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幕間 開かずの間の支配者と傾国の悪女の誕生

【視点:ギルバート】

王立学園で、僕の愛すべき「共犯者」であるリリア(中身は侍女)が、重たい木剣を握りしめて物理的な死の恐怖に震え、あるいは自身の股間で暴走する『規格外の魔剣』に半泣きになって四苦八苦している頃。


王宮の北の塔、最上階にある「開かずの間」で、真の第三王子である僕、ギルバートは、これ以上ないほど悠々自適で至高の生活を満喫していた。


素晴らしい……。深く息を吸い込んでも、肺がガラスの破片を飲み込んだように痛まない。


少し背伸びをしただけで、貧血による目まいが起こることもない。


健康な肉体というものが、これほどまでに甘美で、世界を輝かせるものだったとはな。


最高級の赤ワインが入ったグラスを揺らしながら、僕(体は侍女)は深く、艶やかなため息を吐いた。


控えめに言って、最高だ。


僕のあの『呪われた欠陥品』のような体とは、根本から違う。


僕が今纏っているのは、リリアの野暮ったいメイド服を、僕の優れた美意識のもとに徹底的にカスタマイズした代物だ。


息苦しそうにさらしで押さえつけられていた首元のボタンは全て弾き飛ばし、豊かな双丘の谷間をこれ見よがしに曝け出している。


動きを阻害する長かったスカートは、太ももの半ばまで大胆に切り詰めた。


足を組むたびに、黒いガーターベルトと純白の絶対領域が扇情的に覗き、チラリズムの極致を体現している。


隠す必要がどこにある? 


これほど極上のプロポーションを、野暮ったい布で封印しておくなど、美の女神に対する冒涜だ。


僕は「王子の命令だから」という絶対的な口実のもと、王宮の権限を最大限に利用し、自室で優雅に読書と魔術の研究に没頭していた。


「まさか、何年もかけて完璧に組み上げた僕の最高傑作の術式が、あんなマヌケな形でバグを起こすとはな」


グラスの縁を指でなぞりながら、事の発端となったあの忌々しくも愛おしい魔法陣を思い返した。


元々、あの古代精霊語の術式は「強者の体を乗っ取る」ための罠だった。


病弱で先が長くない僕は、定期的に命を狙ってくる暗殺者たちの強靭な肉体を奪うつもりだったのだ。


対象の『悪意』や『殺意』に反応してアラートが鳴り、魂を強制的に入れ替えるはずだった、非の打ち所のない完璧な黒魔術。


だが、そこに現れたのは、ただの掃除係のリリアだった。


あの女の魂からは、欠片ほどの悪意も感知されなかった。


ただ純粋に「お給料のために、お部屋を綺麗にしなければ!」という、馬鹿げたほど真っ直ぐで強靭な善意しかなかったため、僕の魔法陣の防壁を完全にすり抜けてしまったのだ。


おまけに、あの女が踏んづけた雑巾の一撃で、術式のコアが物理的に破壊されるという奇跡的なクリティカルヒットまで起きた。


「結果として、僕の命はこうして強靭な器に入って繋がったわけだ。僕の天才的な頭脳が、まさかスライム並みの純真さに敗北するとは。なんという皮肉だろうな」


入れ替わった直後は、あまりの想定外に絶望しかけたが、すぐに奇跡的な副産物に気づいた。


二人の魂を繋ぐ『感覚共有』の魔力パス。


それを通じて、リリアという脳筋の娘が持つ「有り余るほどの生命力」が、今も遠く離れた僕の本来の体(王子の肉体)に絶え間なく注ぎ込まれているのだ。


おかげで、ベッドから起き上がるだけで死にそうだった王子の体は、今や学園で大柄な男を背負い投げできるほどにステータスが安定している。


さらに、僕にとって何より嬉しい、もう一つの大きな発見があった。


この女の体……僕が快楽を与えて開発すればするほど、黒魔術との親和性が天文学的に跳ね上がる。


快楽。羞恥。痛み。


リリアの生真面目で未開発な肉体に女としての悦びという名の魔力を教え込み、閉ざされた魔力回路をこじ開けることで、この体は今や、国一つを傾ける傾国の悪女になりうるほどの恐るべきポテンシャルを秘めていた。


「さて。僕の可愛い影武者が、学園という名の魔窟で派手にヘイトを集めてくれているおかげで……こちらの罠は大漁だな」


僕はグラスを置き、ゆっくりと立ち上がった。


そして、部屋の奥にある本棚の隠し扉を開けた。


冷たい石造りの階段を下りた先にあるのは、防音結界が幾重にも張り巡らされた、僕だけの地下の秘密研究室。


そこは今、甘ったるい媚薬の匂いと、鉄錆のような血の匂い、そして粘着質な水音が入り混じる、異常な空間と化していた。


「よし、昼食前の『実験』としよう」


                   ◇


地下室の中央には、魔封じの手枷で頑丈な椅子に縛り付けられた、一人の女がいた。


女は王宮の侍女服を着ているが、その下には仕込み刃などの暗器を隠し持ち、手足には長年過酷な訓練を積んだ暗殺者特有のタコがある。


第一王子派の愚かな兄上が、僕の命を狙って送り込んできた間者だ。


「ん……うぅ……っ」


拘束された女暗殺者が、呻き声を上げて目を覚ました。


焦点の合わない目で周囲の拷問器具を見渡し、やがて目の前に立つ「侍女姿の僕」を捉えると、女は驚愕に目を見開いた。


「リ、リリア……!? どういうつもり!? あんた、ただの下働きでしょう!? どうしてっ!」


同じ侍女として顔見知りだったのだろう。


女は激しく身をよじり、リリアの外見をした僕を睨みつけた。


「ふふっ……あははははっ」


僕は、リリアの可憐で純朴な顔を使って、どこまでも暗く、嗜虐的な笑みを浮かべた。


「どうして、か。……君たちのような汚いネズミを、一匹残らず僕の都合のいい『玩具』にするためさ」


「な、何を言って……あんた、リリアじゃないわね!? その目、ひっ……!」


気づくのが遅い。


「さあ、楽しい尋問を始めようか。君の雇い主の計画を、隅から隅まで吐き出してもらう。物理的な拷問なんて野蛮で非効率な真似はしないから安心しろ」


地下室の空気が、一瞬で甘く、粘りつくように重くなる。


僕のアメジストの瞳の奥に、漆黒の魔方陣が浮かび上がる。


――黒魔術の展開。


瞬間、僕の体(リリアの体)から、むせ返るような甘い香りが不可視の霧となって放たれる。


「な、に……これ……すごく、いい匂い……」


「僕の研究成果の一つだ。この極上の肉体の内分泌液を魔力で変質させた、特製の魅了魔法。吸い込めば、脳がトロトロに溶けて快楽の虜になる、状態異常『発情』を引き起こす毒だ」


女の顔が、みるみるうちに熟れた果実のように紅潮していく。


呼吸が荒くなり、縛られた体をよじり、太ももを無意識に擦り合わせ始める。


「や、やめ……これ、毒……!? 体が、熱っ……奥が、疼く……!」


「毒ではないと言っただろう。君の神経を、千倍の感度に書き換える魔法だ。さあ、未知の領域を味わえ」


僕はゆっくりと優雅に歩み寄り、黒魔術を纏った指先で、女の太ももをそっと撫で上げた。


たったそれだけの接触。


衣服の上からの、羽で撫でるような、触れるか触れないかの軽いタッチ。


「あァッ!? ひ、いぃっ……!! な、なに、これぇっ!? 痛い、けど、気持ちいいぃぃっ!」


女は背中を反らせ、椅子ごと倒れんばかりに痙攣した。


僕の指が、太ももから腹部、そして胸の膨らみへと蛇のように這い上がっていく。


触れられた端から、女の肉体が異常な熱を持ち、快楽の波紋が全身へと広がっていくのが魔力探知で手に取るようにわかる。


素晴らしい反応だ。


やはり僕の仮説は間違っていなかった。


君たちのような、感情を押し殺して訓練された間者ほど、自制心の防壁を破壊された時の、快楽への依存度は恐ろしく高い。


「だ、だめ、私は……第一王子殿下に、忠誠を……ひあァァッ!!」


僕の指先が、女の胸の先端をピンと弾いた。


忠誠の誓いは、発情した獣のような嬌声に掻き消された。


女の瞳から理性の光が急速に失われていく。


口の端からだらしない涎が垂れ、呼吸はもはや「もっと触ってくれ」と乞うための喘ぎに変わっていた。


「吐け。愚かな兄上の次の狙いは何だ? 学園に送り込んだ手駒の名前は?」


「い、言う、言いますぅっ……! 学園の、ランドルフ様が……第三王子殿下を、孤立させて暗殺するために……ああぁっ、もっと! もっと激しく撫でてぇっ!!」


女は泣き叫びながら、知っている限りの機密情報を、堰を切ったように話し始めた。


僕は満足げに微笑むと、リリアの豊満な胸を女の顔に押し付け、その甘いフェロモンをさらに直接的に吸い込ませてトドメを刺した。


「よく出来ました。では、素直に情報を吐いたご褒美をあげよう」


手を、女のスカートの奥、すでに愛液でぐっしょりと濡れそぼったシークレット・エリアへと滑り込む。


「ひぃ、あ、だめ、こわれる、魂が、でちゃううぅぅぅッ!!」


女の絶叫が地下室に木霊する。


僕は冷たい笑みを浮かべたまま、女の最も弱い部分を執拗に攻め立てた。


千倍に跳ね上がった感度に、強烈な黒魔術の電流が流し込む。


もはや苦痛すら快楽に変換される、無限ループの地獄の責め苦だ。


「イけ。僕の魔力に溺れて、自我を明け渡せ」


「あッ、ぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


ビターンッ!!と女の体が海老反りになり、女はあっさりと天界(ヘヴン)に達した。


全身の筋肉を限界まで硬直させた後、ガクンと糸が切れたように脱力した。


白目を剥き、だらしなく開かれた口からは、幸福感に完全に脳を焼かれた顔が晒されている。


もはや彼女の精神に、第一王子への忠誠など微塵も残っていなかった。


残ったのは、目の前に立つ妖艶な「リリア」が与えてくれる快楽への、絶対的な服従のみ。


ふむ、大成功だ。


これでまた一つ、都合の良い『操り人形』が手に入った。


僕は指先に付着した蜜を、色気たっぷりに自身の唇で舐め取った。


リリアの舌が、間者の味を拾う。


背徳的で、悪魔的な儀式だ。


「やはり、黒魔術による精神支配は、この魔力親和性の高い体を通した方が圧倒的に効率が良い。女の体というのは、かくも恐ろしく、そして美しい最強の武器になる」


僕は満足げに微笑み、地下室を後にした。


階段を上り、光の射す王子の自室へ戻る。


鏡の前に立つと、そこには息を呑むほど妖艶な、絶世の美少女が映っていた。


これで、手駒は十分に揃ってきた。


王城側の防衛と情報網も整いつつある。


この地下室に足を踏み入れた暗殺者たちは皆、こうして恐怖ではなく「快楽」によって精神を破壊され、僕に絶対服従する手駒として王宮の暗がりに放たれていく。


兄上たちは、自分の放った手駒がすべて僕の狂信者になっているとは夢にも思っていないだろう。


「さて、僕の可愛い分身は、今頃学園でどうしているかな?」


僕は、耳元のピアスの魔導通信機にそっと触れた。


この魔力パスの繋がりの先には、今も慣れない男の体で必死に戦い、強がっている、生真面目で愛すべき「共犯者」がいる。


せいぜい楽しませてくれよ、リリア。


僕はこの極上の体で最高の快感を味わってあげるから。

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