三章六話 呪われた笑顔
「パパー! ママー!」
幼いルナが走る。
「おはようのぎゅー!」
「おー! ルナ! 今日も元気だなあ!」
父が娘を抱き上げる。
「ふふふ。今日も可愛いわね、ルナちゃん」
「えへへへへ!」
両親は声を揃えて叫んだ。
「特に笑顔が天変地異レベルにキュートだあああ!」
◇
五歳の頃のルナは、よく笑う子だった。
「ルナちゃん、今日も笑顔が素敵ね〜」
「ありがと〜!」
近所でも「笑顔の可愛い女の子」として知られていた。
毎日笑った。
毎日家へ帰った。
大好きな父と母がいた。
「ただいま〜!」
「おかえり〜! マイエンジェル・ルナ!」
「ご飯できてるよ〜」
「わーい! 手洗ってくる〜!」
いつもと変わらない。
それが幸せだった。
◇
「そういえば、ルナ」
食事中、父が言った。
「そろそろ六歳だろ?」
「うん!」
「ぼちぼち、自分の能力や呪いについて知り始めた方がいいかもしれないな」
「能力!」
「ルナのことだから、素敵な能力に違いないけどな!」
「はっはっは!」
母も笑う。
「ナイト・メアル一族には、昔から眠りや夢に関係する能力や呪いが多いそうよ」
「じゃあ私!」
ルナは目を輝かせた。
「みんなに幸せな夢を見せてあげられる能力がいい!」
「我が子、天使すぎる……!」
◇
そして、六歳の誕生日。
「ハッピーバースデー、ルナ!」
「六歳のお誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」
「ケーキの火、消していい?」
「いいよ!」
「ふーっ!」
蝋燭の火が消え、両親が拍手する。
「わー!」
「あ!」
ルナが思い出したように言った。
「パパ、ママ。能力か呪いか分からないけど、最近数字を覚えたから気づいたことがあるの!」
「何だ何だ?」
「集中するとね、頭の中に数字が浮かぶの」
「数字?」
「ずっと前からあったみたい!」
「へえ」
「それでね!」
ルナは嬉しそうに笑った。
「私が笑うと、数字が減るの!」
「…………」
「昔は八十二とかだった気がするんだけど、今は三十一なの!」
両親の表情が固まった。
「ルナ」
父が慎重に尋ねる。
「その数字が何か、分かるか?」
「分からなーい」
「……そうか」
父はルナを抱き締めた。
「明日、病院へ行こう」
「何で?」
「念のためだ」
母の顔色が悪い。
ルナには理由が分からなかった。
ただ、二人を安心させたくて。
「大丈夫だよ!」
笑った。
頭に浮かぶ数字が、また減った。
母が小さく息を呑んだ。
◇
翌日。
検査によって、六歳の子どもとは思えないほど、ルナの骨や内臓が消耗していることが分かった。
このままの速度で身体が傷み続ければ、三十歳前後まで生きられるかどうか。
医師は、そう告げた。
父と母は娘を強く抱き締めた。
◇
一年後。
父は旅へ出た。
呪いを解く方法。
延命の薬。
神託についての情報。
娘を救えるものを探すため。
「絶対戻ってくるからな!」
「うん!」
「パパ、頑張って!」
ルナは笑った。
それが、父を見た最後だった。




