第11話 悪魔のモーニングコールと不屈のメイド
翌朝。
学園の特別寮、第三王子ギルバート殿下の自室に設えられた豪奢な天蓋付きベッドの上で、 私、リリア(中身は侍女)は、今日という日に絶望しながら目を覚ました。
「……んぅ、あ……っ、は……!?」
けたたましい目覚まし時計の音よりも早く、私の意識を強制的に現実に引き戻したのは、下腹部から脳髄へと突き抜けるような、暴力的かつ甘美な快感だった。
『――おはよう、リリア。約束通り、極上のモーニングコールだ』
耳元に仕込まれた魔力通信のピアスから、殿下(体は侍女)の甘く、そして底意地の悪いサディスティックな囁きが脳内に直接響き渡る。
「ひゃうっ!? で、殿下……朝から、何を……!」
『寝起きの君の体があまりにも無防備で、そして愛らしくてね。つい、指先で入念な朝の挨拶をしたくなってしまったんだ。……ほら、ここが好きなのだろう?』
王宮の「開かずの間」に引き籠もっている変態王子は、今まさに私の本来の柔らかな肉体を魔力で拡張しながら、丹念に、そして執拗にほぐしているのだ。
感覚共有の容赦ない嵐が、寝起きの王子の体に入っている私を容赦なく襲う。
「あ、ぁぁっ、だめ、また、硬く……ッ! ああっ!」
なんで! なんで自分の体を遠隔で弄られて、こっちの王子のエクスカリバーが元気いっぱいになっちゃうんですか!
生命の神秘のバグです!
王子の朝の生理現象と、殿下から強制的に送られてくる女の快感が混ざり合い、私は高級なシーツを強く握りしめて身悶えした。
お嫁に行けない!
朝の爽やかな光が差し込む部屋で、一人、自身の股間にそそり立つ『聖剣』の熱さにポロポロと涙を流すなんて、どんな地獄ですか!
『いいぞ。今日も僕の体はすこぶる元気なようだな。その熱を持ったまま、学園へ行け。……気を抜けばいつでもイケる状態で、涼しい顔をして敵を欺くんだ。それが君の今日の任務だ』
「鬼! 悪魔! 変態王子ぃぃぃっ!」
デバフを抱えたまま任務しろって言うんですか!?
私の悲痛な抗議も虚しく、朝から魂を削られるような快楽責めを受けた私は、足元をフラフラさせながらも、なんとか学園の制服という名の重装備に身を包むことになった。
◇
午前中の授業。
実技演習場では、騎士科と魔法科の合同による模擬戦が行われていた。
私の対戦相手は、第一王子派閥に属する体格の良い上級生だった。
「さあ、手加減は無用ですぞ、殿下!」
うわぁ、見るからにパワータイプのオーク戦士です!
私のこの王子の体じゃ一撃でミンチにされます!
猛然と襲い掛かってくる大剣の連撃に対し、病弱な王子の体となってしまった私が太刀打ちできるはずもない。
だが、秘密兵器があった。
『さあ、力を抜けリリア。僕が遠隔魔術で、戦いを最適化してやる』
ピアスの奥から響く声と共に、殿下の魔術が私の体をアシストし始める。
流れるような足捌き、完璧なタイミングでの魔法防御。
すごい! 魔術防壁が勝手に! 完全防御です!
傍目には「氷の覇王」と恐れられる第三王子の見事な魔術そのものだった。
しかし、あのドS王子が単なるサポートで終わるはずがなかった。
『見事な動きだ。……ご褒美に、少しだけ感度を上げてあげよう』
「っ……!? あ、んっ……!?」
激しい攻防の最中、突如として背筋にゾクゾクとするような快感が走った。
殿下が王宮にある「私の体」の耳朶やうなじを優しくなぞり、その感覚をピンポイントで送ってきたのだ。
剣を振るうたび、ステップを踏むたびに、ありえない場所が疼き、足の力が抜けそうになる。
ひゃんっ!?
ちょ、なんで戦闘中に私の本体のうなじを舐め回してるんですか!
回避行動中に状態異常を付与しないでください!
『おや、動きが鈍いぞ? 隙を見せれば大怪我をする。さあ、どうする? 泣いて降参するか?』
おもちゃを弄ぶような殿下の嘲笑。
しかし、その挑発が、私の中にある騎士の娘としてのド根性に火をつけた。
騎士の娘である私を舐めないでください!
これでも誇り高きヴァレリウス家の血を引いているんです!
やられっぱなしで泣き寝入りするような柔な精神は持ち合わせていません!
「舐めるなァッ!」
私は奥歯を噛み砕くほどの力で快感をねじ伏せた。
そして、殿下の遠隔操作による完璧な魔術に、私自身の捨て身の踏み込みというイレギュラーな動きを強制的に上乗せしたのだ。
気合と根性で、強制突破です!!
「なっ……!?」
殿下の計算をも超えた、獣のような鋭い一撃。 木剣が空を裂き、相手の喉元スレスレでピタリと止まった。
完全なる勝利。
演習場が水を打ったように静まり返り、やがて割れんばかりの歓声が沸き起こる。
『……ははっ』
ピアス越しに、殿下の吐息のような笑い声が聞こえた。
『驚いたな。僕の制御を力技で上書きするとは。……本当に、君はただの侍女にしておくには惜しい。生意気で、不屈で、最高に愛らしいよ』
ひっ、声がガチトーンになってて逆に怖いです!
ゾクッとしました!
その声には、朝方のサディスティックな響きとは違う、心底からの称賛と深い愉悦が混ざっていた。




