二章十一話 サブロー・アングリラ
それから一週間ほどが経ち、戦いの傷もある程度癒えた。
ライトとルナが次の国へ向かおうとしていると、背後から声が聞こえた。
「おーい! やっと見つけたー!」
「サブロー!」
ライトが手を振る。
「最近までダメージが酷くて、宿で寝てたんだ!」
「そうだったのか!」
サブローは息を整える。
「居場所聞いとけばよかったよ」
「どうした?」
「二人が嫌じゃなければなんだけどさ」
少し照れ臭そうに笑う。
「おじさんも、一緒に旅させてもらえないかな」
「いいぞ!」
「判断早!」
「二人への恩もまだ返せてないしな。それに、俺も旅の途中なんだ」
「何のため?」
「野望がある」
「野望!?」
「重い話になるから、軽く言うと――」
サブローの表情が僅かに沈む。
「家族の仇を探してる」
「…………」
すぐにいつもの笑顔へ戻った。
「君たちと一緒だと楽しそうってのもあるけどな」
「さっきも言ったけど、俺は全然いいぞ!」
ライトがルナを見る。
「ルナは?」
ルナはサブローの顔をじっと見る。
「顔イケメンだし、全然オッケー」
そのままサブローへ近づく。
「サブロー、とりあえず私と付き合う?」
「俺が駄目でサブローはいいんかい!」
ライトが叫ぶ。
「俺の方がイケメンだろうが!」
「いや、顔はサブローの方が格好いい」
「即答!?」
ライトは涙目でサブローを見る。
「まあ……ルナの告白は恋愛対象に入った男全員に言ってるみたいだから、冗談だと思って……」
「お、おう」
「俺は対象外らしいけど……」
「落ち込むな、ライト」
サブローが肩を叩く。
「おじさんから見ても、ライトは結構イケてるぞ」
「聞いたかルナ!」
ライトの目が輝く。
「やっぱり俺はイケてるマッチョ!」
「はいはい、筋肉筋肉」
「扱い雑!」
「それとルナちゃん」
サブローが申し訳なさそうに笑う。
「告白? してくれてありがとう。でも、おじさん既婚者だから」
「ちぇー」
「軽っ!」
「二人とも」
サブローは笑った。
「これからよろしくな」
「おう!」
「よろしく、サブロー」
◇
三人でシンカ王国を出てしばらく歩くと、後方から何かが凄まじい速度で近づいてきた。
「ん?」
獣人化したミルだった。
「挨拶もなしに勝手に行くとは、薄情な奴らだな」
「ミル!」
「ミルミル!」
「王女様」
ミルは三人の前で人間の姿へ戻る。
「今回のことは、感謝してもしきれない」
頭を下げた。
「ありがとう」
「いいっていいって!」
ライトが笑う。
「王になって忙しいだろうと思って、勝手に出ただけだ!」
「兄貴のことは残念だったな」
ミルは複雑な表情を浮かべた。
周囲を見回し、誰もいないことを確かめる。
「……三人にだけ、本当のことを話しておく」
「何?」
ミルは、ソウを逃がして贖罪の旅へ出したことも、それが国民を裏切る選択だったことも、全て話した。
ルナとサブローは驚いた。
「ミルミル……」
「だから」
ミルは俯く。
「私がやったことが正しいとは思っていない」
「うん」
「いつか知られれば、私も裁かれるかもしれない」
「…………」
「それでも、私はあの選択をした」
ライトは頷く。
「そうだったのか!」
そして笑った。
「じゃあ旅の途中で会ったら、話しかけてみる!」
「……ああ」
ミルの表情が和らぐ。
「ぜひそうしてやってくれ」
「それと」
ミルは三枚の証明書を取り出した。
「これを渡しに来た」
「何これ?」
「世界同盟共通通行証だ」
「マジで!?」
「世界同盟加盟国なら、これを見せれば大半の国へ入国できる」
「超超超助かるー!」
ライトが通行証を掲げる。
「サンキュー、ミル!」
「ミルミルー! ありがとう!」
ルナも喜ぶ。
「これで、この筋肉の入国手続きに悩まなくて済む!」
「俺、人じゃなくて筋肉扱いされてない?」
サブローも通行証を見る。
「俺まで貰っちゃっていいの?」
「ああ」
「王女様には借りを作りっぱなしだなあ」
「気にするな」
「ありがとな」
「あっ!」
ライトが手を叩く。
「そういや助けたときのお礼!」
「何だ?」
「まだ酒と飯奢ってもらってねえ!」
「覚えてたか」
「当然!」
ライトは笑う。
「またこの国に遊びに来るから、そのときは一緒に飲もうぜ!」
「勿論!」
ミルも笑った。
「その時を楽しみにしている」
二人は握手を交わす。
「じゃあな、ミル!」
「元気でな」
「またね、ミルミル!」
「王女様、身体に気をつけて」
「ああ」
三人は再び歩き始めた。
ライト。
ルナ。
そして、新たに加わったサブロー。
三人の旅は、次の国へ続いていく。
ライトはこの国で、また一つの「幸せ」に触れた。
誰かにとっての普通が、別の誰かにとっても普通とは限らない。
そのことを少しだけ知った代わりに、ライトは大切なものを一つ失った。
次に何を得て、何を失うのか。
それは、進んだ先でしか分からない。




