三章九話 夢が叶わなかったとしても
ある日の夕食前。
玄関の呼び鈴が鳴った。
「私出る!」
ルナが扉を開ける。
「よ!」
「お邪魔しまーす」
「ライト!?」
「サブロー!?」
「何で二人ともここ知ってるの?」
ライトが首を傾げる。
「何言ってんだよ」
「え?」
「ずっとこの国で一緒に育ってきただろ?」
「…………」
「今日はルナのお母さんに晩飯呼ばれたんだよ!」
サブローも紙袋を持っている。
「俺まで呼んでもらっちゃって、すみませんねえ」
「これ、食後にみんなで食べられたらと思って」
「そうだったっけ……?」
「まあ、いっか!」
ルナは笑った。
「二人もいた方が楽しいし!」
「お邪魔しまーす!」
「早く飯食おうぜ! すげえ良い匂い!」
「じゃあ、おじさんも失礼して……」
「いらっしゃい!」
母が迎える。
「ライト君、サブローさん。久しぶり」
「今日は賑やかになりそうだな!」
父も笑った。
◇
その日の夕食は、ルナの人生で一番と言っていいほど楽しかった。
父。
母。
ライト。
サブロー。
大切なものが全部ある。
何も失っていない。
◇
夕食後、皆で雑談をしていると、ライトが言った。
「いや〜」
「何?」
「ルナって、笑ってる顔、本当にいいよな!」
「は?」
「キラキラしててよ!」
「よく親の前でそんな恥ずかしいこと言えるね……」
「そうか?」
「本当のことだろ?」
ライトは笑う。
「てか」
「笑ってないとルナじゃないしな!」
「…………」
ルナの表情が止まった。
「何?」
「前に言ってたことと違くない?」
「前?」
「俺はずっと、笑ってるルナしか知らねえけど」
「…………」
その瞬間、現実のライトの声が蘇った。
『もし夢が叶わなくてもさ』
『俺は、笑ってないルナも嫌いじゃないぜ』
「……あ」
エデルに言われた言葉も蘇る。
『夢を諦めた人間は、その瞬間から不幸なのかい?』
『夢が叶わなかったとして、途中で出会った君の隣の二人まで全部無価値になるのかい?』
「…………」
ルナはライトを見る。
サブローを見る。
父を見る。
母を見る。
「無価値じゃない」
「え?」
夢のライトが首を傾げる。
「全然、無価値じゃない」
ルナは胸へ手を当てる。
「私、分かった」
ここには父も母もいる。
笑える。
呪いもない。
ライトもサブローもいる。
ずっと欲しかった理想が、すべて揃っている。
「このままここにいた方が幸せなのかもしれない」
それでも、現実の二人はここにはいない。
自分が傷ついて。
怒って。
間違えて。
笑えなくて。
それでも、一緒に旅をしてきた。
あの時間は。
「夢が叶ってないからって」
ルナは目を閉じる。
「無価値になったりしない」
夢のライトが尋ねる。
「ルナどうした?」
「ライト!」
「何?」
「あんた、夢の中だと本物より気合い足りてないよ!」
「どういうこと!?」
「サブロー!」
「はい?」
「現実の方が顔カッコいい!」
「はい!?」
ルナは父と母を見る。
「お母さん」
「お父さん」
「何だい?」
「大好きだったよ」
「…………」
「ずっと会いたかった」
涙が流れる。
「ここにずっといたいって、本気で思った」
両親は優しく笑う。
「でも」
「私、戻るね」
「…………」
「笑えなくなっても」
「そんな私を嫌いじゃないって言ってくれる人に出会ったんだ」
涙を拭う。
「夢が叶わなかったとしても」
「今の私の人生にも、ちゃんと幸せがあるって分かったから」
「お父さん」
「お母さん」
「今までありがとう」
「どうか二人にも」
ルナは笑う。
「幸せが来ますように」
両親が微笑み返す。
世界が光に包まれた。




