二章八話 兄妹の答え
ソウの脳裏へ、映像が流れ込む。
幼いミル。
『ソウ兄!』
転んだ妹を背負った日。
一緒に食卓を囲んだ夜。
城を抜け出し、二人で街へ遊びに行った日。
『また来ようね!』
怒った。
笑った。
喧嘩した。
仲直りした。
何度も、何度も。
ミルと言葉を交わした。
同時にミルも、兄と過ごした時間を見ていた。
言えなかった言葉。
聞けなかった言葉。
雷の中で、二人は語り合った。
やがて、雷が止む。
「…………」
ソウの獣人化が解除された。
地面へ膝をつく。
その瞳に、僅かな光が戻っていた。
「くそ……」
ソウは頭を抱える。
「あんなものを見せられても……」
肩が震える。
「もう……止まれねえんだよ……!」
再び獣人化しようとする。
だが。
「……何でだ?」
変化しない。
「何でだよ!」
ソウが叫ぶ。
「これじゃあ普通を守れねえ!」
ミルが目を見開く。
「ミルを……国民を……守れねえ!」
「……ソウ兄」
「普通の幸せを送らせてやれねえ!」
ミルは駆け寄り、兄を抱き締めた。
「私たちのこと……見えるようになったんだね」
「…………」
ソウの腕が震える。
「ああ……」
「うん」
「まだ……全部を本心から理解できたわけじゃない」
「うん」
「俺が間違ってたって、全部認められるわけでもない」
「それでもいい」
「でも……」
ソウが妹を見る。
「何で俺が普通に拘ってたのか……少しだけ思い出した」
「…………」
「お前たちを守りたかった」
涙が落ちる。
「途中から、それすら見えなくなってた」
「ソウ兄……」
「すまなかった」
ミルは首を振る。
「私は……兄だからって全部許すことはできない」
「ああ」
「国民にしたことは、取り返せない」
「分かってる」
「罪は償わなきゃいけない」
「……ああ」
それでも、ミルは腕を解かなかった。
「でも、私は待ってる」
ソウは目を閉じた。
◇
ソウは抵抗せず、衛兵たちに拘束されて城へ連れていかれた。
処刑を見に集まっていた国民たちから、様々な声が飛ぶ。
「人殺し!」
「王を辞めろ!」
「妹君を殺そうとしたんだぞ!」
その中に――。
「昔の王はあんな人じゃなかった!」
そんな声もあった。
ミルは黙って聞いていた。
やがてライトたちへ振り返る。
「ライト。ルナ。サブロー」
「おう」
「ありがとう」
ミルは僅かに笑った。
「ソウ兄に……昔の優しさが少し戻った気がする」
ライトも笑う。
「そっか!」
ルナとサブローは頷いた。
◇
その日の夜。
王城で、役人たちによる緊急会議が開かれた。
ソウは王位を剥奪され、暫定的にミルが国をまとめることとなった。
情勢が落ち着いた後、国民による投票で正式な王を選ぶ。
そして、多くの国民を殺し、独裁を続けたソウには――。
死刑判決が下された。
翌日、その決定は号外で国中へ知らされた。
宿で傷を癒していたライトたちの耳にも届く。
「ミルミル、暫定とはいえ王様になるんだ!」
ルナが新聞を眺める。
「すっごーい」
「……ソウは死刑か」
ライトが呟く。
「せっかく、昔の優しさ少し戻ってきたのにな」
「しょうがないよ」
ルナは静かに答える。
「戻ってきたからって、今までやったことがなくなるわけじゃない」
「そっか……」
「でも」
「ん?」
「最後に兄妹として話せただけでも、よかったんじゃないかな」
「…………」
「俺もそう思う」
ライトは窓の外を見た。




