第49話 切断されるパス
歓喜の声が、薄暗い坑道に木霊していた。
岩盤の奥深くから顔を出した、青紫色の脈動する光を放つ魔鉱石の特大の純鉱脈。
泥と汗に塗れた荒くれ者の労働者たちが、ツルハシを放り出し、互いの肩を強く叩き合いながら、新たな希望の発見に涙を流して祝い合っている。
その輪の中心で、私は限界を迎えていた腕を下ろし、荒い息を整えながら、熱い達成感に胸を震わせていた。
やった。これで、殿下を救える……!
ベアトリス様が繋いでくれた流通ルートと、この絶対的な新資源。
この二つが合わされば、レオンハルト殿下の経済網なんて物理で叩き潰せます!
一刻も早く、この希望の光を彼に見せたい。
「もう無理をしなくていいんですよ」「私たちが勝ったんです」と、あの限界まで魔力をすり減らした冷え切った体を、強く抱きしめて伝えたかった。
――その時だった。
「……ッ!?」
突如として、私の視界が大きく歪んだ。
ドクン、と心臓が破裂しそうなほどに激しく跳ね上がり、両手首に焼け焦げるような激痛が走った。
異常進化した感覚共有のパスが、これまでにない致命的な警鐘を鳴らしたのだ。
痛い、熱い……! なに、この感覚は……!? まるで、魔力回路に直接焼き鏝を押し当てられているような……!
それは、明らかに私自身の痛みではなかった。
遥か遠く、王都の空の下にいる『私の肉体』が今まさに受けている、凄絶な苦痛のフィードバック。
『――来るな、リリア!!』
脳髄に直接響き渡ったのは、耳を塞ぎたくなるほど悲痛な、ギルバート殿下の叫び声だった。
『これはレオンハルトの罠だ! 僕のことはいい、君は絶対に逃げ……ぐぁあああっ!!』
「殿下ッ!?」
――ブツンッ。
まるで、太い鋼のワイヤーが断ち切られたような、不気味で無機質な音が魂の奥底で響いた。
次の瞬間。
私の胸の中に常に存在し、心を温めてくれていた彼の気配が、温もりも、痛みも、声も、すべてが唐突に、完全に消え失せた。
「…………え?」
私は、呆然と立ち尽くした。
ポッカリと。自分の魂の半分が、残酷に抉り取られたような、かつて経験したことのない途方もない喪失感。
息ができない。
彼が存在しない世界が、こんなにも恐ろしく、虚無だとは思いもしなかった。
「おい、どうしたんだ殿下? 急に顔色を悪くして……」
「殿下? ご気分でも……ヒッ!?」
……奪われた。
私の脳内で、何かが決定的に壊れる音がした。
王位継承の代理戦争? ブランド戦略? レオンハルト殿下の経済包囲網?
そんなものはもう、どうでもいい。
商会も、彼が隣であのドSな笑みを浮かべてくれていなければ、何一つ意味なんてない。
その事実だけが、私の頭の中をドス黒い殺意で塗り潰していく。
「……殿下?」
「どけ」
私は、足元に落ちていた泥に塗れた重たいツルハシを、片手で拾い上げた。
「「「ひっ……!」」」
荒くれ者の労働者たちが、震え上がりながら慌てて道を開ける。
私は無言のまま、坑道を歩き出した。
外に出た私は、ベアトリス様から託された漆黒の魔導自動車の運転席に、乗り込んだ。
助手席にツルハシを無造作に放り投げ、キーを回す。
魔導エンジンが、これまでにない凶悪な咆哮を上げた。
「待っていてください、ギルバート殿下」
一直線に王都の方角を見据える。
どんな強固な罠だろうと、関係ない。
この手で全て物理的に粉砕し、必ず彼を取り戻す。
「絶対に、助け出してみせます!」
私は、アクセルを文字通り床が抜けるほどベタ踏みにした。
車輪が荒野の大地を抉り、凄まじい土煙を巻き上げながら、漆黒の魔導自動車は限界を超えた弾丸となって王都へと発進した。




