二章三話 王の妹
三人は店を移し、酒と食事を楽しんだ。
途中、ライトが酒場の音楽に合わせて踊り始める。
「何で踊ってるの、あの筋肉」
「分からん」
「イェーイ!」
しばらくして、ミルが尋ねた。
「ところで、お前たち二人は旅人だよな?」
「おう!」
「そうよ」
ミルの表情が僅かに険しくなる。
「……なら、早くこの国から出た方がいい」
「何でだ?」
ライトは料理を頬張りながら答える。
「動物がそこら中にいたり、ちょっと変な国ではあるけど、飯は美味いし、俺はもう少しいたいぞ」
「あ?」
ルナがライトを見る。
「約束と違うんですけど?」
「うっす……」
ライトは姿勢を正した。
「それで、理由は?」
「最近、お前たちと同じように一人の旅人がこの国へ来た」
ミルが静かに語る。
「その男は、国王が定めた『普通』を破り、処刑されることになった」
「何をしたんだ?」
「食用以外の動物を殺すことを、この国では禁じている」
「は?」
「街へ降りてきた熊が子どもを襲い、その旅人は熊を殺して子どもを助けた」
「それで処刑?」
「国王は『命は全て平等である。それが普通だ』と主張している」
ミルは杯を握る。
「私は違うと思っている」
「そうそう!」
ルナが頷く。
「さっき聞いた! さすがに国王やばすぎるって! 熊が街を歩いてる国とか怖すぎるし!」
ライトを見る。
「分かった? ミルミルはいい人だけど、私たちは明日出るからね!」
ミルは困ったように笑った。
「気を遣わせてしまってすまない」
「ミルミルのせいじゃないし!」
「……それとな」
ミルが一度息を吐く。
「その国王は、私の兄なんだ」
「…………」
ルナの動きが止まった。
ゆっくりとライトを見る。
ライトも無言で見返す。
ルナはミルへ顔を戻すと、天井を仰いだ。
「ごめんなさい!! お兄さんの悪口言いました!!」
勢いよく頭を下げる。
「どうか罰は軽めでお願いします!」
「罰なんて与えないから!」
ミルは思わず笑った。
「気にしていないよ。兄の愚痴一つ聞くのも嫌なら、お忍びで酒場なんて来ない」
「よかったぁ……」
「昔は、あんな人じゃなかったんだ」
ミルの声が沈む。
「これから兄に会いに行く。処刑される旅人を助けてくれるよう、もう一度頼むつもりだ」
「ミル……」
「お前たちは明日にでも物資を揃えて、この国を出てくれ」
ミルは立ち上がった。
「今日はいい息抜きになった。二人ともありがとう」
「おう!」
「またね、ミルミル」
「ああ。二人の旅が順調に進むことを祈っている」
ミルは店を後にした。
◇
宿への帰り道、ライトが突然口を開いた。
「ルナにはまだ言ってなかったけど、俺にもお兄ちゃんがいるんだ」
「へえ! どんな人?」
「メモリーって名前で、筋トレとか格闘術とか、俺ができないところを色々教えてくれた」
ライトは懐かしそうに笑う。
「歳は結構離れてたけど、すっげー仲良くしてくれた。俺より圧倒的に強くて、俺より暑苦しくて」
「アンタより?」
「おう!」
「それは勘弁してほしいな……」
「それに何かあれば、絶対に俺を守ってくれた」
ライトは拳を握る。
「俺にとって、尊敬できる最高のお兄ちゃんだ」
「いいお兄ちゃんなんだね」
ルナは笑うような声音で言った。
「ちなみにイケメン?」
「整った顔してたぞ。ルナと同じで銀髪だった!」
「ほう」
「島の火山が噴火した時に誰かが俺とお兄ちゃんを島から逃がしてくれたんだ! まあ、それで生き別れたんだけどさ」
「……そっか」
ライトは夜空を見る。
「だから世界のどこかで生きてると思う。この旅のどこかで会えるの、楽しみにしてるんだ」
「そっか」
ルナも空を見上げる。
「私も、ライトのお兄ちゃんに会ってみたいな」
「おう!」
ルナはそれ以上、聞かなかった。
二人を助けた人物を、ライトは覚えていない。能力の代償で失ったのだろう。
それほど大切な人物だったのかもしれない。
ライトは夜空を見上げる。
自分とメモリー。
ミルと国王。
兄妹にも、色々な形があるのだろう。
◇
翌日。
ライトとルナは物資を揃え、国を出ようとしていた。
そのとき。
「大ニュースだあああ!」
広場の中心で男が叫んでいた。
「国王の妹君が、この前の旅人を庇った罪で一緒に処刑されるぞ!」
二人の足が止まる。
「何?」
「しかも妹君は人間じゃなかった! 獣人だったそうだ!」
周囲がざわつく。
「獣人はこの国じゃ普通じゃない! それも処刑理由に加えられたらしい!」
「処刑はいつだ!」
「明後日! 先に旅人、その後に妹君だ!」
国民たちが口々に話し始める。
「国王は嫌いだが、妹君はいい人だったぞ」
「そうだ!」
「でも法を破ったなら、それは普通じゃないしな……」
「うーん……」
ライトは黙って聞いた後、ルナへ顔を向けた。
「ルナ」
「何?」
「悪いけど、旅はここで別れよう」
「は?」
「この国でやらなきゃいけない用事思い出した」
ルナは数秒、ライトを見つめる。
「奇遇ね」
「え?」
「私も用事思い出した」
腕を組む。
「それで? ミルミルをどうやって助けて、その後どうするの?」
「気合いで何とかする!」
「…………」
「とりあえず助けてから考えよう!」
「はいはい」
ルナは苦笑した。
「作戦立てようか」
「そうだな! まず宿探そう!」
「今朝出た宿に戻ればいいでしょ」
「確かに!」




