第54話 覇王の強襲。物理無双の愛
――ズドォォォォォンッッ!!!
「な、なんだ貴様はッ!」
「第三王子……!? なぜ、こんなところに!」
騒ぎを聞きつけて駆けつけたレオンハルト殿下の私兵たちが、混乱しながらも剣を抜き、殺気立って包囲陣を敷く。
その数は瞬く間に数十人に膨れ上がった。
「(……痛い。殿下が、酷く痛がっている)」
途切れがちな魂のパスの残滓から、断続的に流れ込んでくる感覚。
それは、骨を焼かれるような苦痛。
……そして、私の顔が真っ赤になるほどの、狂暴でドロドロに溶かされそうな強制的な快楽。
私の大切な殿下にいったい何を打ち込んだんですか!?
「……私の殿下に触れたその腕。一本残らず、物理的に叩き潰してやる」
私は、北の魔鉱山から持ち込んだ、泥に塗れた重たく鈍く光る一本のツルハシを両手で持ち、静かに構えた。
私の中にあるのは、亡き父から幼い頃より徹底的に叩き込まれた、実戦用剣技の型。
「狂ったか、第三王子! 構わん、殺せェッ!」
私兵の隊長が叫ぶと同時、数人の重装歩兵が槍を突き出して殺到してきた。
――次の瞬間。
「どけッ!!」
――ドゴォォォンッ!!!
私が踏み込みと同時に横薙ぎに振り抜いた、全身のバネと怒りを乗せたツルハシの全力の一撃。
分厚い鋼鉄の盾と鎧ごと、突進してきた重装歩兵たちの体がひしゃげ、紙屑のように宙を舞って壁へと叩きつけられる。
「なっ……!?」
「ば、馬鹿な! 魔力強化の光が一切見えなかったぞ! 純粋な腕力だけで、防護結界の張られた重装甲を砕いたというのか!?」
私兵たちが、信じられないものを見たかのように絶望的な悲鳴を上げる。
「魔術部隊! 詠唱を急げ! 対象を火炎で焼き尽く……っ!」
後方に控えていた魔術師たちが慌てて杖を構えた、その刹那。
「遅いです」
――ゴッ! という鈍い音。
魔術師の顔面に柄の先端が正確にめり込み、彼は詠唱を完了する前に白目を剥いて卒倒した。
私はそのままツルハシを引き戻す反動を利用し、独楽のように回転する。
ただ力任せに振り回しているのではない。
父から教わった剣の理を応用し、周囲を取り囲もうとした剣士たちの膝裏や手首、装甲の急所のみを的確に粉砕していく。
「ぎゃあぁぁぁっ!」
「あ、足がぁッ!」
「(どこ……どこですか、殿下!)」
私兵を次々と物理的に排除しながら、私は邸宅の中へと足を踏み入れた。
「……下だ。この屋敷の、深く冷たい底から……殿下の気配がする」
途切れがちな魂の繋がりが、それでも明確に目的地を指し示していた。
廊下の先から、さらに増援の兵士たちが湧き出してくる。
でも、止まらない。
私は泥だらけのツルハシを肩に担ぎ、立ち塞がる者すべてを無慈悲に薙ぎ払いながら進む。
「待っていてください、殿下。……今、助けに行きます!」
私は、愛する人が囚われている屋敷の地下深くへと、一直線に血路を切り開いていった。




