表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/66

第12話 猛毒の解毒と魂の共鳴。

第一王子派が仕掛けた「セイレーンの涙」――象すら発情狂いさせるという、理性完全崩壊レベルの超強力な魔薬トラップ。


その致死量の薬効の八割方を、王宮にいるギルバート殿下(体は侍女)が魔術のパスを通じて肩代わりするという荒業で、私、リリア(体は王子)はなんとか公衆の面前での醜態を免れた。


だが、地獄の本番はここからだった。


「はぁっ、んっ……あ、はぁっ……!」


夜の学生寮。


自室の天蓋付きベッドの上で、私はシーツを強く握りしめ、荒い息を吐いていた。


あ、熱い……! 


体が、内側からドロドロに溶かされそうです……ッ!


残りの二割とはいえ、魔薬の力は凄まじかった。


シャワーで冷水を浴びても、王子のエクスカリバーはミスリル合金のように硬く張り詰め、ズキズキと痛いほどの熱を放っている。


どうして男の人の体って、こんなに分かりやすく状態異常が外に現れるんですか!? 


ごまかしがきかないじゃないですか!


全身の血がマグマのように沸騰し、皮膚の下を無数の羽毛で撫で回されているような、狂おしいほどの焦燥感が私を苛んでいた。


『――限界のようだな、リリア』


静寂な部屋に、ノイズ混じりの、しかし異常なほど色気を孕んだ殿下の声がピアスから響いた。


「でん、か……っ!助けてください……!もうだめ、頭が……おかしくなりそうです……っ」


『僕も同じだ。八割の薬効を僕の方で受け止めたんだからな。……いいか、リリア。この魔薬は、完全に排出しないと熱が引かない』


通信越しに、衣擦れの音と、ねっとりとした甘い吐息が聞こえてくる。


王宮の開かずの間で、殿下が自ら(私の体)を慰めているのだ。


ひぃっ! 私の体で、なんていやらしい音を立ててるんですかあの魔王は!


『今から、魂のパスを全開にする。感覚の同調率を極限まで引き上げるぞ。僕の動きに合わせて、君も自分のソレを扱け。……徹底的に、一滴残らず絞り出すんだ』


「ひゃんっ!? だ、だめ、そんなことしたら、私……!」


絶対無理です、私の乙女の尊厳が完全に死滅します! 


お父様、お母様、娘はもうダメかもしれません!


拒否する間もなく、私の背筋に雷属性の極大魔法のような快感が突き抜けた。


「あァッ!?」


王子の低い喉から、自分でも信じられないような声が弾ける。


殿下が、私の秘部の最も敏感な部分を、指で容赦なく抉り上げたのだ。


ああっ、だめ! 


媚薬の熱と、感覚共有による強制的な快楽。


『そうだ、いいぞ……っ。 ああっ、君の体、なんて淫らなんだ……』


「んくぅっ! や、やめ……あたま、真っ白に……っ!」


もう、どっちが男でどっちが女か分かりません……! 


ただ、気持ちよくて、熱くて、苦しい……ッ!


そして、魂のパスが全開になったその瞬間――強烈な快楽を媒介として、二人の精神の境界線が溶け落ちた。


――流れ込んでくる。


それは、言葉ではなく「情景」だった。


ギルバート殿下の、心の奥底に分厚い氷で封じ込められていた原風景。


冷たい石造りの部屋。


血を吐きながら咳き込む、幼く脆弱な少年。


『出来損ない』『玉座のスペアにもならないゴミ』と、扉の向こうから聞こえる兄たちの冷酷な嘲笑。


そして、青白い顔でベッドに横たわる美しい女性――彼のお母様が、少年の手を力なく握りしめ、涙を流している姿。


『ごめんなさい、ギルバート。貴方に、こんな弱い体を産み落としてしまって……ごめんなさい……』


やがてお母様は息を引き取り、幼いギルバート殿下は一人残された。


『どうせすぐ死ぬスペアだ』『近づくな、病気がうつるぞ』


圧倒的な孤独。


毎夜、目を閉じればそのまま朝を迎えられないかもしれないという、死に対する悍ましいほどの恐怖。


誰も信じられない。


誰も助けてくれない。


だから……だから殿下は、自ら部屋に鍵をかけて、暗闇の中で黒魔術っていう「力」だけにすがりついたの……?


快楽の波に揉まれながら、私は無意識にポロポロと涙を流していた。


その孤独は、あの絶望は、私自身もよく知っているものだったからだ。


無実の罪を着せられ、誇りを奪われて死んでいったお父様の背中。


周囲から手のひらを返され、没落の憂き目に遭いながらも、父の潔白を信じて必死に体を鍛え続けたあの日々。


私の胸が、激しく締め付けられた。


彼が部屋に引きこもり、周囲を嘲笑い、危険な黒魔術に手を染めたのは、決して彼が生まれついての悪魔だったからではない。


そうしなければ、あの冷酷な王宮という名の魔窟で、恐怖に押し潰されて死んでしまうからだったんだ。


殿下……っ。


『リリア……!』


殿下の悲痛なまでの渇望が、快楽に乗って私の魂を貫いた。


互いの心の欠落を、互いの魂で埋め合わせるような、深く、濃密な交わり。


一人で、ずっとあんな冷たい場所で……。


もう、大丈夫ですよ、殿下。


私が、私がいますから……ッ!


「殿下…ッ!!」


二人の魂が、甘い熱を帯びて完全に満たされていく。


「はぁっ……はぁっ……ぁ……」


全身がガクガクと痙攣し、私は涙と汗でぐしゃぐしゃになりながら、ベッドに沈み込んだ。


あれほど荒れ狂っていた媚薬の熱は、嘘のように引き潮となって消えていく。


代わりに残ったのは、圧倒的な疲労感と、「また自分自身と情事を重ねてしまった」という背徳感。


……そして、胸の奥底に灯った、小さな熱。


『……ふぅ。見事な解毒だったな、リリア』


ピアスから聞こえる殿下の声は、すっきりと晴れ渡っていた。


そこにはいつもの尊大なドS王子しかおらず、先ほど私が見た彼の脆弱な本音は、再び分厚い殻の奥に隠されていた。


「……訴えます。元の体に戻ったら、絶対に王宮の裁判所に訴えてやりますからね……このセクハラ魔王……」


『ははっ、楽しみにしているよ。さあ、明日に備えて眠れ。君の明日の顔色を見るのが楽しみだ』


通信が切れる。


静かになった部屋で、私は自分の胸――王子の平らな胸にそっと手を当てた。


ドクン、ドクンと、静かに波打つ心音。


悪魔のような、変態ドS王子。


だが――。


……放っておけないじゃないですか、あんなの。


強がってるだけの、寂しがり屋の子供みたいでしたよ。


記憶の中で泣いていた幼いギルバート殿下の姿が、私の脳裏から離れない。


それは、身分違いの一介の侍女が抱くべきではない、まだ言葉にできない淡い想いだった。


                    ◇


翌日。


学園の教室は、教師から告げられた一大イベントの発表により、異様な熱気に包まれていた。


「皆もすでに噂で聞いているだろうが……来週、王家主催の『王立狩猟祭』が執り行われることが正式に決定した。場所は、王都北方の『魔の森』だ」


担任の老教師の言葉に、生徒たちが色めき立つ。


教室がざわめく中、私は一人、顔面蒼白になっていた。


ま、魔の森!? 


あそこは本物の魔獣が跋扈する危険地帯ですよ!


そこで王家主催の行事をやるんですか!? 


「なお、今回は国王陛下の勅命により……ギルバート殿下も、特別枠として参加されることが決定いたしました」


生徒たちが「ついに氷の覇王がその真の力を振るうのか!」と熱狂する中、私の耳元のピアスから、殿下の舌打ちが聞こえた。


『……やられたな』


「(えっ?)」


『僕に拒否権を与えないよう、愚かな兄上が父上に直接手を回したか。学園という安全地帯に僕がいるのが邪魔になったんだろう。狩猟祭なら、魔物の仕業に見せかけて僕を暗殺するのは簡単だからな』


暗殺……!?


『リリア。すぐに腹でも下して医務室へ行け。適当な病状をでっち上げて、狩猟祭への参加を辞退するんだ。僕が適当な言い訳を作って辞退させてやる』


殿下の口調は早口で、どこか焦りを含んでいた。


彼なりに、私を巻き込むまいとしているのが伝わってくる。


――逃げる?


ここで辞退すれば、命は助かるかもしれない。


でも……。


「氷の覇王」の虚像は崩れ去り、第三王子は再び「臆病な引きこもり」として、いつか本当に暗殺される運命を辿るだろう。


昨夜、魂のパスを通じて触れた、あの震える小さな背中。


彼が抱える深い絶望と闇。


それを知ってしまった今、ここで背を向けることができるの?


お父様……。


私の脳裏に、偉大だった父の言葉が蘇る。


『リリア。真の騎士とは、絶望的な戦場から決して逃げない者のことだ。助けを求める者がいるなら、己の剣を盾として彼らを守り抜け』


濡れ衣を着せられ、誇りを奪われて没落した父の無念。


その無念を晴らすため、己の正義を貫くために、女の身でありながら血を吐くような努力で体を鍛え上げてきたのではなかったの。


相手が第一王子だろうが、凶悪な魔物だろうが関係ない。


ここで逃げるのは、己の魂を、そして父から受け継いだ騎士の誇りを曲げることだ。


なら、私が盾になり剣になります。


私が払います。殿下の中に巣食う、あの冷たい闇を!


「(……逃げません)」


私は、机の下で震える膝を両手でバンッ!と強く叩き、真っ直ぐに顔を上げ、背筋をピンと伸ばした。


『……リリア? 何を言っている!? 死ぬ気か!』


「(私が行きます。殿下の体は、私が守ります。……だから殿下も、約束してください)」


『何をだ』


「(絶対に、私を死なせないと。殿下のその『天才的な黒魔術』で、後衛から私を全力でサポートしてください!)」


沈黙が降りた。


王宮の開かずの間にいるギルバート殿下は、魂のパスを通じて、私の心に一片の偽りもないことを感じ取っていたはずだ。


私にあるのは、純粋な正義感と、殿下を守ろうとする、騎士としての熱い意志だけ。


やがて、ピアスから、ふっと吹き出すような笑い声が聞こえた。


『……ははっ、はははははっ!……君は本当に馬鹿なヤツだな』


それは、いつもの人を小馬鹿にした嘲笑ではなかった。


歓喜と信頼が入り混じった、狂気的で美しい笑い声。


『言ったな? ただの下働きのメイドが、王族の暗殺計画を真正面から叩き潰すと』


「(はい。叩き潰します。私のこの、鍛え上げた鋼の精神で!)」


『いいだろう、リリア。君がその気なら、僕の(からだ)を君の意志に預けよう』


殿下の声は、かつてなく低く、熱を帯びていた。


ここに、最強の筋肉脳を持つ侍女と、最凶の黒魔術を操る引きこもり魔王の、真の契約が結ばれた。


殿下!


私、必ず魔の森から、生きて帰ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ