあ!」


 振り返る。


 ライトが八年間暮らした『神の捨て場所』は、右を見ても左を見ても果てが分からないほど巨大な森だった。


「俺、こーんなに大きな森の中にある村に住んでたのかあ……」


 ダンベル村の人々の顔が浮かぶ。


 フィーナ。


 オルテ。


 ピーナ。


 毎日のように一緒に鍛えた村人たち。


 ライトは森へ向かって大きく手を振った。


「またいつか、みんなに会いに行こう!」


 そして森へ背を向け、どこまでも続く草原へ向かって叫ぶ。


「俺は幸せを見つけて、幸せになる! 冒険に出発だあああ!」


 行き先は決めていない。


 まずは真っすぐ歩いてみよう。


 そう考えて草原を進んでいると、突然、ライトの身体が巨大な影に覆われた。


「ん?」


 空を見上げる。


 そこには、鳥のような翼を持ちながら、頭には角を生やした巨大な生物が飛んでいた。


「うおっ! なんじゃありゃあ! すっげー! かっこいいー!」


 ライトは子どものように目を輝かせた。


 その大声が聞こえたのか、空を飛んでいた生物が急降下してくる。


「うおっ!? 何すんじゃ!」


 鋭い角がライトのすぐ横を通り過ぎた。


 ライトは身体を捻ってかわす。


 もう一度。


 また一度。


 巨大な生物は何度も地面すれすれまで降りてきて、ライトの横を通り抜けていく。


 その生物にとっては、久しぶりに見つけた人間と戯れているつもりだった。


 しかし、そんなことをライトが知るはずもない。


「そおおおい!」


 再び角をかわした。


 だがその瞬間、ライトが背負っていた旅の鞄の紐が角へ引っかかった。


「あっ!」


 鞄が空へ持っていかれる。


「マジかよ! 返してくれ!」


 巨大な生物が再び低空まで降りてくる。


 ライトはその瞬間を狙って地面を蹴った。


「とうっ!」


 背中へ飛び乗る。


 そのまま頭の角へしがみつき、引っかかった鞄へ手を伸ばした。


『ガオオオオオオオ!』


「暴れんなああああ!」


 生物は激しく身体を揺らしながら空へ舞い上がる。


 ライトは必死に角へしがみついた。


 雲を抜ける。


 その瞬間――。


「うひょおおおお!」


 ライトは先ほどまでの恐怖を忘れ、目の前の景色に目を奪われた。


 眼下には、どこまでも続く草原。


 遠くには森。


 さらに向こうには川が光り、その先には巨大な城壁に囲まれた街らしきものまで見える。


「空、綺麗すぎだろ! おっ、あんなところに国みたいなのあるぞ!」


 ライトは生物の頭をぺちぺち叩いた。


「おい! 悪いんだけど、あそこの国まで行ってくれない?」


『ガオオオオオオオ!』


 咆哮。


 直後、ライトの身体が後ろへ持っていかれるほどの勢いで、生物は街の方向へ加速した。


「お前、ツンデレなの!? 怒ってるのか、お願い聞いてくれてるのか、どっちなの!?」


 やがて街が近づいてくる。


「おお、ほんとに連れてってくれ――」


 ライトの声が止まった。


 生物は速度を落とさない。


 むしろ城壁へ向かって、さらに加速していた。


 しかも、自分はぎりぎり城壁を越えられる高さを飛びながら、背中に乗ったライトだけを壁へ擦りつけるように身体を傾け始める。


「おい!? 仲良くしてくれてたんじゃないのかよ! このまま行ったら俺だけじゃなくて、壁までぶっ壊れて街に被害出るだろ!」


 ライトは慌てて頭を叩いた。


「ごめんって! ここで降ろしてくれ!」


 巨大な生物が振り返る。


 口元が、僅かに吊り上がった。


「お前……今笑っただろ!?」


 速度は落ちない。


「くっそ! 友達だと思ったのに!」


 城壁が目前へ迫る。


「……人の命には代えられない。恨むなよ!」


 ライトは片手を生物へ向けた。


 頭に浮かべる。


 八年ぶりに森の外へ出た瞬間。


 どこまでも続く草原。


 青空を見上げたとき、胸の奥から湧き上がった感動。


 これから何が待っているのか分からない。


 それでも、世界を旅できることが嬉しかった。


「ワクワクした雷――エキサイテッド・ライトニング!」


 轟音。


 放たれた雷が巨大な生物を直撃した。


『ガアアアアアッ!』


 身体が大きく揺らぎ、城壁へ衝突する直前で進路が逸れる。


 そのまま街の外側にある草原へ落下した。


 ライトも地面を転がる。


「いててて……」


 起き上がったライトは、すぐに生物へ駆け寄った。


 角の一部が折れ、身体の一部が黒く焦げている。


 呼吸はしていた。


「ご、ごめん! やりすぎた! でも、お前あのまま街へ突っ込んでたら大変なことになってたかもしれねえぞ! お前も気をつけろよな!」


 鞄から傷薬を取り出す。


 量が全く足りない。


 それでもライトは、持っていた分をすべて生物へ塗った。


「ほら、これで……っと」


 生物は抵抗せず、ライトをじっと見つめていた。


 やがて、ゆっくりと立ち上がる。


「うっし! 動けるな!」


 ライトは満面の笑みを向ける。


「傷薬も全部使ったから、あとは気合いだ! 気合い!」


 生物はライトをしばらく見つめた後、身体を大きく震わせた。


 数枚の鱗が地面へ落ちる。


「ん?」


 そして、生物はまだ少しふらつきながら空へ飛び上がった。


「これ、くれるのか?」


 返事はない。


 やがて遠くへ消えていく。


「……ありがとな!」


 ライトは背中へ一礼し、地面に落ちていた鱗を拾った。


「初めての旅の思い出だな」


 鱗を鞄へしまう。


 そして、先ほど空から見えた街へ歩き始めた。


 ふと、空を見上げる。


 青い。


 どこまでも青い空だった。


「…………」


 ライトは首を傾げた。


 さっきまで、あれほど胸を震わせていたはずなのに。


 なぜ自分が青空を見て、あれほど感動していたのか。


 もう、よく分からなくなっていた。


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