第20話 正妻(候補)vs愛人メイド。泥沼の百合的修羅場と、脳がバグる公開NTR
聖ルミナ学園の午後の陽射しが、長く美しい影を大理石の廊下に落としていた。
しかし、私、リリア(体は王子)にとって、その穏やかな光さえも逃げ場のない処刑台の照明のように感じられていた。
……帰りたい。
今すぐ王宮の隅っこで、ひたすら無心で銀食器を磨く仕事に戻りたいです……っ。
前を歩く私の背中には、周囲の生徒たちからの畏怖と熱狂の視線が、まるで物理ダメージを伴う無数の矢のように突き刺さっている。
そして斜め後ろには、その視線の原因である『傾国の愛人メイド』ことギルバート殿下(体は私)が、蠱惑的な笑みを浮かべながらピタリと寄り添っていた。
彼が息をするだけで、あるいは優雅に長い脚を交差させて歩むだけで、極上の薔薇と麝香が混ざり合ったような雌のフェロモンが廊下に充満する。
すれ違う男子生徒たちはことごとく顔を赤らめて壁に激突し、女子生徒たちでさえその魔性の色香にため息を漏らして道を譲っていく。
私の体!お父様とお母様から授かった、毎日剣の素振りで鍛え上げた真面目な肉体が! 息をするだけで広範囲に『魅了』をバラ撒く、歩く生物兵器みたいになってます!
さらに私を絶望の淵に追いやっているのは、股間に装着された『秘密の魔導下着』だった。
殿下が周囲を威圧するために無意識に漏らす黒魔術の波長に過剰反応し、下着は授業中も休み時間も関係なく、王子の最も敏感な部分を、時に激しく、時にねっとりと責め立て続けているのだ。
「(殿下……っ、お願いですから、少し離れて歩いてください。フェロモンが濃すぎて、私の……この体の、下のほうが……ずっと、痺れっぱなしで……っ。体力と精神がゴリゴリ削られてます……)」
「(何を言っているんだい、リリア。愛人が主人の側を離れるわけにはいかないだろう? それに、君のその顔……下半身の快感に耐えて必死に眉間に皺を寄せている冷徹な表情、最高に『氷の覇王』らしくて様になっているよ)」
「(悪魔! ドS変態王子ッ! このセクハラ大魔王!)」
ピアスを通じた念話で抗議するものの、殿下は悪びれるどころか、私の背中にそっと指先を這わせ、さらに深い快楽のダメージを落としてくる。
そんな地獄の廊下を抜け、学園の中央階段に差し掛かったその時だった。
「――お待ちあそばせ、ギルバート殿下ァァァッ!!」
鼓膜を劈くような、甘ったるくも凄まじい声量。
ドスドスとヒールの音を高く鳴らしながら、階段の下から猛然と駆け上がってきたのは、燃えるような真紅のドレス制服に身を包んだ、縦ロールの金髪美女だった。
ベアトリス・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。
ギルバート殿下の婚約者候補筆頭令嬢。
先日の「夜這い未遂事件」で私のキザな台詞と殿下の黒魔術によって完全にメロメロにされていた彼女だが、今の彼女の顔は恋する乙女のそれではなく、般若のごとき怒りに満ちていた。
「殿下! 聞きましたわよ! 狩猟祭で素晴らしい武勇を立てられたことは大変喜ばしいですが……その横にいる、薄汚い泥棒猫は一体何事ですの!?」
ベアトリス様は、規格外の巨大な双丘を「ぼるんっ!」と怒りで揺らしながら、私の背後に控える殿下を扇子でビシッと指差した。
「学園中に噂が広まっておりますわ! 殿下が、どこの馬の骨とも知れない下働きのメイドを『専属の愛人』として囲い、白昼堂々いちゃついていると! 次期王妃に最も近いこの私というものがありながら、なんという破廉恥な……ッ!」
激高するベアトリス様の剣幕に、周囲を歩いていた生徒たちが「修羅場だ……!」「正妻候補と愛人の直接対決だ!」とゴクリと息を呑んで遠巻きに立ち止まる。
ひぃぃっ! ベアトリス様、ち、違います!
私は被害者で、殿下が私を無理やり……っ!
あと、薄汚い泥棒猫じゃありません、没落したとはいえ誇り高きヴァレリウス家の娘です!
私は心の中で必死に弁明したが、王子の声帯からそんな情けない言葉を出せるはずもない。
私が胃痛と下半身の振動に耐えかねて沈黙していると、背後からスッと、甘い香水を纏った影が前に出た。
「……おや。どこぞの喧しい羽虫かと思えば、公爵令嬢様でしたか」
殿下は、一切の動揺を見せることなく、むしろベアトリス様を心底見下ろすような冷ややかな笑みを浮かべた。
あああっ、殿下! 私の顔でそんな極悪スマイル浮かべないで!
性格の悪さが顔面から滲み出ちゃってます!
ベアトリス様、逃げて! そのメイドは私の皮を被った大魔王ですから!
「なっ……羽虫ですって!? ただの使用人の分際で、公爵家の娘たる私に向かって……!」
「声が大きいですよ、令嬢。殿下の鼓膜が傷ついたらどう責任を取るおつもりですか?」
殿下はゆっくりと階段を下り、ベアトリス様の目の前――鼻先が触れ合いそうなほどの至近距離まで詰め寄った。
「あなた、下がりなさい! 殿下の隣は、高貴な血を引く私の……ッ」
「高貴な血、ねぇ」
ふわりと、殿下の体から致死量のフェロモンが爆発的に放たれた。
それは男を狂わせるだけでなく、同性である女の理性すらも甘く溶かす、黒魔術によって精製された究極の魔性の香り。
「ひゃっ……!?」
ベアトリス様は、目の前のメイドから放たれた圧倒的な『魅力』と威圧感に当てられ、思わず一歩後ずさった。
殿下は、メイド服のスリットから覗く白く長い脚を一歩踏み出し、ベアトリス様の退路を塞ぐように彼女の耳元へと顔を寄せた。
「血筋が立派なだけで、殿下を満足させられるとでも思っているのですか? ……夜のベッドで殿下をお慰めする『技術』も、殿下のその冷たくも激しい情熱を受け止める『度胸』も持ち合わせていない小娘が」
「な、ななな何をッ! わ、私だって、殿下に求められればそのくらい……ッ!」
「無理ですね。あなたのような温室育ちのお嬢様では、殿下の『奥深くまで突き上げるような激しさ』には、到底耐えられない。三分で泣きを入れて気絶するのがオチです」
で、殿下ぁぁぁぁッ!! なんてこと言うんですか!!
私の純潔な体で、私を絶倫のドS王子みたいに仕立て上げないでくださいぃぃッ!!
私、そんな奥深くまで突き上げるような激しいプレイなんてしたことありません!
完全な濡れ衣です!
私は階段の上で、羞恥のあまり膝から崩れ落ちそうになっていた。
下着の振動が、私の動揺に呼応してさらに凶悪な唸りを上げている。
「〜〜〜〜ッ!!?」
ベアトリス様の顔が、沸騰したヤカンのように真っ赤に染まった。
純真な公爵令嬢の脳内で、殿下の言葉が卑猥な妄想となって大爆発したのだ。
「私と殿下は、すでに身も心も、魂の奥底まで混ざり合った共犯者……いえ、運命共同体なのです。ぽっと出の令嬢が割り込める隙間など、針の先ほどもありませんよ」
殿下はベアトリス様の顎を艶かしく指先で撫でると、トドメとばかりに振り返り、私(王子)の元へと戻った。
「ねえ、そうでしょう? 私の愛しい覇王様」
くっ……! こっちに来ないで!
その顔、私の顔なのに、完全に男を食い殺すサキュバスの顔になってますよ!
怖い! 色気がカンストしてて怖いです!
殿下は、大勢の野次馬が見守る中。
そして、顔を真っ赤にしてワナワナと震えるベアトリス様の目の前で。
私の背中に両腕を絡ませ、その長い黒髪を揺らしながら、私(王子の体)のうなじへと顔を埋めた。
そして、その白い首筋に、真っ赤な唇を押し当て――チュッ、と、いやらしい水音を立てて熱く口付けたのだ。
「あァッ……!?」
瞬間、私の口から、隠しきれない甘く高い嬌声が漏れた。
それは演技ではない。
首筋への直接的なキスの感触に加え、『感覚共有』のパスを通じて、殿下の唇が感じている「王子の肌の熱」と「所有物をマーキングする征服欲」が、私の脳髄にダイレクトにフィードバックされたのだ。
ああっ、頭が……!
私が私にキスされているのに、殿下のドSな感情が流れ込んできて、脳の処理能力が完全にオーバーフローを起こしています!
さらに、魔導下着が最大出力でエクスカリバーを抉り上げる。
それはもはや振動などという生易しいものではなかった。
視覚、触覚、そして魂の共有による三重の快楽攻撃。
完全に、致死量のオーバードーズだった。
「あ、はぁっ、んんぅッ……! だ、だめ、あぁっ……!」
立ってられない……!
私の持ち前のド根性が、フェロモンと快感の前に粉々に砕け散っていきます……っ!
私は、公衆の面前であるにも関わらず、完全に腰から力が抜け、殿下の腕の中にガクリと倒れ込んでしまった。
「……っ!!」
それを見たベアトリス様の脳が、完全にショートした。
「な、なんて……なんて淫らな主従……ッ! 白昼堂々、学園のど真ん中で、あんな、あんな破廉恥な……ッ!」
ツーッ……。
ベアトリス様の美しい鼻の穴から、一筋の赤い血が流れ落ちた。
限界を超えたショックと、あまりにも刺激の強すぎる「修羅場」の光景に、彼女の純情なキャパシティが完全にオーバーフローを起こしたのである。
「お、おぼえてらっしゃい泥棒猫ォォォォッ!! 私だって、いつか殿下を……殿下を、あんな風にドロドロにして差し上げますわァァァァッ!!」
ベアトリス様は鼻血を押さえながら、ドレスの裾を振り乱し、涙目で廊下の彼方へと走り去っていった。
あとに残されたのは、完全に度肝を抜かれ、畏怖と興奮で静まり返った生徒たちと――。
「ふふっ。手ぬるいですね、公爵令嬢。……殿下を本当にドロドロにできるのは、世界で私一人だけです」
腰を抜かした私を抱きとめながら、勝利者の笑みを浮かべる最強の悪女(中身は王子)だけだった。
……終わりました。
私の、清く正しい騎士の娘としての尊厳が、音を立てて消滅しました……。
ガクガクと小刻みに痙攣する王子の体の中で、私は涙と快楽にまみれながら、消え入りそうな声で念話を飛ばす。
「(……訴えます。王宮の……裁判所に、絶対に、訴えて、死刑にしてやります……っ、この変態大魔王……!)」
「(ははっ。死刑になるのはリリアの体だぞ? ……それにしても、今の君の声、最高にエロティックで可愛かったよ。ほら、まだ周囲が見ている。僕の腕の中で、愛人に骨抜きにされた『哀れで幸福な覇王』の演技を続けようか)」
殿下は、私の耳にそっと熱い息を吹き込みながら、さらに魔導下着の振動パターンをいやらしく変化させた。
「ひぃんッ! あ、や、やめ……あたま、白く、なるぅ……っ!」
だめ、これ以上は本当に、人としての尊厳が……ッ!
正妻候補を圧倒的な色気とドSプレイで完全撃退し、学園における『傾国の愛人メイド』の絶対的な地位を確立した殿下。
入れ替わった哀れな少女の貞操と理性は、悪魔のような共犯者の手によって、もはや修復不可能なレベルにまでドロドロに溶かされつつあった。




