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二章一話 呪いと神託

 ライトとルナが一緒に旅を始めて、間もなく一週間。


 価値観が似ていたこともあり、友人としてすっかり打ち解けていた。


 次の国へ向かう道中、ルナがふと思い出したように尋ねる。


「そういえば、ライトの呪いって何なの?」


「俺の呪い?」


「うん。記憶を失うのは能力の代償でしょ? 本当の呪いは別にあるんでしょ?」


 ライトは言いづらそうに視線を逸らした。


「俺の呪いはなあ……聞いても笑うなよ?」


「なになに!?」


「負の感情を抱くと、その感情が普通の人より何倍も強くなる」


「へえ」


「要するに……すっげーネガティブになる」


「…………」


 ルナの口元が僅かに震えた。


「ちょっと……笑わせないで! 全然想像できないんだけど!」


「だから言いたくなかったんだよ!」


 ライトの表情が曇る。


「あっ……なんかネガティブになりそう……。筋トレしよ」


 突然、その場でスクワットを始めた。


「フン! フン! フン! フン! セロトニン! セロトニン!」


「あー……筋トレで無理やり発散してる感じなのね。確かに呪いだわ」


「いや、これはただの日課だから! 無理やりとかじゃない!」


「それはそれで気持ち悪いなあ……」


「応援ありがとう!」


「褒めてない」


 ルナは呆れたように肩をすくめる。


「ネガティブになる未来、余計に想像できなくなったわ。それだけ気にしてないなら、神託もあんまり気にしてなさそうね」


「神託って、一人一つ、生まれた時に神から刻まれる言葉みたいなやつだっけ?」


「そう。神託に応えられれば呪いが解けて、神から祝福を授かれるとも言われてる」


 ルナは胸へ手を当てた。


「前にも言ったけど、私は呪いを解いて幸せになるために旅をしてるの」


「そういや、そうだったな」


 ライトは歩きながら尋ねる。


「ルナの神託って、ちゃんと聞いたことなかったよな。どんなやつ?」


「私の神託は――」


 ルナは少し得意げに言った。


「『その心が誰かを選ぶ時、偽ることなかれ』」


「ほほーん」


「きっと、偽りのない真実の愛で誰かを愛して、誰かから愛されたときに呪いが解けるって意味だと思うの!」


「なんか難しいな……」


「ちなみにライトは?」


「俺?」


 ライトは空を見上げる。


「『雷鳴が響いた先に、残るものを知れ』だな」


「何それ。めっちゃ格好いいじゃん」


「な。なんかソワソワするよな」


「意味は全然分かってなさそうだけどね」


「うん!」


「元気よく言うな」


 そんなやり取りをしているうちに、前方へ巨大な城壁が見えてきた。


「あ、ライト! 見えてきた!」


「おお!」


 ルナが城壁を指差す。


「次の目的地――シンカ王国!」


「やっと着いたかー! 早速入ろうぜ!」


「待って!」


 ルナがライトの腕を掴む。


「ライト、旅人証持ってないんでしょ?」


「…………」


「忘れてたでしょ」


「そういえばそうだった……」


「私の旅人証を見せて、元々同行者だったけど途中で紛失した、ってことにしてみる?」


「お手数おかけします……」


「この先も旅を続けるなら、どうにかしないとね。私の出身国の旅人証でも入れない国はあるだろうし」


「ちなみに俺、ヴォルケニア島パッション村出身、神の捨て場所ダンベル村育ちなんだけど、他国でも旅人証って作れるのかな?」


「…………え?」


 ルナの足が止まった。


「ヴォルケニア島出身で……神の捨て場所育ち?」


「おう!」


「めっちゃ嘘っぽいんだけど!」


「何でだよ!」


「ヴォルケニア島は八年前の噴火で島ごと滅んだって聞いてるし、神の捨て場所なんて猛獣だらけで、人が住める場所じゃないって有名じゃない!」


「それ、前の国の守備兵長のおっさんにも言われたんだよなあ」


 ライトは頭を掻いた。


「自分の出生に嘘ついてどうするんだって話なんだけどな」


「ほ、本当なんだ……ごめん」


「全然気にしてねえよ!」


 ライトは笑う。


「それより、ルナの作戦で入国できることを祈ろう!」


「そうね……」


     ◇


 二人が門へ近づくと、衛兵が声を上げた。


「止まれ! 旅人証を見せろ!」


 ルナが事情を説明する。しかし――。


「駄目だ駄目だ! 旅人証を失くしたなら、一度自国へ戻って再発行してから来い!」


「そこを何とか!」


 ライトは突然、片脚を前へ出した。


「ほら、この筋肉見て! 今日一番ノリに乗ってる大腿四頭筋!」


「意味が分からん! 筋肉を見せられても規則は変わらん!」


「エリシア王国ではこれで良い方向に進んだのに……!」


「ライト、ちょっと黙ってて」


「はい」


 門番がルナを見る。


「女。お前の旅人証を見せろ。本物なら、お前だけは入国を許可できる」


「はい。これ」


 ルナが旅人証を差し出す。


 確認した門番が目を見開いた。


「……アルカディア王国?」


 顔から血の気が引いていく。


「お、おい! お前たち、本当にアルカディア王国から来たのか!?」


「そうです」


 ルナは旅人証を指差す。


「そこに王国印があるでしょ? 光を当てれば、本物なら色が変わるはずよ」


 門番が光へかざす。


「……確かに本物だ」


 姿勢を正した。


「よし。特例だ。男、お前も入国していい」


「マジ?」


「国王から、アルカディア王国の者については特例で通すよう命じられている」


「ありがとうございます」


 ルナが頭を下げる。その横で、ライトが腕を組んだ。


「やはり俺の大腿四頭筋の魅力が――」


「ちげーわ! 筋肉馬鹿! 私に感謝しろ!」


「ルナさん! どうもありがとうございます! お礼にダンベル村産高タンパク草を――」


「いらん! それ何か臭いから捨てて!」


「キイイイイイ! ダンベル村を馬鹿にするなあああ!」


「してない! 早く宿探すよ!」


「はーい」


 二人は騒がしくシンカ王国へ足を踏み入れた。

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