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第45話 魔鉱山に立つ覇王

王都から北へ、荒涼とした大地をひた走ること数時間。


ベアトリス様から託された漆黒の魔導自動車を駆り、土煙を巻き上げながら、巨大な岩山の中腹に切り拓かれた採掘場――北の魔鉱山へと滑り込んだ。


しかし、そこに活気は一切なかった。


第二王子レオンハルトによる容赦のない流通封鎖と、魔鉱石は使い道のない屑石であるという市場の買い叩きにより、この鉱山は完全に息の根を止められていた。


山積みにされたままの鉱石、稼働を止めたトロッコ。


煤と泥に塗れた屈強な労働者たちは、無気力に地面に座り込み、安い酒を煽って絶望を紛らわしている。


「おい、見ろよあれ……」

「なんだあのピカピカの車……まさか、第二王子の手先がこの鉱山を差し押さえに来たのか?」


殺気立った労働者たちの視線が集まる中、私は魔導自動車のドアを開き、静かに降り立った。


「――第三王子、ギルバート殿下……!?」


先日、私の元へ赴いた商人の男が、驚愕に目を見開いて駆け寄ってきた。


「で、殿下! どうしてこのような辺境へ、しかもお一人で!? ご支援の約束はいただきましたが、まさかご自身でいらっしゃるとは……」


「約束しただろう。必ずあなたの鉱山の力になると」


私は、周囲の冷ややかな視線を一身に浴びながら、静かに坑道の入り口へと歩みを進めた。


「ケッ。温室育ちの王子様が、こんな泥臭い場所に何しに来たってんだ」

「見学ならお断りだぜ。俺たちは明日食うパンの保証もねえんだ。王族の同情なんて要らねえよ」


荒くれ者たちの口から、容赦のない野次が飛ぶ。


彼らにとって、王族とは安全な絶対安全圏から数字を動かして自分たちを搾取する存在でしかないのだろう。


……ですが、私の中身はただの侍女です。


泥汚れや野次なんて、痛くも痒くもありません!


私は足を止めると、スーツの上着を躊躇いもなく脱いだ。


さらにシャツの袖を肘まで荒々しく捲り上げる。


「な、何を……」


労働者たちが唖然とする中、私は壁に立てかけられていた一本の重たいツルハシを手に取った。


「金貨の重みで首を絞められ、流通が絶たれたのなら、自らの手で岩を砕いて新しい道を創るまでだ。……案内してくれ、一番固くて、誰も手をつけていない岩盤の奥へ」


「えっ、あ、はい……っ」


気圧された元締めの案内に従い、私は薄暗い坑道の最深部へと足を踏み入れた。


そして、立ちはだかる巨大な岩壁の前に立つと、深く息を吐き、ツルハシを高く振り上げた。


剣の理と、愛の力


――ガァァンッ!!!


暗い坑道に、火花と共に凄まじい轟音が響き渡った。


「なっ……なんだ、今のスイングは……!?」


ふふっ、驚いていますね。これはただの力任せじゃありませんよ!


下半身のバネを使い、腰の回転を背中から腕へ、そしてツルハシの先端へと一切のロスなく伝える一撃。


それは、騎士の娘として幼い頃から血の滲むような修練を重ねてきた、剣の理の採掘への応用。


ガァン! ガァン! ガァン!


私は黙々と、狂ったようなペースで岩壁を叩き続けた。


汗が飛び散り、美しい銀髪が煤に汚れ、白磁のような肌に泥が跳ねる。


でも、その動きは少しも鈍らない。


今の体には、あの邪魔な胸もないですし、最高に動きやすい!


ツルハシを振り下ろすたび、私の脳裏に、今も王宮の開かずの間で、高熱と魔力枯渇に苦しみながら眠っている愛する人の姿が浮かぶ。

自分を王にするため、狂おしいまでの愛情で己の命を削って王都の盤面を支えてくれている、傷だらけの殿下。


彼がそこで命を懸けてくれているのに、私が立ち止まれるものですか……っ!


彼の痛みに比べれば、こんな泥汚れも、腕の筋肉の悲鳴も、何一つ苦ではない。


ただ、彼を救いたい。


この理不尽な経済の鎖を断ち切り、彼に心からの笑顔を取り戻してほしい。


その純粋で強烈な想いが、私の体を突き動かしていた。


「おい……一時間以上、あのペースで休まずに……」

「あの手つき、ただの素人じゃねえ。歴戦の騎士の手だ。それに、一切弱音を吐きやがらねえ……」

「……クソッ! 俺たちが見てばっかりでどうすんだ! 王族の兄ちゃんがあんなにやってんだぞ!!」

「ツルハシを持て! 殿下に負けんじゃねえ!!」


一人の労働者が叫ぶと、次々と男たちが立ち上がり、私の隣に並んで岩壁を叩き始めた。


冷え切っていた坑道が、男たちの熱気とツルハシの響きで瞬く間に満たされていく。


身分も立場も関係ない、泥だらけの一体感がそこにあった。


「(……よし。もう少し、この奥に何かあります!)」


私は、岩壁の奥から漏れ出る微かな魔力の気配を感じ取っていた。


疲労で限界を迎えようとしている腕の筋肉に、無理やり最後の気力を叩き込む。


「これで……決めるッ!!」


私は全身のバネを使い、殿下への愛と祈りを込めた渾身の一撃を、岩壁の最も固い中心点に叩き込んだ。


――パァァァァァンッ!!!!


鼓膜を劈くような破砕音と共に、分厚い岩盤が大きく崩れ落ちた。


その瞬間。


暗い坑道を、昼間のように眩い青紫色の光が照らし出した。


「お、おおおおおっ!?」

「こ、これは……!!」


岩盤の奥に隠されていたのは、不純物だらけの屑石などではない。


目を射るほどの純度を誇る、特大の魔鉱石の純鉱脈だった。


これほどの質と量があれば、レオンハルト殿下の模倣品など軽く凌駕する、全く新しい魔導製品を生み出すことができる。


王都の流通を牛耳る第二王子でさえ、絶対に無視できない莫大な新資源の発見。


「やった……。これで、殿下を救える……!」


私はツルハシに寄りかかり、荒い息を吐きながら、泥だらけの顔に最高の笑みを浮かべた。


「う、うおおおおおおおおおッ!!」

「殿下! ギルバート殿下、万歳!!」


現場は、割れんばかりの歓喜の渦に包まれる。


煤だらけの労働者たちが、涙を流しながら私の肩を叩き、胴上げの勢いで歓声を上げた。


殿下、待っていてください!


この最高の手札を持って、必ず貴方の元へ帰ります!

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