第15話 傾国の悪女降臨。快楽に沈む森と狂気の愛情表現
【視点:ギルバート】
鬱蒼と生い茂る『魔の森』の西区画。
僕の可愛い半身であるリリア(中身は侍女)がグリズリーと死闘を繰り広げていた場所から少し離れた暗がりで、僕――真の第三王子ギルバート(体は侍女)は、静かに息を潜めていた。
僕はリリアの肉体を使い、第一王子派の愚か者どもが森中に張り巡らせた結界の起点を、裏から隠密裏に次々と潰しつつ、ピアスと魂のパスを通じて彼女へ魔力を送り続けていたのだ。
「…………は?」
突然、僕の口から、素っ頓狂な声が漏れた。
パス越しに伝わってくる情景。
魔力供給が一時的に途切れた絶体絶命の状況で、あの生真面目で脳筋な下働きの娘は、なんと「物理的な剣術の型と重力」のみを利用して、狂化した高ランク魔獣の突進を自滅させたのだ。
……馬鹿な。あり得ない。
僕の予測を、純粋な『騎士の意地と筋肉』が軽々と超えた瞬間だった。
『はぁ、はぁ……殿下も、驚いてばかりいないで、作戦、ちゃんと遂行してくださいよね』
そして、極度の疲労と絶頂の余韻でガクガクに震えているはずの体から、通信越しに飛んできた生意気な軽口。
「……ふっ。あはは、はははははっ!」
薄暗い森の中で、僕はたまらず口元を手で覆った。
……ああ、本当に、なんて馬鹿で、愛おしく、そして最高の女だろう。
僕の想像など、あの娘は笑って飛び越えていく。
僕が今まで見てきた、計算通りにしか動かない退屈な貴族どもとは全く違う。
絶望を突きつけられてなお、あの娘の心は1ミリも折れていなかった。
「ああ、まったく……君というやつは! ああ、任せておけ、僕の無茶苦茶な王子様。君の作った道は、僕が最高のエスコートで切り開いてやる」
通信を繋いだまま、暗い森の中で天を仰いだ。
リリアの肉体――今、僕が纏っているこの美しい侍女の体は、先ほどリリアが味わった絶頂の強烈なフィードバックを微かに受けて、芯から甘い熱を帯びていた。
僕だけが安全な裏方で手を抜いていると思われたら、男の……いや、『共犯者』の名折れというものだ。
君が真正面からヘイトを集めてくれるなら、僕は裏から、この森に潜む敵を『全滅』させるまでだ。
僕は口元を妖艶に歪め、自身の顔にかけられていた分厚い『認識阻害の伊達眼鏡』を、ゆっくりと外した。
リミッターが外れた瞬間。
眠っていた僕の精神性と、限界まで開発され尽くした魔力回路が完全にリンクする。
「さあ、見せてやろう。僕が丹精込めて作り上げた、この極上の肉体の『真の力』を」
僕は、両手を広げた。
ズンッ……!!
大気を震わせ、どす黒い紫色の魔力が、僕を中心に爆発的に吹き荒れる。
ただの魔力ではない。
それは、リリアの健康な肉体が無意識に生成する『フェロモン』と、僕の『精神支配の黒魔術』を悪魔的な比率で融合させた、致死性のフィールド魔法だ。
むせ返るような、甘く、脳髄を直接溶かすような香りが、風に乗って森中に拡散していく。
「さて、お掃除の時間だ」
僕が優雅に一歩を踏み出すと、茂みの奥から潜んでいた第一王子派の暗殺者たちが姿を現した。
愚兄が放った、暗殺部隊の別働隊だ。
「チッ、標的の王子じゃねえ。ただのメイドかよ。さっさと殺して……」
「迷い込んだのか? ……いや、待てよ。なんだこの女、すげえいい匂いが……」
暗殺者たちは舌打ちをしながらも、僕(リリアの体)の姿を見た瞬間、全員の動きがピタリと止まった。
「あ、あぁ……?」
「なんだこれ、頭が、フワフワする……ッ。おい、あのメイド、とんでもない極上じゃねえか……?」
「あ、あぁ……なんて、いい匂い、だ……。俺の、俺のモノに……」
「女神……いや、美の、化身……」
馬鹿な連中だ。
王子の背中を狙っておきながら、僕のフェロモンにあっさり引っかかるなんて。
……その濁った眼球で、この僕の体を直視する罪は重いぞ?
彼らの視線は、僕の体に完全に吸い寄せられている。
乱れた漆黒の髪、挑発的にスリットが入ったスカートから伸びる白磁の脚、そして、紫水晶の瞳から放たれる、冷酷で圧倒的な色気。
「僕の可愛い王子様に刃を向けた罪は重い。……その薄汚い命、極上の悦びと共に散らしてやる」
僕は、妖艶な微笑みを浮かべて、彼らに向かって甘い投げキッスを放った。
たったそれだけのアクション。
物理的なダメージはゼロだ。
だが、空気に溶け込んでいた黒魔術が、暗殺者たちの脳の快楽中枢を強制的に限界突破させた。
「「「「ひ、ヒギィッ!? あ、アァァァァァァァァァァッ!!」」」」
男たちが、一斉に背中を反らせて奇声を上げた。
武器を取り落とし、地面を転げ回り、自身の体を掻きむしりながら、致死量の絶頂の波に溺れていく。
魔力によって致死量まで引き上げられた快感は、人間の脆弱な神経を焼き切り、心臓を破裂させる劇薬となる。
「あ……最高、だ……もっと、もっとぉっ……!」
「あぁぁっ、しぬ、気持ち、よすぎ、て、頭、割れ、るぅぅぅッ!!」
「メイド、メイドさん、あ、あァァァァァァァッ!!」
醜い。這いずる虫の方がまだ理性がある。
だが……効率の良い魔法だ。
防御力も魔法耐性も完全に無視して、脳を直接破壊できるのだから。
ビタンッ、ビタンッ! と、まるで陸に打ち上げられた魚のように、男たちが泥まみれの地面でのたうち回る。
彼らは白目を剥き、かつてないほどの幸福と快楽に顔をだらしなく歪ませながら、次々と息絶えていった。
全身からおびただしい体液を撒き散らしながらの、あまりにも無様で狂気に満ちた最期。
だが、僕の歩みは止まらない。
僕の放つフェロモンは、人間だけでなく、森に生息する凶悪な魔獣たちすらも狂わせていく。
群れで襲いかかってきた高ランク魔獣『ブラッド・ウルフ』たちも、僕が流し目で睨みつけ、指先でふわりと手招きをした瞬間に、その凶暴性を完全に失った。
「キュゥゥン……ハァッ、ハァッ……」
巨獣たちが、まるで発情した小型犬のように僕の足元に擦り寄り、腹を見せて悶え始める。
お前たちも、僕の可愛い王子様の邪魔をする気だったのだろう?
……大人しく死ね。
僕がヒールでその鼻先を冷酷に踏みつけると、それだけで魔獣たちは「ギャンッ!」と歓喜の悲鳴を上げ、大量の泡を吹いて脳死による絶頂死を迎えた。
歩く。
ただ微笑み、艶やかに森を歩くだけ。
それだけで、愚兄が数ヶ月かけて森に配置した精鋭の暗殺部隊も、強力な魔獣たちも、すべてが僕の快楽の奴隷と化し、魂を抜かれて死んでいく。
振り返れば、そこにはこの世の物とは思えない地獄絵図が広がっていた。
僕が通った跡には、人も魔獣も見境なく、全身を痙攣させ、至福のアヘ顔を浮かべたまま事切れた『絶頂死の屍の山』が築き上げられていた。
血の匂いなど一切しない。
森の奥底は、ただただ淫靡で甘ったるい匂いだけが充満している。
「はぁ……なんて恐ろしい体だ。僕の黒魔術を、こうも容易く『大量破壊兵器』の次元まで昇華させるとはね」
僕は、自身の――リリアの――指先を舐め上げ、うっとりと目を細めた。
剣も魔法の詠唱もいらない。
ただ存在するだけで、敵の理性を溶かし、快楽の底へと引きずり込んで命を奪う。
「これで、君の背後を狙う雑魚はすべて片付けた。……さあ、安心して真っ直ぐに進むといい、僕の愛しい王子様」
月明かりの下、血の代わりに白い体液で汚れた屍の山の上に立ち、僕は妖しく、そしてどこまでも誇り高く微笑んだ。
もう、誰にも僕たちを邪魔させない。
この森のすべてを快楽の底に沈めてでも、君だけは僕が守り抜いてみせるさ。
第一王子の下劣な謀略は、この僕たちという最高に狂った共犯者の前で、すでに完全崩壊の音を立て始めていた。




