表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/66

第18話 傾国の美女(中身は王子)、学園に降臨す。胃痛の覇王と密着プレイ

血生臭い王立狩猟祭から数日後。


聖ルミナ学園の正門前は、朝から異様な熱気と、そして水を打ったような静寂に包まれていた。


豪奢な王家の馬車が到着し、御者が恭しく扉を開ける。


最初に降り立ったのは、私、リリアだ。


第三王子ギルバートは今や狩猟祭で「単独でグリズリーを討伐した」という生ける伝説と化していた。


集まっていた生徒たちがゴクリと息を呑む。


だが、彼らの視線を真に釘付けにしたのは、王子の後に続いて馬車から降り立った『影』だった。


「お手をどうぞ、可愛い王子様」


鼓膜を甘く撫でるような、蕩ける声。


王子の手を取り、しなやかな動作で馬車から降り立ったのは、一人のメイドだった。


学園の規則スレスレ……いや、完全にアウトなほどに着崩された特注のメイド服。


コルセットで暴力的なまでに強調された豊かな双丘は、呼吸のたびに零れ落ちそうに揺れ、深いスリットの入ったスカートからは、歩みを進めるたびに眩しいほど白く滑らかな太ももが大胆に覗く。


歩くたびに、極上の薔薇と麝香(ムスク)を混ぜ合わせたような、むせ返るようなフェロモンが周囲に撒き散らされた。


「な……ッ、なんだあの絶世の美女は!?」

「で、殿下の後ろに控えている……もしかして、噂の『専属愛人』か!?」

「おい、目が合ったぞ……ッ! くそっ、見つめられただけで下半身が熱く……!」


男子生徒たちの顔が次々と林檎のように朱に染まり、中には鼻血を押さえてその場にうずくまる者まで現れる。


女子生徒たちも、そのあまりの美貌と色香に圧倒され、嫉妬すら忘れて魅入られていた。


傾国のサキュバス、学園に完全降臨。


その光景の中心で、私、リリアは、周囲には「冷徹な王者の無表情」に見える完璧なポーカーフェイスを張り付けながら、心の中では血の涙を流して絶叫していた。


お、お嫁に行けない! 


私の体で、大切に育ててきた純潔な体で、なんて破廉恥なフェロモンを振り撒いているんですか、この変態ドS大魔王はぁぁぁッ!! 


見てください、男子生徒たちがみんな発情したオークみたいな目で私の体を見てますよ! 


やめて、見ないで、それは私のなんです!


私の斜め後ろを歩くメイド――殿下は、周囲の熱狂を心地よさそうに浴びながら、妖艶な微笑みを浮かべていた。


かつてかけていた分厚い『伊達眼鏡』は、すでにない。


魔力回路を全開にし、私の肉体が持つ健康的な生命力を「魅了の魔眼」と「極上のフェロモン」に変換して、パッシブスキルのように垂れ流しているのだ。


「……殿下。いくらなんでも、目立ちすぎです。少しは自重してください。学園は魔獣がうごめくダンジョンじゃありませんよ」


私は口角をわずかに動かすだけで、周囲に聞こえないよう小声で抗議した。


しかし、殿下は悪びれるどころか、私の背中にピタリと身を寄せ、その首筋に顔を近づけてきた。


「何を言っている。僕は君の『愛人(共犯者)』だろう? 第一王子派の雑魚どもに、僕の所有物(君)に手を出せばどうなるか、この圧倒的な『格の違い』を見せつけてやっているのさ」


殿下の熱い吐息が、私の耳をくすぐる。


それと同時に。


「ひゃうッ……!?」


私のズボンの下で、あの忌まわしき『秘密の魔導下着』が、ブルルンッ!と凶悪な振動を始めた。


ただでさえ殿下の至近距離フェロモンに当てられて敏感になっている王子の体が、直接的な快感の直撃を受け、ビクッと大きく跳ねる。


なっ、何をするんですかっ! 


「(歩き方が少し硬いぞ、リリア。もっとリラックスして、腰を振って歩け。僕の魔力に身を委ねるんだ)」


ピアスを通じた念話に、殿下の嗜虐的な笑い声が混じる。


彼は私の背中に手を添えるふりをしながら、感覚共有のパスを通じて、私の脳内に直接『殿下が感じている衣服の摩擦』や『柔らかな胸の揺れ』という女体の感覚を強制的に送り込んできた。


や、やだ、気持ちいい……じゃない、気持ち悪いです! 


頭がどうにかなりそうです! 


……処理落ちして意識がフリーズしそうですぅっ!


「んくぅ……っ、や、やめ……あたま、真っ白に……っ」


「(ほら、周囲の男どもが君を見ているぞ。氷の覇王が、愛人の指先一つで、こんな公衆の面前で感じているなんて知られたら、どうなるだろうね?)」


極度の緊張と、とめどなく溢れる快楽。


私は足元がおぼつかなくなりそうになるのを、騎士の娘としてのド根性だけで必死に堪え、生徒たちの波を歩き続けた。


端から見れば、それは「絶世の美女を従え、威風堂々と歩く氷の覇王」という完璧な一枚の絵画だったが、その実態は「ドSな愛人メイドに、歩きながら感覚共有で責め立てられ、常に胃痛と戦う哀れな役」である。


                     ◇


教室に入ると、さらに逃げ場のない地獄が待っていた。


私が自分の席に座ると、当然のように殿下がその真横に立ち、クラスメイトたちへ向かって恭しく頭を下げた。


「皆様、初めまして。本日よりギルバート殿下の『専属身の回り世話係』として付き従うことになりました、リリアと申します。以後、殿下共々お見知りおきを」


艶然と微笑む殿下に、教室中の男子生徒の理性が、爆発音を立てて空の彼方へ消し飛んだのがわかった。


「「「は、はいぃぃっ! よろしくお願いします!」 」」

「なんて美しい……いや、だめだ、殿下の愛人に手を出したら一瞬で氷漬けにされて殺されるぞ……ッ」


ざわめく教室内。


授業が始まっても、殿下は私の斜め後ろに立ち、時折私の肩の埃を払うふりをして首筋を撫でたり、耳元でノートを取る指示を囁いたりして、圧倒的な『マウント』を取り続けていた。


愛人って自分で言っちゃった! 公言しちゃった! 


私の清純派メイドとしてのキャリアプランが、音を立てて完全崩壊しました! 


第一王子派の息がかかった生徒たちが、狩猟祭の復讐とばかりに私を睨みつけてくる。


だが、彼らが何らかの行動を起こそうとする前に、殿下のアメジストの瞳が、彼らを冷酷に射抜いた。


『――這いつくばれ、豚共』


極小の精神干渉。


それだけで、第一王子派の生徒たちは白目を剥き、口から泡を吹いて次々と机に突っ伏して気絶していった。


「おや、どうしましたか皆様? 殿下の威光に当てられて、お疲れのようですね」


殿下はクスクスと妖艶に笑いながら、完全に教室の空気を支配していた。


誰も殿下に逆らえない。


誰も殿下から目を離せない。


胃が……胃に特大の穴が開きます……! 


誰かポーション! 


最上級のポーションをください! 


精神安定剤でも可です!


私は、机の下で震える太ももを固く閉じながら、滝のような脂汗を流していた。


殿下が第一王子派を視線だけで処理するたびに、魔力行使の余波として『魔導下着』の振動が強くなり、私の下半身を情赦なく苛んでくるのだ。


あああっ、また振動のレベルが上がった! 授業中ですよ!? 


「(……殿下、もう限界です……お腹が、痛い……変な声が、出ちゃいます……っ)」


「(我慢しろリリア。この程度の快楽で音を上げるようでは、僕の『玉座』の隣には立てないぞ。……それとも、ここで僕に押し倒されて、皆の前で啼かされたいのか?)」


どこまでもサディスティックな魔王と、逃げ場のないしがない侍女。


昼休みの鐘が鳴り響いた瞬間、私は弾かれたように席を立ち、逃げるように教室を飛び出した。


「あっ、殿下! お待ちくださいませ、お昼のお食事が……ふふっ、本当に可愛らしいお方」


追いかける殿下の足取りは、どこまでも優雅で、追い詰められた獲物をいたぶる肉食獣のそれだった。


廊下を全力疾走で走り抜けながら、私は絶望のどん底にいた。


狩猟祭の死闘を生き延びたというのに、学園生活はさらにカオスで、エロティックで、胃の痛くなるような日々へと変貌を遂げてしまったのだ。


「こんなの、森の中で暗殺者に囲まれてる方がまだ精神的にマシですぅぅぅッ!!」


氷の覇王の悲痛な叫びは、誰の耳にも届くことなく、聖ルミナ学園の青空へと虚しく吸い込まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ