第四章八話 復讐のための修行
ライトの怪我は大事には至らず、翌日には軽い散歩ができるまで回復した。
時折、街中でサブローの姿を見かけることがあった。
「…………」
「…………」
目は合う。
だが、二人が言葉を交わすことはなかった。
◇
「ほらそこ!」
シノノメ道場。
「まだまだ甘いぞお!」
「くそ……!」
サブローが構える。
「難しいなこれ……」
「いやいや!」
弟子の一人が近づく。
「サブローさん、ほぼ初見でそこまでできるの凄いですよ!」
「ありがとう、ラン」
サブローは息を整える。
「でも時間がないからね……」
「これ、飲み物置いときますね!」
「ラン!」
シノノメが叫ぶ。
「甘やかすな!」
「はーい」
「でもさ、師匠もさ」
もう一人の弟子が笑う。
「さっき、いつもより休憩用の飲み物多く買ってきてたよね?」
「バリ!」
シノノメが振り返る。
「余計なこと言うな!」
「うっしっし」
「へーい」
ランとバリは、シノノメの側近と言ってもいいほど腕の立つ弟子だった。
出会って間もないサブローにも、いつの間にかよく懐いていた。
「いや〜」
シノノメが笑う。
「サブロー、熱いよ!」
「熱い熱い!」
「年齢の割にその熱さ!」
「うるせえ」
「何にそんなお熱なのよ?」
「家族を殺された復讐」
「…………」
「アイツは、この国の王らしいけどね」
「……」
「関係ない」
サブローの目が鋭くなる。
「絶対殺してやる」
「こっえ〜」
シノノメは笑った。
そんなサブローを見ているうちに、シノノメも何かを追いかける熱を久しぶりに思い出していた。
◇
修行開始から数日後。
「サブロー!」
「何?」
「お前、歴代で一番筋がいい!」
「そりゃどうも」
「だから!」
シノノメが笑う。
「奥義を教えてやる!」
「えー!」
ランとバリが叫ぶ。
「私には!?」
「俺にもー!」
「お前たちはまだまだ駄目だ」
「ケチ!」
「師匠のケチ!」
「ふふ……」
サブローが小さく笑う。
「お」
シノノメが目を丸くする。
「初めて笑ったな」
「…………」
「オイラの奥義は」
シノノメの表情が変わった。
「ただ形を真似するだけじゃ完成しない」
「へえ」
「自分自身と向き合う必要がある」
「……」
「怒り」
「悲しみ」
「恐怖」
「幸せ」
「自分の全部と向き合えた時」
シノノメは構えを取る。
「この奥義は、どんな状況でも一撃必殺の型になり得る」
「必殺ね……」
「普段の修行に加えて」
「うん」
「奥義の形」
「精神」
「全部鍛えるぞ!」
「それで野望を達成できるならな」
「よし!」
「では早速取り掛かるぞ!」
◇
シノノメ流武術。
シノノメ流剣術。
怒りで目を閉じても戦えるよう、気配を読む修行。
そして奥義。
サブローの日々は、あっという間に過ぎていった。
◇
「うむ」
ある日、シノノメが腕を組む。
「形は全部できるようになったな」
「そうか」
「後は心の部分だけだ」
「…………」
「分かってるさ」
サブローが目を閉じる。
「分かってる……」
座禅を組む。
そして、幸せだった頃を思い出した。




