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0章六話 雷少年の旅立ち

 村へ戻ると、ピーナはオルテの姿を見つけ、泣きながら抱き締めた。


「オルテ! 心配したんだから!」


「母さん、ごめんなさい……!」


「本当に、本当に無事でよかった……!」


 ピーナは何度もオルテの頭を撫でた。


 それからライトへ、涙を流しながら頭を下げる。


「ライト、ありがとう。本当にありがとう……!」


「いいって、いいって。無事でよかった」


 フィーナも安堵の息を吐いた。


「デビルウルフに会う前に見つけられたんだね。よかったさ」


「違うよ、フィーナおばあちゃん」


 オルテが泣きながら口を挟む。


「俺、デビルウルフの群れに囲まれて、主に殺されそうになってたんだ。ライト兄が助けてくれたんだよ」


「主を……?」


「主の攻撃を片手で止めたんだ。俺、ライト兄があんなに強いなんて知らなかった」


 フィーナは驚いた顔でライトを見つめた。


「いつの間に、そんなに強くなったんだい……」


「あ、そうだ」


 ライトはポケットからデビルウルフの爪を取り出し、オルテへ渡した。


「これ、やるよ」


「いいの……? 助けてもらった上に、これまで……」


「自然に抜け落ちた爪だ。綺麗だろ? ピーナへのプレゼントに使えよ」


 オルテは輝く爪を、両手で大切そうに受け取った。


「ありがとう、ライト兄……!」


「その代わり、オルテ」


 ライトは少年の目を見つめる。


「母親を守りたいって気持ちは立派だ。でも、一人で全部背負おうとするな。強くなりたいなら、まず生きて帰れる方法を考えろ」


 オルテは俯いた。


「……うん」


「あとな、気が向いたらでいい。トレーニングを続けて、この村の人たちが少しでも安心して森の外側へ行けるくらい強くなってくれ」


 オルテは爪を胸へ抱き、大きく頷いた。


「分かった! 絶対に約束を守る!」


 ライトは笑顔を向けると、フィーナへ振り返った。


「フィーナ。俺、この村を出ていくよ」


 周囲にいた村人たちが静かになる。


「みんなを嫌いになったわけじゃない。この村は大好きだ。でも、自分にとっての幸せが何なのかを知るために、世界を旅してみたいんだ」


 ライトは森の外側へ目を向けた。


「そのために、ずっと鍛えてきた。今日、デビルウルフの主と戦って、自分なら森の外へ出られるって自信がついた」


 フィーナは驚かなかった。


 どこか寂しそうに、それでも優しく笑う。


「あんたが森の外へ出たがっていたことは、ずっと前から気づいていたさ」


「知ってたのか?」


「知らないと思っていたのかい。古ーい地図を眺めたり、旅の食料を少しずつ用意したりしていたじゃないか」


 ライトは気まずそうに頭を掻いた。


「ばれてたのか……」


「だから、あれだけトレーニングを続けていたんだろう?」


 フィーナは小さく息を吐いた。


「行くといいさ。ただし、今日はまだ村にいな。あんたの好物をたくさん作って待っていたんだからね」


 ライトは満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう! めっし、めしー!」


「最後の夜くらい、もう少し感動的にしなさ」


 フィーナとライトは、並んで家へ帰った。


 その夜、二人は遅くまで思い出を語り合った。


 初めて出会った日のこと。


 一緒に狩りへ行ったこと。


 森で珍しい虫を捕まえたこと。


 フィーナの誕生日に、ライトが拙い字で手紙を書いたこと。


 どれも、ライトにとって大切な幸せの記憶だった。


     ◇


 翌朝。


 旅支度を整えたライトが家を出ると、村人全員が見送りに集まっていた。


「ライト! 寂しくなるな!」


「俺たちのこと、忘れるなよ!」


「また帰ってくるんだろうな!」


「お土産を楽しみにしてるぜ!」


 ライトは笑いながら、村人たちへ何度も手を振った。


 その中には、片手にダンベルを持ったオルテの姿もあった。腕を曲げ伸ばししながら、声を張り上げる。


「ライト兄! 約束は守るよ!」


「早速始めたのか! いいぞ、オルテ! 気合いだ!」


 ライトは村を囲む結界の端、森との境界まで歩いた。


 そこにはフィーナが待っていた。


「おう、馬鹿息子」


 笑おうとしていたが、涙を堪える顔はぐしゃぐしゃになっていた。


「身体には気をつけるんだよ」


「うん」


「新しい居場所を見つけても、大切な人ができても、帰りたくなったらいつでも帰ってきな」


 フィーナは震える声で続けた。


「ここも、ずっとあんたの居場所なんだからさ」


 ライトは目元を拭った。


「分かった」


「あんたが本当の幸せを見つけられるように、この村から祈っているさね」


「ありがとう、フィーナ」


 ライトは振り返り、村人全員へ向かって声を張り上げた。


「フィーナ! 村のみんな!」


 涙を浮かべながら、それでも笑った。


「今まで、ありがとう! 俺を拾ってくれて! 俺の心に優しさをくれて!」


 深く頭を下げる。


「長い間、お世話になりました!」


 顔を上げ、大きく手を振った。


「またな!」


 ライトは結界を越え、森の外へ向かって歩き出した。


 その背中が見えなくなるまで、フィーナとダンベル村の人々は手を振り続けた。


 こうしてライトは、自分にとっての本当の幸せを探す旅へ歩き出した。

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