第三章一話 怒りを水に流す
ライトたちは、次の国を目指して旅を続けていた。
道中、ライトとルナは自分たちの能力や呪いについてサブローへ説明した。
話が一段落したところで、ライトが尋ねる。
「そういえばサブロー。出会った時、『怒りで目が見えねえ!』とか言って目を閉じてたけど、あれ何だったんだ?」
「ああ。あれは俺の呪いだよ」
「呪い?」
「怒りが昂ると、強制的に目が閉じちまう。だから何も見えなくなるんだ」
「マジか〜」
ライトはしばらくサブローの顔を見つめ、突然話題を変えた。
「そういやサブロー、その腕時計どこで買ったんだ?」
「ああ、これ?」
サブローは少し嬉しそうに腕を上げる。
「シンカ王国でいい感じのやつ見つけてさ。ちょっと奮発しちゃったんだよねえ」
「へえ〜、カッケェな」
「だろ?」
ライトは自分の鼻毛を一本引き抜き、そっと腕時計の上へ乗せた。
「時計の針、一本追加〜」
にやにやとサブローを見る。
「…………」
「どう? オシャレ度上がった?」
「ライト……!」
サブローの瞼が閉じた。
「テメー! 何してんだ!!」
「おお!」
ルナが感心する。
「本当に怒った瞬間、目閉じたわ」
「実験成功!」
「ごめんごめん!」
ライトは笑いながら距離を取る。
「で、どうすれば見えるようになるんだ?」
「ったく……こういう悪ふざけは今回だけにしてくれよっと!」
「え?」
次の瞬間、大量の水がライトの顔面へ直撃した。
「あぶぶぶぶぶっ! 冷たっ! 何これ!? 水!?」
ずぶ濡れになったライトの向こうで、サブローはすでに目を開いていた。
「俺は、自分の中にある怒りを『水に流す』ことができる」
「水に流す?」
「ああ。怒りを受け入れて、手放せた分だけ目が見えるようになる。流した怒りの強さに応じて、身体から水を出したり、目で確認できる水を操ったりもできる」
「ほほ〜」
ライトはびしょ濡れのまま頷く。
「分かりやすい能力だな!」
「分かりやすくするために俺を怒らせるな……」
「ごめん、ごめん。でさでさ、神託は?」
「『濁流の先を見届け、青空を映せ』だな」
「かっけえ〜」
「あ〜、そんなことより!」
ルナが二人の会話を遮った。
「早く次の国に着かないかなあ! すっごく楽しみにしてるんだよね!」
「次ってアルテミア王国だっけ?」
サブローが尋ねる。
「そう!」
ルナは目を輝かせた。
「アルテミア王国!」
「何でそんな楽しみなの?」
「国王様が、すっご〜いイケメンで有名なの!」
「お前、まさか国王と結婚できると思って――」
――ゴッ!
ライトの顔へルナの拳がめり込んだ。
「ん……癖になる、この痛み……」
「気持ち悪いこと言わないで!」
ルナは拳を振りながら続ける。
「それにね! アルテミア王国には『夢を叶えられる国』っていう二つ名があるらしいの!」
「へえ」
「私の夢も、ここで叶うかもしれない!」
サブローは優しく笑った。
「そうかい、そうかい。王様と結婚できるかはさておき、ルナちゃんの夢が叶うといいね」
「うん!」
◇
それから、およそ三週間。
三人の前に、アルテミア王国の巨大な門が姿を現した。
「あれだー!」
ルナが叫ぶ。
「門の特徴、前に見た写真と一致してる!」
そのまま凄い勢いで走っていく。
「速っ!」
「夢の国がそんなに楽しみなのかねえ」
「サブロー! 俺たちも行こうぜ!」
三人はミルから受け取った世界同盟共通通行証を使い、問題なく入国した。
◇
門を抜けた瞬間、華やかな街並みが三人の視界に広がった。
曲線を活かした洒落た建築。
色鮮やかな花々。
街角に並ぶ彫刻や絵画。
広場の中央には、細部まで意匠を凝らした巨大な噴水がある。
「おしゃれ〜!」
ルナの瞳が輝く。
「すっげえな」
ライトも辺りを見回した。
「あっちのオブジェ、筋トレに使えそう!」
「やめろ! この街を汗臭くするな!」
「青春の香りと呼べ!」
「まあまあ」
サブローが二人の間へ入る。
「それにしても、本当に綺麗な街だねえ」
その時、一人の老人が声をかけてきた。
「おやおや。旅の人たちかい?」
「はい!」
ルナがすぐに答える。
「ようこそ、アルテミア王国へ。何か叶えたい夢があって来たのかい?」
「そうなんです!」
「そうかい、そうかい」
老人は優しく笑った。
「この国は国王自ら、『夢を叶えることこそ幸せ』と謳っているからねえ。君たちの夢も叶うといいね」
「ありがとうございます!」
ルナは嬉しそうに頭を下げる。
「素敵な考え方だなあ〜!」
「へえ〜」
ライトは街を眺める。
「この国では、夢を叶えることが幸せの基準なのか」
サブローは顎に手を当てた。
「じゃあ、夢が叶わなかった人はどうなるんだろうねえ」
「ちょっと!」
ルナが振り返る。
「サブローおじさん、暗い暗い!」
「歳取ると色んなこと気になっちゃうのよ。すまんすまん」
その直後、街中に設置された拡声器から女性の声が流れた。
『アルテミア王国にいらっしゃる皆様へお知らせいたします。今月の夢集会開催まで一週間を切りました。参加をご希望の方は、受付登録をお忘れなく』
同じ内容が何度か繰り返される。
「夢集会?」
ライトが首を傾げる。
「気になるわね」
「一旦宿を探して、そのついでに聞いてみようか」
「賛成〜!」
「飯も! 筋肉にいい飯も探そうぜ!」




