精霊と不穏な動き
コツ、コツ……と音を響かせながら肩を並べて廊下を歩く。
「あの……セリス?あれで良かったのですか?」
今まで隣にいるセリスは珍しく考えふけっている様子でしたので、どう言葉をかけるか悩み話しかけないでいました。
しかし会場の音楽がうっすらと聞こえてきたので流石に聞くべきだと足を止め声をかけました。
「あれでって何がだい?」
「精霊様の事。あんな態度で良かったの?」
「あぁ……メリル。精霊に間違っても精霊様なんて付けちゃいけない。
アレはそんな存在じゃないから」
「どういうことです?」
「アレは精神生命体の一種に近い」
「精神生命体って……」
それって確か……アンデットみたいな魔力のみでできた魔力生物だって………
「そう、メリルが想像しているのに近い存在だよ。
人種と友好的になる事はできても人種の価値観までは理解できない存在だろうね」
「精霊様……精霊がそんな存在なわけ……あるの………?」
あぁ……セリスが大きく頷いてくれています………
橫に振ってほしかったなぁ……
「精霊はきっと、子供なんだと思う」
「子供?」
「そう。考え方が子供のように幼稚だから偶然、人種の為になるような事をしてしまい祭り上げられ、ガキ大将のように命令し、いざという時に助ける。それも自分の気紛れでね。それでいて自分でも助けられない時は容易に見捨てる。
破壊神……ミィが暴れまわったの時のようにね」
セリスが前に話してくれたその内容。
完全に魔王に飲み込まれたミィさんと戦った話はあまりにも救いが無く、あまりにも不毛で、悲しみしか生まないものだった。
この世にこれ程の理不尽が本当にあるのかと、話を聞かされただけの私ですら嘆き、涙を堪えるのが辛かった事件………
「………セリスは、もしかして精霊が人の価値観を理解できてミィさんの種族に救いの手を差し伸べていれば悲劇は起こらなかったと考えているの?」
だからあんなにも怒って……
「いいや、そうじゃ無い、そんなんじゃ無いんだよ」
「違うのですか?」
「メリルは深読みし過ぎな所があるよね」
そんなクスクス笑うこと無いだろうに……そんなに可笑しかった?
「むぅ……悪いですか?それが私なんですから仕方ないじゃない」
「いや、悪くないよ。ただ、可愛いなって」
「か……可愛いって………ううん、それよりもそれじゃ何でそんなに悩んでいるのですか?考えているばかりじゃ私は分からないわよ」
「ごめんごめん。精霊もメリルくらい頭が良かったら良いんだけどねぇ」
「どういう意味?」
「言葉通り。精霊は魔王に勝てないが知性の欠片も見受けられないからと無視する事にした。
次に私が敵対的で無い事から接触してみて実際に平気か確かめてみた。
けれど精霊に興味を持つ知性ある破壊神のような存在が現れたらどうするんだろうね」
そ……それはぁ……………
「………現段階では私達でもどうしようもないんじゃ?」
「そこなんだよねぇ~。
私達がどう言おうが精霊は理解できない。そもそも天敵を知らないから対策なんて事も知らないんだろうし。
精霊が落ちたら帝国が落ちるんじゃないかぁ?」
なるほど……でもそれって…………
「私に深読みしすぎと言っときながらセリスだって考えすぎだよ。
そんな事できるのセリスかミィさんかティナさんくらいじゃ…………」
あ……あれ…………?
「…………意外といますね」
「でしょ?付け加えるなら精霊の強さは下位の天使2匹分くらいだよ」
天使2匹分って強さの単位初めて聞きましたよ。
というか天使ってセリスにカトンボのように叩き落とされてませんでした?位までは分かりませんが……
「………不味いですね」
「不味いでしょ?」
「ま、まあ今考えても仕方ありませんし世界は平和です。
大丈夫でしょう」
「そうだね、この世界ってビックリするくらい平和だから平気だよね」
「そうですよ。さ、ミューズが探してるかもしれませんし戻りましょう」
・
セリス……それがあの神の名。
私は精霊の頂点の存在であり精霊神と呼ばれている。
ならばアレは魔神だろうか?
「精霊様……アレは本当に大丈夫なのでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ」
そう、魔神は大丈夫。
けれど、あのドリーミーの少女は異様だ。
あの中には3つの魂が存在していた。
そんな人種は見たこと無い。
ドリーミーは確かに魔に深い理解力を持ち得ている種族で正直何を言っているのか理解できない事を言い出す種族だと認識している。
要するに変わり者の多い種族なのだが、魂を3つも持ったドリーミーなんて初めて見た。
しかも2つの魂がまるで意思を持ち、小さな魂を守るかのように……
たぶん大丈夫だろうけど気になる。
「あの魔神は大丈夫だろうけど、問題は天使の方だと思う。
アレはとてもじゃないけど神聖な存在とは思えない」
「確かに。見た目に反し、欲に目が眩んでいるのに隠そうともしていない様子でありました」
そう、精霊である私にあのような眼を向けてきた存在なんて存在しない。正直気分の良いものでは無かった。
『それなら気にしなくて良いよ』
「えっ……」
な……何が起きた…………?
体が全く動かない…………
『うん、良い。とても良い。あなた使えそう。
あなた達にとっても魔神……覇王は危険な存在なんでしょう?
なら、私達の幸せの為に協力してくれない?
天使だろうが何だろうが借りられる力は欲しいんだ。
覇王をこの世から消し去る為に……協力してくれるでしょ?』
この日私は、人種がよく嘆いている理不尽というモノを初めて理解した。




