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第53話 限界突破の強襲

漆黒の魔導自動車は、王都へ続く夜の街道を、爆走していた。


車窓の景色は完全に線と化し、轟音を上げる魔導エンジンは限界を超えて赤い火の粉を撒き散らしている。


ハンドルを握りしめる私の瞳に、もはや感情の色はない。


ただ一点、遥か前方に位置する殿下のいる場所だけを、絶対零度の殺意で見据えていた。


「……殿下」


心の中で何度呼びかけても、あの温かく、少し意地悪な、私の大好きな声は返ってこない。


ポッカリと空いた魂の大穴。喪失感は、時間が経つほどに冷たく、そして鋭い痛みとなって私の胸を抉り続けていた。


私の忠義と誠意、そしてこの溢れるような愛は、すべてギルバート殿下に捧げると決めたのだ。


私は、彼の盾。……なのに!


感覚共有のパスは、先ほど完全に切断されたはずだった。


……はず、だったのだ。


鳴と、理性の崩壊


「……ッ!?」


王都の門まであと少しと迫った時。


突如として、私の脳髄を直接殴りつけるような、強烈なノイズが走った。


『ぁ……あ、ぁぁぁ……ッ!!』


「っ……!!」


それは、切断されたパスの残滓。


魂の深い結びつきの底の底から漏れ出してきた、微弱な、しかしひどく生々しい苦痛のフィードバックだった。


これは……! 殿下が、苦しんでいる……!?


ノイズと共に流れ込んでくる感覚に、私は息を呑んだ。


焼かれるような痛み。


それだけではない。


無理やり引き出される、理性を溶かすような強制的な快楽の感覚。


私の大切な体に、何らかの薬物が打ち込まれ、殿下の気高き魂が強制的に凌辱されている悍ましい感覚。


「 なんてことを……ッ!!」


私の愛する半身を。


私がいちばん大切にしている人を、あんな薄汚い地下牢で、卑劣な手段でいたぶっているだなんて。


「許さない……絶対に、許さないッ!」


プツン。


私の中で、最後に残っていた僅かな理性の糸が、完全に吹き飛んだ。


「ああああああアアアアアアッ!!!」


獣のような咆哮が、車内に響き渡る。


私は、アクセルを踏み込む右足に、全身の魔力と怒りを叩き込んだ。


魔導自動車のメーターが限界を振り切り、エンジンが悲鳴を上げて青白いプラズマを噴き出す。


車体は地面から浮き上がるほどの猛烈なスピードで、王都の堅牢な城門を木っ端微塵に粉砕して突破した。


「殿下……っ、今、行きますから!」


ノイズとして流れ込んでくる痛みを道標に、私は感覚を極限まで研ぎ澄ませた。


王都の複雑な街並みなど関係ない。


ただ、彼の魂が発する苦悶の残滓を真っ直ぐに追いかける。


やがて、夜の闇の中に、煌々と光り輝く巨大な邸宅が姿を現した。


「止まれ! ここは第二王子殿下の……うわあああっ!?」


正門を警備していた精鋭部隊の兵士たちが、信じられない速度で突進してくる漆黒の塊に気づき、慌てて武器を構えた。


だが、私はブレーキを踏むどころか、さらにアクセルを底まで踏み抜いた。


「どけェェェェェッ!!!」


――ズドォォォォォンッッ!!!


凄まじい爆発音と共に、頑強な鋼鉄の正門が、紙切れのようにへし折られ、宙を舞った。


火花と土煙が舞い上がる中、半壊した魔導自動車が、前庭に深くタイヤの跡を刻んで停止する。


「な、なんだあの車は……! 侵入者だ! であえ、であえッ!」


屋敷のあちこちから、武装した兵士たちが怒号を上げながら湧き出してくる。


その数は、数十、いや百に近い。


ひしゃげた車のドアを蹴り開け、降り立つ。


私は、助手席から鈍く光る重たいツルハシを無造作に掴み取る。


……あの地下から、彼の痛みが聞こえる。


「……私の殿下に触れたその腕、一本残らず叩き潰してやる」


私はツルハシを構え、迫り来る兵士たちの群れに向かって、一切の躊躇なく、修羅の如き足取りで突撃を開始した。

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