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三章五話 夢集会

 夢集会当日。


 会場はアルテミア城の大広間だった。


 ルナは受付を済ませた日から、ずっとどこか上の空だった。


 ライトも、そんな彼女を見ながら何度も言葉を飲み込んでいた。


 この集会に参加すれば、本当にルナの呪いが解けるのか。思いっきり笑えるようになるのか。


 保証はどこにもない。


 それでも、笑うことを我慢し続けてきたルナを横で見ていると、簡単には否定できなかった。


 サブローはエデルの忠告が頭から離れず、会場へ入ってからも周囲を警戒していた。


「あ、あの人は……!」


 ルナが一人の男を見つけた。


「貴方!」


 険しい顔で駆け寄る。


「何でここにいるの!?」


「君は……ルナだっけ?」


「そうよ!」


「僕は妻を探しに来ただけ」


「奥さん?」


「先月この集会へ参加したまま、帰ってこないんだ」


「…………」


 サブローも二人へ近づく。


「エデルさん。来てたんですね」


「あ、ルナの保護者の人」


「保護者じゃない!」


 ルナが即座に否定する。


「旅の仲間!」


「はいはい」


 サブローは苦笑する。


「ルナちゃん。ちょっと頭冷やしてきなよ」


「何で?」


「今から夢叶えに行くんだろ?」


「そうだけど」


「そんなイライラしたまま叶っても、素直に喜べないぞ」


「…………」


「ライト。ちょっとルナちゃん連れて離れててくれ」


「へいへい」


 ライトはルナの背中を押す。


「行こうぜ、ルナ! あっちでドリーム筋トレでも――」


「しない!」


     ◇


 少し離れた場所。


「ルナ」


「何?」


「言おうか迷ってたことがあるんだけどさ」


「これ以上イライラすることは言わないでよね?」


「いや」


 ライトは頭を掻いた。


「もし今日、夢が叶わなかったとしてもさ」


「…………」


「呪いが解けなくて、まだ笑うの我慢しなくちゃいけなかったとしても」


 ルナを見る。


「俺は、笑ってないルナも嫌いじゃないぜ」


「…………」


「それ言いたかっただけ」


「何それ」


 ルナは少しだけ目を逸らした。


「急に気持ち悪い」


「ひでえ!」


「でも……ありがと」


     ◇


 一方、エデルのもとに残ったサブローは、改めて頭を下げた。


「またルナちゃんが熱くなっちゃって、すみません」


「若いって熱いねえ」


 エデルは笑う。


「それより」


「はい?」


「警戒しておいて」


 声を落とす。


「今日、この会場で何か起きる気がする」


「……分かりました」


     ◇


 突然、会場が暗転した。


「!」


 サブローが身構える。


 大広間の中央へ一本の光が落ち、その中に仮面を被った男が現れた。


「レディース・アンド・ジェントルマン!」


 両手を広げる。


「お待たせいたしました〜!」


 芝居がかった声が大広間へ響く。


「本日は、待ちに待った月に一度の夢集会へお越しいただき、誠にありがとうございま〜す!」


 男は仮面へ手を添えた。


「わたくしは司会進行を務めます、王宮画家のユメルと申しま〜す!」


「王宮画家?」


 ライトが呟く。


「ではまず〜」


 ユメルが名簿を取り出す。


「受付時にご登録いただいた皆様のお名前を、順番にお呼びいたしま〜す!」


「名前?」


「呼ばれた方は、元気よく返事してくださいね〜!」


 一人ずつ名前が呼ばれていく。


「ライト・ザック・バーナルさ〜ん!」


「はい!」


「ルナ・ナイト・メアルさ〜ん!」


「はい!」


「サブロー・アングリラさ〜ん!」


「はいよ!」


「全員いらっしゃいますね〜!」


 ユメルは嬉しそうに手を叩く。


「良かったです〜!」


 サブローの表情が険しくなった。


 なぜ、本名を確認する必要がある。


 受付。


 本名。


 返事。


「では皆様には〜」


 ユメルが笑う。


「これから夢を見ていただきま〜す!」


「何?」


「皆さんが一番叶えたい夢が、完全に叶った世界です〜!」


 ルナの目が揺れる。


「その世界を心から捨てて〜」


 ユメルが両手を広げる。


「夢が叶っていない現実へ、自分から戻ることを選べた方だけ、こちらへ帰ってこられま〜す!」


「は?」


「それができなければ〜」


 楽しげな声が響く。


「ず〜っと夢の中です〜!」


「何言ってんだ、テメー!」


 ライトが構える。


「長く夢の中に留まり続けますと〜」


 ユメルは続ける。


「肉体と精神の境界が壊れていき〜、最後は人として死にま〜す!」


「……!」


「そして空になった肉体には〜」


 仮面の奥で笑う。


「わたくしの操り人形として、夢の続きのような人生を送っていただきま〜す!」


「ふざけんな!」


「マッスル――」


 ライトが能力を発動しようとする。


「間に合え!」


 サブローも走り出す。


 ルナだけは、呆然と立ち尽くしていた。


「それでは皆様〜」


 ユメルが両手を構える。


「夢の世界へ〜!」


 ――パン。


「レッツ・ゴ〜!」


 手を叩く音が響いた瞬間、世界が暗転した。



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