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汽車内

 「いらっしゃいませっ!」

 「うわぁ美味しそうなものがいっぱいだな。さあカノフ、どれにしようか?」


 メニューにはとても美味しそうなものが一番から十番まで並んでいた。僕はその中でも八番が目についた。


 「八番の『ウォスクグマのシチュー』はどんなものなのですか?」

 「はい、こちらは主にウォスクに生息しているウォスクグマの貴重な部位のみを厳選して、野菜や牛乳と煮込んだ郷土料理となっております。歯を使わなくてもほぐれるほど、ホロホロと柔らかくジューシーなのが特徴ですよ」


 なるほど。これは流石にここでしか食べられなさそうだから買ってみようか。しかし結構な値段がするから、ベットおじさんを困らせてしまうだろうなあ。

 僕は脳内で考えが対立してしまい、判断に迷った。


 「これが欲しいのかい? もちろんいいぞ! この値段なんかちっとも痛くもないからなっ!」


 ベットおじさんは余裕の表情を見せた。


 「じゃあ、僕は八番でお願いします」

 「あっ俺もカノフと同じのでいいよ」


 僕らはお揃いの弁当を買った。

 切符を買い、丁度のタイミングで汽車が到着した。


 「よし急げーっ!」


 僕らは急いで何とか汽車に乗ることができた。汽車内に人の気配はなく、どこも空いていた。僕らはとりあえず一番右奥の席に座った。


 「では、いただこうか」


 僕らはウォスクグマのシチューをいただいた。


 「いやあこれは美味いな。こんなものはよほどのことがない限り二度と食えないだろうから、食えて良かったよ」

 「そうですよね。地域の郷土料理を知るいい機会だと思います」


 長時間煮込んでいるおかげか、歯を使わなくても口に入った瞬間に肉がホロリと溶ける。牛乳で滑らかさもあるような感じもする。値段が他のよりも高めな分、文句なしの美味しさだ。

 そして僕らは平らげた。汽車で食べた料理のことを忘れないようすぐにメモ帳へ書き留めた。


 ♢


 しばらくしてベットおじさんは何かを思いついたみたいで、目を大きく開き口元が緩んだ。


 「そうだ! サノロイドでは、とある面白い言い伝えがあるんだ。聞くかい?」

 「どんなものなのですか? ぜひ聞きたいです」


 僕は興味津々でベットおじさんの方に耳を傾けた。


 「俺らの世界では数千年に一度しかない光景があるらしいんだ。それは、空の彼方から海岸の海に向かって一人の少年もしくは少女が降ってくるんだ。すると海は落ちてきた子をまるで意思があるかのように察して形を変え、包み込むように受け止める。そう言われているんだ」

 「そんな言い伝えがあるのですねー。見てみたいですけど、本当にありえるのですか? 空の彼方から少年か少女が降ってくるのはもちろんのこと、海が風とか関係なく形を変えるなんてありえないですよ?」


 僕はベットおじさんの話がどうも信じられなかった。


 「絶対ありえないなんて思うだろ? でも結構ありえるんだよなこれが。俺も初めは全く信じられなかったんだけど、今では全然違う。その光景を撮影したのを載せている本が昔小さい頃に住んでいた家の本棚にあったんだけど、まさか本当のことだなんて初めて気づかされたよ」


 ベットおじさんは語り続けた。ベットおじさんの語りは熱っぽかった。


 「えっとー。その本は今、どうなったのですか?」

 「さあ、どこに行ったのやら。いつの間にか、なくなっていたな。見た目はそこらの本と大して変わらない感じだったし、親が間違えて捨てちまったのかも知れない。他にあの本持っている人いればいいんだけども」


 ベットおじさんは本をなくしてしまい、すごく凹んでいるようだ。

 

 「そうですね。他に同じ本を持っている人がいることを願いましょう」

 「ああ、そうだな」


 しばらくしてベットおじさんは驚きを隠せない様子で窓の方を見ていた。


 「おっ、窓を見ろカノフ! 綺麗な雪景色だ」


 僕はそう言われたので窓を見てみると、汽車に乗る前とは打って変わって大雪が降っており、まるで塀のような積雪が汽車と線路を囲っていた。


 「もしかして、もうスカルドに入ったのですか?」

 「そうだと思う。それにしても、スカルドは同じサノロイドだと思えないほど景色が全然違うな。さあもしスカルドに着いたら、まずは住処を確保してカノフが入学するまでそこで過ごそうか。俺はこの広大な雪景色を利用してすっごく大きな雪だるまでも作りたいなあ」


 雪だるまかあ。確かにこのスカルドの雪だと大きな雪だるまなんて簡単に作れてしまうだろうな。僕は小屋として、かまくらを作っておしゃれしてみたいな。スカルドでの生活楽しみだなあ。


 しかし直後に、いくつからスカルド魔法学校に通うのか、入学までに何か基本となる魔法は覚えておくべきかという疑問が脳裏をよぎった。


 「あのー、聞きたいことがあって。そのスカルド魔法学校ってのはいくつから通えるのですか? 」

 「……え?」


 ベットおじさんの目は一瞬細くなった。僕は引き続き聞いてみる。


 「そして、入学までには何かしらの魔法は覚えておいた方がいいですか?」


 僕がそう聞くと、ベットおじさんは頭をかきながら下を向いた。恐らく予想もしなかったのだろう。


 「えっと……多分八歳だったと思う。あとそんな魔法なんて入学までに覚える必要はないだろう。学校に通ってからのお楽しみだろう。というかそれまでに何で魔法を覚えるんだよ」

 「まあ……確かにそうですよね」


 僕は思わず苦笑いをしてしまった。

 その直後、汽車がキーッという音を立ててスピードを落としていった。そして汽車が停止した。ふと窓を見てみると一瞬ではあったが、”スカルドにようこそ”と書かれた看板が目に入った。


 「おっ、やっとスカルドに到着したんだな。やったな!」


 やっとスカルドに到着したようだ。


 「やったースカルドだ! 僕が目指していたスカルドに着いたあ!」


 遂に、およそ一週間の旅を経て、僕が目指していたスカルドに到着した。

 僕は胸がいっぱいになった。

 遂に、僕が目指していたスカルドに来たのだ。

 汽車のドアが開いた直後、僕は軽やかな足で駅のホームを踏み入れた。

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