三章十四話 笑いたいから笑う
ライトたちがアルテミア王国から旅立つ日。
「ライト、サブロー」
「最後に一か所寄りたいところがあるんだけど……いい?」
「いいぞ!」
ライトが即答する。
「エデルさんのリンゴ農園だろ?」
「おじさん、何で分かったの……」
「おじさんの勘」
「嘘」
「はい」
サブローは笑う。
「ルナちゃんのことだから、最後に会いに行くと思ってさ。前に場所聞いといた」
「……ありがと」
「りんごって何筋にいいんだったっけ?」
ライトが真剣に考える。
ルナはその横顔を見る。
「うん」
「何?」
「今日もいつものライトだなって」
「褒めてる?」
「多分」
◇
三人はエデルのリンゴ農園へやってきた。
畑の脇には、画材や紙、筆、描きかけのスケッチが置かれている。
「エデルさん!」
「おお!」
エデルが振り返る。
「ルナ!」
「保護者のサブローさん!」
「まだそれ言う?」
「あと……」
エデルがライトを見る。
「筋肉の……」
「ライト・ザック・バーナルだ!!!」
「そう! ライト君!」
「どうしたの?」
「僕に何か用?」
「この間」
ルナが少し視線を逸らす。
「戦ってる時に『後で話がある』って言ったまま、何も言わずこの国を出るところだったから」
「ああ」
「それね」
「……私」
ルナは頭を下げた。
「謝りに来た」
「?」
「最初に会った時」
「エデルさんへ酷いこと言ったから」
「夢が叶わなくても幸せにはなれるって、この国に来て、私なりに少し理解できた」
エデルは笑った。
「この前の戦いで叫んでたから知ってるよ」
「……」
「熱かったね〜」
「若さがビシビシ伝わってきた」
「馬鹿にしてます?」
「してない、してない」
エデルは笑いながら首を振る。
「感情をちゃんと出せるって、すごいことだよ」
「…………」
「それに」
「僕もルナを見て、もう一度進んでみようって思った」
「え?」
エデルが画材を指差す。
「僕の呪いはね」
「自分の絵が完成しても、それを『完成した』と正しく認識できない」
「…………」
「どれだけ描いても、どこか足りないように見える」
「だから何度コンクールへ出しても、自分で自分の絵を信じられなかった」
「それで夢を諦めたんだ」
エデルは少し笑う。
「でも」
「今回のことがあって」
「カノイにも背中を押された」
「もう一度」
筆を持つ。
「本気で挑戦してみるよ」
「…………」
「ありがとう、ルナ」
「お礼なんて」
ルナは少し照れたように目を逸らす。
「別に……」
「ああ〜!」
遠くから女性の声がした。
「この間助けてくれた人たち!」
「カノイ」
「ちょうどいい!」
カノイが籠を抱えてやってくる。
「良かったら、うちのリンゴ持っていってください!」
「マジで!?」
ライトの目が輝く。
「ありがとう! エデルの奥さん!」
「カノイです!」
「ところで!」
「はい?」
「りんごって何の筋肉にいいんですか!?」
「え?」
カノイは少し考える。
「特定の筋肉っていうより、身体の疲労回復を助けたり、筋肉作りにもいい食べ物ですよ」
「…………」
ライトの瞳が輝く。
「最高やんけ……!」
「いや」
サブローがツッコむ。
「答えられるんかい」
「リンゴ農園の園長ですから!」
皆の笑い声が広がった。
ルナも、口元を押さえなかった。
この笑顔で、寿命が少し減るかもしれない。
それでも今は、笑いたかった。
ルナは心から笑った。
◇
三人はエデルたちのリンゴ農園を後にした。
「じゃあな!」
「またね!」
「元気で!」
アルテミア王国を出る。
ライト、ルナ、サブロー。
三人の旅は、また次の国へ続いていく。




