二章四話 作戦会議
宿へ戻った二人は、ルナの部屋で作戦会議を始めた。
まずは互いの能力を確認する。
「俺の雷は、幸せだと思った記憶や感情によって、威力も効果も変わるみたいなんだ」
ライトが説明する。
「使った記憶と、そのときの感情は少しずつ薄れて、最後には消える」
「うん」
「呪いはさっき話した通り、負の感情が何倍にも膨れ上がる」
ライトは自分の胸を指差した。
「要するにネガティブ・パッションだ!」
「名称いらない」
「あと、ずっと増幅した感情を隠そうとしてきたせいか、人の声とか表情の違和感に過敏になった」
「嘘が分かる?」
「そこまで万能じゃない。ただ『今の言い方なんか変じゃね?』くらいは気づきやすい」
「なるほど」
ルナが腕を組む。
「ただネガティブになるだけのお笑い呪いじゃなかったのね」
「人の呪いをお笑いだと思ってたんかい」
「次、私ね」
ルナが指を立てる。
「私の能力は、他人に今起きている『不運』を吸収して、自分の中へ引き受ける力」
「不運ってどこまで?」
「過去に起きたことや、未来に起きるかもしれないことは無理。今この瞬間に受けている痛み、苦しみ、損失なら吸収できる」
「なるほど」
「ただし、呪いそのものは消せない」
「ん?」
「例えば、ライトの呪いで恐怖が何倍にも増えているとするでしょ?」
「おう」
「増幅された恐怖による苦痛の一部なら吸える。でも、呪い自体は残るから、また怖くなれば増幅される」
「なるほどな!」
「私が横にいても、ライトの呪いをずっと無効にはできないってこと」
ルナは自分の胸を指差した。
「吸った不運は、私が痛みや悲しみとして感じる。吸収中は毎回、口の中に砂利を詰め込まれてるみたいな不快感もある」
「うげ……」
「吸収した不運は他人へ移せるけど、自分で新しい不幸を作ることはできない」
「ほうほう」
「それと、不運を吸収すると、呪いによる寿命の減り方が少し遅くなる。誰かへ移せば、遅くなってた分は元に戻る」
「改めて聞くと、ひっでぇ能力と呪いだな……」
「でしょ?」
「残りの寿命って分かるのか?」
「意識すると、頭の中に数字がぼんやり浮かぶ」
「数字?」
「最近は『23』」
「二十三?」
「多分、私が生きられる年齢」
「今いくつだ?」
「十七」
「あと六年くらいしかねえじゃねえか!」
「まあね」
ルナは平然と髪を掻き上げる。
「でも六年もある。本気で伴侶を探せば、私の美貌なら余裕でしょ」
「そうかもな!」
「軽いな」
「よし!」
ライトが拳を握る。
「じゃあ作戦は、エリシア王国みたいに兵とか国の人にお願いして、ミルと、ついでに旅人を解放してもらう!」
「うん」
「駄目ならマッスル・ライトニングで、いい感じにうわーっとやる!」
「却下」
「即答!」
「ていうか、前の国で使った橙色の雷は何だったの?」
「あれ?」
「あれでエリシア国王、何か変わったじゃん」
「基本的にマッスル・ライトニング以外は、その場のノリと勢いだな!」
ルナは冷たい目を向けた。
「……じゃあ今回、マッスル・ライトニング以外に使えそうな幸せな記憶は?」
「うーーーーーん」
ライトはしばらく考える。
「あ!」
「何?」
「酒場で楽しい奴らと飲み食いしたこと!」
「それ?」
「幸せかどうかはまだ分からねえけど、普通に楽しかったし!」
「その記憶を使ったら、どんな雷になる?」
「知らん!」
「…………」
「その場のノリ! 気合い! 努力!」
「…………」
「今まで何となくそれで解決してきた!」
ルナは頭を抱えた。
「ライト」
「はい」
「明るくて前向きなのはいい」
「はい」
「でも、本気で誰かを助けたいなら、気持ちだけでどうにかしようとしないで」
「はい」
「現実見て、考えて、工夫して」
「善処します!」
「苦手だから考えない、はただの怠慢だからね」
「ぐっ」
「モテたいならやめた方がいいよ」
「……反省します」
ルナはため息を吐いた。
「今使える手札は、ライトのマッスル・ライトニングと、私の不運吸収と付与」
「おう」
ルナが作戦を説明する。
旅人が処刑場へ出された瞬間、ライトがマッスル・ライトニングを発動。ルナを背負い、高速で旅人を救出する。
同時に衛兵を一人だけ無力化して連れ出し、ミルの居場所を聞く。その後ミルを助け、四人で国外へ逃げる。
途中でライトに不運が起きれば、可能な範囲でルナが吸収する。
「完璧っす!」
「軽いな」
「そんな感じでおなしゃす!」
ライトは鞄からストップウォッチを取り出した。
「じゃ、俺は俺の準備してくる!」
「何するの?」
「作戦までに五十メートル走の自己ベスト更新してくる!」
「何で?」
「マッスル・ライトニングの燃料!」
「ああ……」
理屈は分かる。
だが――。
「……可哀想な能力」
「何か言った?」
「何でもない」




