第7話 嵐を呼ぶ婚約者、公爵令嬢来襲!
午前の授業と、あの地獄の業火に焼かれるような体育の実技という名の公開処刑と強制絶頂を終え、学園は昼休みに突入していた。
「はぁ……疲れました。もう体力も気力も完全にゼロです……」
学園の特別棟にある、王族専用の豪奢なサロン。
本来なら、擦り寄ってくる取り巻きの貴族たちが群がる場所だが、「人嫌いの引きこもり」という設定のおかげで、今は私、リリア(体は王子)一人でふかふかの特注ソファに深く沈み込んでいた。
午前中の『第一王子派の巨漢・背負い投げ事件』の噂は、瞬く間に学園中を駆け巡っていた。
「聞いたか? 殿下は無詠唱で重力魔法を使ったらしいぞ」
「いや、俺は見た! オーラだけでジャイルズを吹き飛ばしたんだ!」
「あの相手を見下すような冷酷な微笑み……まさに氷の覇王だ」
などと、尾鰭どころか背鰭や胸鰭、さらには伝説のドラゴン並みの翼までついて拡散されている。
氷の覇王って……ただ、股間のバイブレーションの快感で顔がだらしなく引きつってただけなのに……!
買い被りにもほどがあります!
私は両手で顔を覆った。
中身は純情な乙女なのに、外見は冷徹で好戦的な最強のドS王子として学園に君臨しつつある。
『くくっ……ご機嫌いかがかな、氷の覇王様。お昼ご飯の味はいかがかな?』
耳元のピアスから、悪魔のようにからかうギルバート殿下の声が響く。
「……最悪です。胃が痛くて、紅茶しか喉を通りません。全部殿下のせいです」
本当に、この人は私の胃壁を削る天才です!
『それは困るな。僕の体はただでさえ魔力にリソースを割いて栄養失調気味なんだ。しっかり高カロリーなドラゴン肉でも食え。……それとも、僕が君の口(リリアの体)に、直接美味しいものを食べさせているところを実況してやろうか?』
「結構です! これ以上感覚を共有されたら、本当に胃が物理的に爆発します!」
私が小声で必死に抗議した、その時だった。
バンッ!!
サロンの重厚な両開き扉が、攻城兵器でも使ったかのような勢いで蹴り開けられた。
「ギルバート殿下ぁぁぁーーーッ!!」
鼓膜を劈くような、甘ったるくも凄まじい大音量。
現れたのは、炎のように燃え盛る真紅のドレスの上に制服のジャケットを羽織った、ドリル級の縦ロール金髪を持つ美少女だった。
学園の制服であるはずなのに、彼女のそれは胸元が異常に大きく開いており、はち切れんばかりの巨大な双丘が「ぼるんっ!」と暴力的な質量を持って揺れている。
「(ひぃっ!?殿下!誰ですか!?あのアクティブ・ボルケーノみたいな人は!? 歩くフェロモン爆弾じゃないですか!)」
『ああ、彼女はベアトリス・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。僕に半ば押し付けられている、婚約者候補筆頭だ』
「ああ、私の愛しの王子様! 聞きましたわよ、あの生意気なジャイルズを一撃で沈めたという武勇伝! やはり私が目をつけた殿方は、ただの引きこもりなどではありませんでしたのね!」
ベアトリス様は猛烈な勢いで突進してくると、ソファに座る私にそのままドンッと覆いかぶさった。
「ひゃうっ!?」
むにゅんっ。
私の顔面(王子の顔)が、ベアトリス様の規格外の巨乳の谷間に深く、深く埋没した。
強烈な高級香水の匂いと、尋常ではない暴力的な柔らかさが、私の視界と呼吸を完全に奪う。
お、おっぱ……!? 顔が、おっぱいに……ッ!
苦しい! 窒息します!
脳内がパニックを起こす。
私自身も実はさらしで隠しているだけでかなりの隠れ巨乳なのだが、この公爵令嬢のそれは完全に人を殺せるリーサルウェポンだった。
「殿下、殿下ぁ……っ、私、殿下のその冷たい瞳、ゾクゾクしてしまいますわ……」
ベアトリス様は私の首に腕を絡ませ、さらに強く自身の豊満な肉体を擦り付けてくる。
ちょっ、くっつきすぎです! いくら女性同士(中身は)とはいえ、これは刺激が強すぎ……あれ……?
なんか、下腹部が……熱い……?
私の意志とは全く無関係に、若い男の体(ギルバート殿下の肉体)は、極上の美女から押し付けられる圧倒的な雌の肉感に、極めて正直に、そして野生のままに反応してしまったのである。
ズボンの下で、さんざん苦しめられたあの特級呪物「エクスカリバー」が、再び猛烈な勢いで自己主張を始めた。
う、嘘でしょ!? なんで!? 私、れっきとした女ですよ!?
心は純真無垢な乙女なのに、なんで女の人のおっぱいに押し潰されて、股間の魔剣が怒髪天を突くみたいにそそり立ってるんですかぁぁッ!?
男の体の理不尽な神秘に、私は涙目になった。
突き上げてくる、制御不能な男の熱情。
頭に血が上り、思考が鈍り、獣のような本能が顔を出す。
男の人の体って、こんなに本能に忠実なバカなんですか!?
視覚と触覚がダイレクトに下半身に直結してるなんて、欠陥構造にもほどがあります!
女の体では絶対に知り得なかった暴力的かつ直線的な快楽の回路に、私のウブな精神は耐えられなかった。
『――ふははははっ!』
ピアスから、腹を抱えて大爆笑する殿下の声が弾けた。
『傑作だ、リリア! 中身はカタブツの侍女のくせに、僕の体で公爵令嬢に欲情しているじゃないか! 君も立派な変態の仲間入りだな!』
「(ち、ちがいましゅ! これは、体が勝手に……ッ!)」
私はベアトリス様の豊満な胸に埋もれたまま、必死に小声で弁明するが、声が「むぐむぐ」とくぐもってしまっている。
変態じゃないです!
私は被害者です!
この体が悪いんです!
『いいか、リリア。ベアトリスの実家であるローゼンブルク公爵家は権力が強い。僕の身を守る盾としては非常に有能な女だ。絶対に機嫌を損ねるな』
「(そんなこと言われても、おっぱいで苦しい……ッ! 限界です!)」
『抱きしめ返してやれ。腰に手を回し、甘い言葉の一つでも囁いてやるんだ。もし突き飛ばしたりしたら……』
殿下の声が、ふっと低く、這いずるような淫靡な響きに変わった。
『今から僕が、君の体の弱いところを、指でぐちゃぐちゃになるまで掻き回してやる。学園のサロンのど真ん中で、よだれを垂らして絶頂することになるぞ』
「――ッ!!」
あ、悪魔だ!
この人は絶対にやる!
私の理性を社会的に抹殺する気だ!
今朝の「感覚共有」と「体育の振動」の恐怖がフラッシュバックし、私は完全に白旗を上げた。
「で、殿下ぁ……お返事を聞かせてくださいな……?」
ベアトリス様が上目遣いで、熱い吐息がかかるほどの至近距離で私を見つめてくる。
その体勢のせいで、私の股間の荒ぶるエクスカリバーが、ベアトリス様の柔らかな太ももにモロに当たってしまっていた。
「あ……」
ベアトリス様も、太ももに当たる硬い熱に気づいた。
彼女の顔が、一瞬にして林檎のように真っ赤に染まる。
「ま、まあ……殿下ったら……こんな、真昼間のサロンで……私で、そのように熱く興奮してくださって……っ」
ベアトリス様の潤んだ瞳が、とろけるような熱を帯びる。
嫌がるどころか、むしろ嬉しそうに、わざと太ももを硬い部分に擦り寄せてきたのだ!
お嫁にいけない! 物理的にもう男だからいけないのは分かってますけど、精神的にもうダメです!
女の人に欲情(?)して喜ばれるなんて、私の乙女の尊厳が音を立てて崩れ去っていきますぅぅっ!
私は心の中で血の涙を流して叫びながらも、殿下の脅しに屈し、震える手をゆっくりとベアトリス様の腰に回した。
コルセット越しでもわかる、豊満な肉付きと熱気。
私(王子)が腰を引き寄せると、ベアトリス様は「んあっ」と色っぽい声を上げて、完全に私の胸に身を委ねた。
「ベ、ベアトリス……」
私は、騎士がお父様に誓いを立てる時のように、極限まで低い声を腹の底から絞り出した。
「君のその……燃えるような情熱は、嫌いではない。だが、今は学園だ。誰かに見られたら、君の美しい名誉に傷がつく。少し、離れてくれないか」
お願いですから離れて!
これ以上擦れたら、本当に私、男の人として一線を越えちゃいそうです!
精一杯の、紳士的な拒絶。
「は、はいっ……! 申し訳ありません、私ったらはしたない……! 殿下のその優しさ、身に染みますわ!」
ベアトリス様はバッと体を離した。
彼女の顔はゆでダコのように赤く、荒い息を吐きながら、両手で自身の熱い頬を押さえている。
完全に恋する乙女の顔だ。
「あ、あの! 殿下! 私、今夜……殿下の学生寮の自室に、夜這い……いえ、お忍びでご挨拶に伺ってもよろしいでしょうか!?」
「えっ」
「楽しみにしておりますわ、私の覇王様……ッ!」
ベアトリス様は嵐のように叫ぶと、ドレスの裾を翻して、猛スピードでサロンから走り去っていった。
あとに残されたのは、強烈な香水の匂いと、股間に痛いほどの熱を抱えたまま、ソファで石像のように固まった私だけであった。
『……ぷっ、あはははははっ!! 夜這いだってさ! 最高だリリア! まさか初日から僕の婚約者を完全にメロメロにするとは! 君、タラシの才能があるんじゃないか?』
ピアスの向こうで、殿下が腹を抱えて大爆笑しているのが手に取るようにわかる。
笑い事じゃありませんよこの大魔王!
夜這いって……私、今夜どうすればいいんですか!?
私、中身はれっきとした女ですよ!?
女の子が女の子をどうやって『抱く』んですか!
そもそもこのエクスカリバーの使い道なんて、一生知らなくていい知識です!
「笑い事じゃありません……! 私、本当にどうすれば……!」
『決まっているだろう?』
殿下の声が、笑いを含みながらも残酷に響く。
『抱け。男の体の使い方を、僕が遠隔で手取り足取り教えてあげるよ。……ああっ、今から夜が楽しみで仕方ないな!』
「この、ド変態王子ぃぃぃぃぃッ!!」
私の魂からの悲痛な叫びは、防音の効いた特別サロンの壁に空しく吸い込まれていった。
学園での目立たない優雅な潜入生活など、初日の昼にして完全に崩壊している。
今夜、貞操の危機が、迫っていた。




