0章三話 失われた幸せ
メモリーが目を覚ますと、砂漠の真ん中に倒れていた。
陽炎の向こうには、国らしき建物がぼんやりと見える。
しかし、周囲にライトの姿はなかった。
「ライト……?」
メモリーは勢いよく立ち上がり、辺りを見回した。
「ライト! ライトおおおおお!」
返事はない。
「どこだ! どこにいるううう!」
メモリーは遠くに見える国へ背を向け、砂漠の奥へ駆け出した。
「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが絶対に守ってやるからなあああ!」
国へ向かえば、助かる可能性が高い。
それでも、そちらへ進めばライトから遠ざかってしまう気がした。
メモリーは襲い来る魔物を、ガレスから教わったヴォルケニア式武術で倒しながら、二週間近く弟を探し続けた。
倒した魔物の肉を食らい、地面の状態から水脈を探す。
父から教わったサバイバル術が、彼の命をつないだ。
しかし、その体力もついに尽きる。
「ライト……お兄ちゃんが……必ず……見つけ……」
メモリーは砂の上に倒れた。
意識が途切れる直前、誰かの影が顔へ落ちる。
その人物はメモリーを見下ろし、穏やかな声で言った。
「君、運がいいね。僕に見つけてもらえるなんて」
◇
ライトが目を覚ますと、見知らぬ森の中に倒れていた。
「お兄ちゃん……どこ?」
ライトは震える足で立ち上がり、周囲を見回しながら歩き始めた。
「メモリーお兄ちゃん……!」
草木を掻き分けた先で、巨大な猛獣が姿を現した。
鋭い牙を剥き、ライトへ飛びかかってくる。
「うわああああ! 嫌だあああ!」
ライトは頭を抱えた。
死の恐怖の中、自分を命懸けで逃がしてくれた両親との記憶が蘇る。
父とトレーニングをした記憶。
母の料理を、家族全員で食べた記憶。
笑い声に包まれていた、温かい日々。
「二人が逃がしてくれたのに、死にたくない……!」
ライトは泣き叫んだ。
「お兄ちゃんにも、まだ会えてないのに……!」
次の瞬間、森を揺るがす轟音と共に、巨大な雷がライトと猛獣を包み込んだ。
猛獣は黒焦げになり、その場へ倒れた。
ライトも意識を失い、地面へ崩れ落ちる。
能力の使い方を知らないライトには、消費する記憶を選ぶことができなかった。
生きたいという衝動のまま、両親との幸せな記憶を丸ごと雷へ変えてしまったのだ。




