第19話 傾国の愛人メイドは豚をヒールで踏み躙る
【視点:ギルバート】
聖ルミナ学園の敷地内、喧騒から切り離された静寂の領域にある特別サロン。
王族と高位貴族のみが立ち入りを許されるその密室は、磨き上げられた大理石の床に分厚い絨毯が敷かれ、豪奢なシャンデリアが天井から眩い光を落としている。
ふかふかのベルベットが張られた最高級のソファに、僕の可愛い半身であるリリア(体は王子)は、まるで糸の切れた操り人形のように倒れ込んでいた。
「……死ぬ。今度こそ、恥ずかしさで胃に穴が開いて死んでしまいます……っ」
クッションに顔を埋め、涙声で呻くリリアの姿。
そして何より、感覚共有のパスを通じて僕の脳髄に直接流れ込んでくる『極上のカクテル』に、僕は深く、甘い溜息を漏らした。
ああ……最高だ。
リリアの生真面目な理性が羞恥でゴリゴリと削られていく感覚。
僕の魔力に抗えず、無防備に甘い快楽に浸されていく絶望と心地よさ。
そのすべてが、パス越しに僕の心を極上に満たしてくれる。
午前中の授業は、僕にとってまさに至福のレクリエーションだった。
斜め後ろに立つ僕(体は侍女)が、ただ息をするだけで撒き散らす極上のフェロモン。
それに当てられた豚のような男子生徒たちの不敬な悪意を察知するたび、僕は『正当防衛』と称して精神干渉の黒魔術を放った。
その魔力行使に連動して、リリアの股間に装着させた『秘密の魔導下着』が強烈な振動を起こす。
机の下で必死に太ももを擦り合わせ、声を殺し、冷や汗を流しながら耐え忍ぶ僕の騎士……。
君が心の中で『変態!ドS!』と抗議の悲鳴を上げるたび、それが最高のスパイスとなって僕の嗜虐心をそそるんだ。
本当に、君はからかい甲斐がある。
「はぁ……はぁ……っ、もう、やだ……」
ソファの柔らかいクッションに顔を埋め、僕の端正な顔を涙と脂汗でぐしゃぐしゃにしているリリアを見下ろしながら、僕は重厚なオーク材の扉を開けた。
「おや。私の覇王様は、ずいぶんとだらしないお姿でお寛ぎのようだね」
鼻腔をくすぐる香り高いアールグレイと、甘い茶菓子の匂い。
銀のトレイを片手に、水面を滑るような優雅な足取りで入ってきた僕を見て、リリアは弾かれたように顔を上げた。
僕は純白のエプロンとスリットの深いスカートの裾をふわりと翻し、リリアの座るソファの肘掛けに腰を下ろす。
そして、絹のように滑らかな白い素足が覗く長い脚を、これ見よがしに艶かしく組み替えた。
「で、殿下ぁ……! お願いですから、この下着の出力を下げてください! 授業中、ずっと腰が震えて、黒板の字が二重に見えてたんですよ!? これじゃ勉強どころじゃありません!」
「それは困ったな。だが、第一王子派がいつ攻撃してくるか分からないだろう? 僕がいつ暗殺者の気配を察知して魔術を撃つか分からない以上、君の魔力回路は常に『絶頂寸前』で開いておいてもらわないと、いざという時に困るからね」
「そんなトンデモ理屈で、私の尊厳をすり潰さないでくださいッ! これただのセクハラです!」
涙目で必死に抗議するリリア。
……ああ、いい。
その涙目で僕を睨みつける顔。
もっと僕に不満をぶつけておくれ。君が僕を意識して感情を乱せば乱すほど、僕の胸の奥が甘く疼くんだ。
僕はその言葉を取り合うどころか、すっと手を伸ばし、白い指先でリリアの顎をそっと掬い上げた。
至近距離で交わる視線。
目の前にあるのは、紛れもなくリリア自身の顔だ。
だが、僕の魔力で完全に『傾国の悪女』へとクラスチェンジしたその顔に、リリアはドクンと心臓を大きく跳ねさせ、顔を真っ赤にして固まった。
「……君は、僕が君を守るためにこうして傍にいるのが不満なのか?」
甘く、鼓膜を直接溶かすような低い囁き。
同時に、顎に触れている僕の指先から、パスを通じて背筋が粟立つような心地よい電撃を流し込んでやる。
それは明確な快楽の波となって、リリアの全身の神経を甘く麻痺させていく。
「ひゃんッ……! ふま、ふまんじゃ、ないですけど……っ、やり方が……悪辣すぎて……あァッ!」
「ふふっ。素直でよろしい。あっそうだ。そろそろ厨房でマーガレットが焼きあがる頃だ。とってくるよ。ここで少し休んでいなさい、僕の可愛い王子様」
僕は心底満足げに目を細めると、リリアの唇に親指でそっと触れ、そのままひらりと身を翻してサロンを出て行った。
背後から、熱を持った体をソファに沈め、荒い息を吐き続けるリリアの乱れた吐息がパス越しに響く。
ふふっ、僕のいない間、少しは『おあずけ』を食らわせてあげよう。
君が僕の魔力を欲しがって震える姿を想像するだけで、足取りが軽くなるよ。
◇
陽光が降り注ぐ、緑豊かな学園の中庭。
リリアの昼食が入ったバスケットを片手に優雅に歩いていた僕の前に、無作法な足音と共に数匹の羽虫が立ち塞がった。
「おいおい、そんなに急いでどこへ行くんだい、極上の仔猫ちゃん」
ニヤニヤと品のない笑みを浮かべて道を塞いだのは、第一王子派である伯爵家の三男坊、ギデオンとその取り巻きたちだった。
「……道を空けていただけますか。殿下がお待ちですので」
僕は、一切の感情を排した、文字通り氷のように冷たい声で告げた。
だが、僕の見下すような絶対零度の視線すら、魅了の魔眼とフェロモンの効果によって『男を煽る極上の色気』と『サディスティックな誘惑』に変換されてしまっているらしい。
「つれないことを言うなよ。あの虚弱な引きこもり王子に仕えるなんて、退屈だろう? そんな男より、俺たちが、もっと『いいこと』をたっぷり教えてやるよ。なんなら今すぐ、あそこの茂みで……」
ギデオンが下卑た欲望を丸出しにして、唇を舐め回しながら、僕の白く細い手首を掴もうと不潔な手を伸ばした。
……は?
この薄汚いオークの出来損ないが、僕の……僕のリリアの大切な体に、気安く触れようとしたのか?
その瞬間、僕の中で絶対零度の殺意が沸点に達した。
「……気安く触るな、豚」
パァァァンッッ!!!
長閑な中庭に、破裂音のような甲高い平手打ちの音が響き渡った。
リリアの肉体が本来持っている恐るべき筋力に、僕の『黒魔術の衝撃波』を乗せたその一撃は、常人の理解を超える威力を生み出した。
ギデオンの巨体は顔面から軽々と数メートル宙を舞い、石造りの立派な噴水へと一直線に吹き飛ばされ、水飛沫を上げて激突した。
「がッ、ごふぅッ!?」
「「ギ、ギデオン様!?」」
白目を剥き、口から血と折れた歯を吐き出して痙攣するリーダーを見て、取り巻きたちが悲鳴を上げる。
僕は、自らの手を汚いものでも触ったかのように白いハンカチで丁寧に拭いながら、ゆっくりと噴水へ近づき、水に沈むギデオンの顔面を、鋭いヒールで容赦なく踏みつけた。
「あァッ!?」
「いいか、よく聞け下等生物」
魔王の冷酷さが、陽気な中庭の空気を一瞬にして氷点下まで凍てつかせる。
「この美しい体は、至高なる僕……ギルバート殿下だけのものだ。殿下以外の薄汚い雄の視線を浴びるだけでも不愉快なのに、触れられるなど、反吐が出る……。次にその汚い手を伸ばせば、腕の骨を内側から腐らせてやるわ」
「ヒィィィッ!! ば、化け物……ッ!」
取り巻きたちは失禁し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
ふん。他愛もない。
……おっと、少し黒魔術を出力しすぎたか。これではサロンにいるリリアの下着が、特大の振動(を起こしてしまっているな。
……まあいい、どうせ僕を心配してすっ飛んでくるだろう。
……案の定。
「な、何事ですか!?」
特別サロンから飛び出してきたリリア(王子姿)が、息を切らして駆けつけてきた。
「(で、ででで殿下!? 私の体でなんてドSな顔して人を踏んでるんですか!!)」
パス越しにビンビンと伝わってくるリリアのパニックと、股間の快感を持て余して半泣きになっている感情。
ああ、本当に愛おしい。
もっと君を困らせて、僕なしでは生きられないようにしてあげよう。
僕はリリアの姿を認めるや否や、踏みつけていた足をスッとどけ、冷酷な死神のような顔から、恋に溺れる可憐な顔へと一瞬で表情を一変させた。
「ああ……殿下っ」
僕は熱に浮かされたような甘い声を上げ、リリアの胸元へと駆け寄り、すがりつくように強く抱きついた。
「申し訳ありません、私の覇王様。……どこぞの汚い羽虫が、殿下の『所有物』である私に無理やり触れようとしたものですから、つい……。私を好きにしていいのは、殿下のその冷たい手だけなのに……っ」
僕の言葉は、中庭を取り囲んでいた野次馬の生徒たちの耳に、一言一句違わずはっきりと届いていた。
「お、おい、聞いたか……? 『私を好きにしていいのは殿下だけ』って……」
「あんな猛獣のような女を、完全に傅かせているのか……?」
「氷の覇王は、夜な夜なあの猛獣をベッドで『調教』しているんだ……!」
生徒たちの間で、リリアに対する畏怖と盛大な勘違いが、エベレスト級の高さにまで膨れ上がっていく。
「(ち、ちがうぅぅぅぅッ!!)」
リリアは、胸にすがりつく僕の豊かな膨らみを直接感じながら、心の中で血の涙を流して激しく首を振った。
「(猛獣(王子)に調教されてるのは私の方です! 今だって、殿下が黒魔術を使ったせいで、私の下着がブルブル震えて大変なことになってるのにぃぃッ!)」
知っているよ。
君の体が今、僕の魔力にどれだけ甘く震えているか。
君のその絶望と羞恥の入り混じった感情が、僕をたまらなく興奮させるんだ。
だが、リリアが股間の振動に耐えるために奥歯を噛み締め、眉間に深い皺を寄せたその表情は、周囲の目には「騒ぎを起こした愛人を冷酷に見下ろす、絶対的な支配者」の顔にしか見えなかった。
「……まったく。お前は少し、躾が必要なようだな」
リリアは、快感で震える声をごまかすために、わざと低く押し殺した声を腹の底から絞り出した。
ほう……? 侍女たちの間で流行っていた『ロマンス小説の俺様ヒーロー』の真似事か。
必死な抵抗が可愛らしいじゃないか。
僕は、リリアのその咄嗟の機転に内心で大爆笑しながら、わざと頬を紅潮させ、太ももを擦り合わせた。
「あぁっ……殿下。そんなに恐ろしい声で叱られたら、私……ここが、熱くなってしまいますわ……っ」
「(いい加減にしてください!変態王子ィィィッ!)」
リリアの悲痛なツッコミは念話でのみ空しく響き渡る。
もはや学園において、「誰も手出しできない冷酷な氷の覇王」と、「彼にしか傅かない傾国のドS愛人メイド」という、僕にとって最高に都合の良い最凶主従の構図は決定的なものとなった。
「さあ、お昼にしましょう、殿下。私が直接、殿下のお口に『あーん』して差し上げますからね。サロンに戻りましょう」
「……胃が痛い。帰りたい……」
バスケットを開き、周囲にこれ見よがしに見せつけるようにリリアの腕に豊かな胸を押し当てる。
そのたびに、感覚共有を通じて女体の柔らかな感触と、下着の容赦ない刺激がリリアの脳髄を直接揺さぶり、意識を白く飛ばしそうになるのが伝わってくる。
ふふっ。逃がさないよ、僕の可愛い共犯者。
君の心も、体も、そしてその抗議の声も。
すべては僕の渇きを癒す、極上のご馳走なんだから。




