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第21話 舞踏会前夜の特訓。密室のリードと、共鳴する本当の熱

王立狩猟祭の勝利からさらに数日後。


聖ルミナ学園は、週末に控えた『戦勝祝賀舞踏会』の話題で持ちきりとなっていた。


特に、深層の魔獣を単独で屠り、第一王子の鼻を明かした「氷の覇王」こと第三王子ギルバートの出席は、全校生徒、いや王都中の貴族の注目の的である。


だが、当の「氷の覇王」の中身である私、リリア(中身は侍女)は、学生寮の豪奢な自室で、頭を抱えてベッドに突っ伏していた。


「……無理です。絶対に無理です。どうして私が、舞踏会のファーストダンスなんて踊らなきゃいけないんですか……ッ!」


私、木剣の素振りなら一日二千回できますけど、社交ダンスのステップなんて一ミリも踏めませんよ!? 


しかも男役って! なんでしがない侍女が、急に王族の舞踏会イベントでトップを張らなきゃいけないんですか!


もしステップを間違えて転びでもすれば、せっかく築き上げた「完璧な氷の覇王」の虚像が瓦解し、再び暗殺者たちに隙を与えることになってしまう。


「はぁ……胃が痛い。それに、一緒に踊る相手なんて……」


「相手なら、ここにいるだろう?」


カチャリ、と自室の鍵が内側から掛けられる音がした。


弾かれたように私が顔を上げると、そこには、体にぴったりと張り付くようなタイトな黒いドレスに身を包んだギルバート殿下(体は私)が、妖艶な微笑みを浮かべて立っていた。


夜の帳が下りた密室。


月明かりに照らされたその美貌は、同性の私が見てもが見入ってしまうほど蠱惑的だった。


うわぁ……絶世の美女……じゃなくて私!? 


私の清純な体が、完全にラスボス級のサキュバスになってます! 


しかもそのタイトドレス、体のラインが出すぎてて目のやり場に困るんですけど!


「で、殿下……?」


「今度の夜会に向けての『特訓』だよ、僕の可愛い王子様。僕の体に無様なステップを踏ませるわけにはいかないからね」


殿下は優雅な足取りで部屋の中央に進み出ると、魔導蓄音機に針を落とした。


静かで、どこか切なげなワルツの調べが部屋を満たす。


「さあ、立ちなさいリリア。僕が直接、男の『リードの仕方』を君の体に叩き込んであげる」


「で、でも、私が殿下と踊るなんて、そんな恐れ多い……っ!」


「今さら何を言っている。僕たちはすでに、身も心も深く繋がった共犯者だろう?」


有無を言わさぬ魔王の笑みに気圧され、私は恐る恐る立ち上がった。


殿下は、私の右手を自身の腰に回させ、左手をそっと絡める。


――その、互いの肌が物理的にゼロ距離で触れ合った瞬間だった。


「ひゃうッ!?」


「んっ……」


えっ!? な、なにこれ!? 


二人の間に繋がっている『感覚共有』のパスが、バチリと激しい火花を散らした。


私の手に伝わる、本来の自分の腰の異常なまでの柔らかさ、そしてドレス越しに伝わる体温。


それが、パスを通じて『自分自身が男の大きな手で腰を抱き寄せられている』という感触として脳に逆流してくる。


嘘でしょ、私の体って、こんなにいい匂いがして、こんなに柔らかいの……!? 


って、違う! 


それを感じてる王子の体に、私自身がドキドキしてる!? 


同時に、殿下が放出している芳醇なフェロモンが至近距離で鼻腔を打ち、股間に装着されたままの『秘密の魔導下着』が、二人の接触に呼応してブルンッ!と凶悪な振動を始めた。


「あっ、あぁっ……でんか、これ、おかしいです……っ! 触ってるだけなのに、頭が、ぐちゃぐちゃに……っ」


快感の永久機関が完成してしまっています! 


私が気持ちいいと感じると殿下に伝わり、殿下が感じた快楽がまた私に増幅されて戻ってくる……! 


これじゃあ、踊る前に理性の防壁がメルトダウンしますぅっ!)


「……ああ。どうやら、距離が近すぎると感覚が無限にフィードバックするらしいな。だが、悪くない……いや、最高だ」


殿下の吐息も、普段の冷徹な彼からは想像もつかないほど熱く、乱れていた。


「ステップを踏め、リリア。音楽に合わせろ。ワン、ツー、スリー……そうだ」


殿下のリードに従い、私は震える足でステップを踏み出した。


だが、密着したまま動くということは、すなわち『互いの体が常に擦れ合う』ということだ。


「んぁッ! あ、だめ、足が、絡まっ……んぅッ!」


私の太ももに、殿下のドレスのスリットから覗く滑らかな素足が絡みつく。


胸と胸が押し付けられ、私の平らな王子の胸板に、豊満な双丘が形を変えるほどに密着する。


その暴力的なまでの柔らかさと弾力(スライム特攻)が、王子の健康な下半身を容赦なく刺激し、魔導下着の快感と混ざり合って、私の下腹部にマグマのような熱を生み出していく。


「もっと腰を引き寄せろ。女を酔わせるには、ただ優しくするだけじゃ駄目だ。逃げられないと分からせるように……強引に、抱きすくめるんだ」


殿下が、私の耳元で甘く、淫靡に囁く。


その声に操られるように、私の右手に無意識に力がこもる。


殿下の細い腰をグッと引き寄せると、二人の下半身が完全に密着した。


「あァッ!?」


ひぃぃぃっ! 当たっ、当たってます! 


王子のエクスカリバーが、殿下にダイレクトにぃぃっ!


私のズボンの下で限界まで怒張した王子の熱が、殿下のドレスの薄い布地越しに、最も敏感な部分へと容赦なく押し当てられたのだ。


「あっ……はぁっ……いいぞ、リリア……っ。君の、その凶暴なまでの熱……僕の体に、もっと押し付けろ……っ」


「でん、か……っ! もう、これ以上は……私……ッ!」


「僕の腕の中で、好きなだけ果てろ。……お前のすべては、僕のものだ」


それは、ただのダンスの練習などではなかった。


月明かりに照らされた密室で、二人は音楽に合わせて部屋の中を回りながら、終わりのない絶頂の螺旋階層を登り続けていた。


息は乱れ、瞳は潤み、互いの体温と汗が混ざり合う。


感覚共有のハウリングは、もはや「どちらが男でどちらが女か」「どちらが快感を与え、どちらが与えられているのか」という境界線すらもドロドロに溶かしていく。


その時だった。


……え?。


激しい快楽の奔流に脳を白く焼かれ、互いの魂の防壁が完全に消失したその瞬間。


ただの感覚の共有を超えて、私の脳裏に『情景』が流れ込んできた。


――暗く、冷たい王宮の一室。


熱に浮かされ、咳き込みながら、いつ来るかもわからない暗殺者の足音に怯えて震える、幼い殿下の姿。


誰も信じられず、誰にも頼れず、自らの心に分厚い氷の城壁を築き、孤独という猛毒を飲み込みながら生きてきた、果てしない絶望の時間。


あんなに、小さくて、震えてる……。


同時に、殿下の中にも私が流れ込んでいくのが分かった。


濡れ衣で没落した家門。


信じていた者たちの裏切り。


泥に塗れながらも、一人ぼっちで剣を振り続け、強くなることでしか自分を保てなかった私の、惨めで、でも意地っ張りな過去。


「――リリア」


「殿下……っ」


全く違う人生を歩んできたはずなのに。


魂の奥底に抱えていた「欠落」の形が、恐ろしいほどに似ていた。


世界から弾き出された、不器用な欠落品同士。


本当はずっと孤独で、誰かに背中を預けたかった。


強烈なハウリングの中で、その二つの歪な欠落が、パズルのピースのようにカチリとはまり込み、お互いの空洞を熱く満たしていくのを感じた。


ああ、どうして……今まで気づかなかったんだろう。


目の前にあるのは、私の顔だ。


だが、その瞳の奥にあるのは、間違いなくギルバート殿下の魂。


孤独に震え、世界を呪い、それでも「私という存在」を狂おしいほどの執着で守ろうとしてくれる、残酷で、誰よりも美しい悪魔。


私をからかい、セクハラでいじめ抜きながらも、絶対に私を一人にしない人。


私の背中を、命を懸けて守ってくれる人。


私、この人のこと……。


認めるしか、ありません。


魔法のせいでもない。フェロモンのせいでもない。


この胸の奥がギュッと締め付けられて、彼に触れたい、彼を強く抱きしめたいって叫んでいるのは……紛れもなく、私自身の心だ。


今まで、脅迫されているから、共犯者だからと自分に言い聞かせてきた。


でも、もう誤魔化せない。


「……リリア。お前は絶対に、誰にも渡さない。僕の玉座の隣で、永遠に縛り付けてやる」


殿下が、熱に浮かされたような瞳で私を見つめ、その唇を塞ぐ寸前の距離で囁いた。


その底なしの独占欲に触れた瞬間。


ああ、なんて甘くて、重たい呪い……。


……ええ。望むところです。もう、どこにも行きませんよ。


「あ、あぁぁぁぁぁぁッ!!」


私は限界を超え、激しい痙攣と熱を放った。


同時に、殿下もまた「あンッ!」と艶やかな悲鳴を上げ、私の首にしがみついた。


「はぁっ……はぁっ……っ」


曲が終わり、蓄音機からノイズだけが響く部屋の中。


私たちはソファに雪崩れ込むように倒れ、互いの体を抱きしめ合ったまま、荒い息を繰り返していた。


「……上出来だ。これなら、明日の夜会でも完璧なリードができるだろう」


殿下が、汗ばんだ私の前髪を優しく払いながら、満足げに微笑む。


私は、まだジンジンと痺れる下半身の余韻に耐えながら、殿下のその優しすぎる手つきに、そっと目を閉じて彼の手のひらに自ら頬を寄せた。


明日は、第一王子派がうごめく戦勝祝賀舞踏会。


だが、今の私には、どんな陰謀も、どんな敵の罠も恐ろしくはなかった。


隣には、私の孤独を埋め、私を誰よりも愛し、そして私を狂わせてくれる『最強で最凶の相棒』がいるのだから。

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