二章十話 兄貴
翌朝。
ミル・ノーマリティの手によって、ソウ・ノーマリティが処刑された。
そう国中へ発表された。
「……ミルミル」
ルナが小さく呟く。
「辛かっただろうな」
ライトは何も言わなかった。
「ライト?」
「ん?」
「やっぱり……自分のお兄さんと重ねてる?」
「…………」
「前に、ライトが言ってたじゃん」
「何を?」
「お兄さんのこと」
ライトが首を傾げる。
「だから……メモリーっていう――」
「何言ってんだ、ルナ?」
「…………え?」
ライトは不思議そうにルナを見る。
「俺に兄貴なんていないぞ?」
――カラン。
ルナの手からコップが落ちた。
「…………」
「おい、ルナ?」
ライトが床へ転がったコップを見る。
「大丈夫か?」
ルナは答えられなかった。
以前、ライトは言っていた。
『俺にもお兄ちゃんがいるんだ』
『何かあれば絶対守ってくれた』
『この旅のどこかで会えるのを楽しみにしてるんだ』
そして、ソウとミルに放ったグッドブラザー・ライトニング。
何を燃料にしたのか、考えるまでもなかった。
「……ルナ?」
ライトが顔を覗き込む。
「顔色悪いぞ?」
「……何でもない」
「本当か?」
「うん」
ルナは無理に明るい声を出した。
「ちょっと手が滑っただけ」
「そっか」
兄がいたことも。
尊敬していたことも。
いつか会いたいと願っていたことも。
全部、ライトの中からなくなっていた。
失ったことすら、もう分からない。
他人の兄妹を救うために、ライトは自分の兄との思い出を差し出した。
けれど本人の中には、ソウとミルに重ねる兄の姿さえ残っていない。
ルナは何も言えなかった。
床へ落ちたコップを拾う。その指先が、僅かに震えていた。




