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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
五章、少しの緊張と長い休日
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ターニャとの別れと変化


 7月26日

 精霊との出会いというトラブルのようなものがありましたが、無事三日間の爵位式を乗り切る事ができました。

 その後の2日間はターニャ達と過ごし、今別れの時が……


「んじゃ、半年か一年後にでも会おうな」


「あれ?そんな早く会えるんですか?結婚式とかは?」


「気が早いって。まずは冒険者ランクを上げて……その後の事はまたその時にでも決めるって」


「ターニャらしいと言えばターニャらしいですねぇ……」


「んなの今更だって。……それじゃまたな」


「えぇ、いずれまた」


 握手を交わしお互い別の馬車へ乗り別の方向へ進んでいく。

 ターニャとは三年も共に旅をしてきましたが、それでもこんなものですよ。

 確かに、こういった別れが永遠の別れになるという事は今の時代でも珍しくもありません。特にターニャと私は冒険者と元行商人。その可能性が他の職よりも高い。


 けれど、私達はもう普通じゃない。

 私にはセリスが護衛に付いて、ターニャは育てられて今では英雄ミカエルと肩を並べる存在。

 それってもう、仮にもしもの事態が起こるとしたら国単位でどうにかしなければならないんじゃないかなぁ………


「メリル様、あんなアッサリで良かったの?」


 手綱を握る私の顔を覗くようにニュッと視界に入って聞いてくる。


「危ないから止めなさい」


 最近ミューズの「なんで」が極端に減ってきたのでどのタイミングでも好きに質問して良いと言っていますが危ない事はいけない。


「ごめんなさい」


「よろしい。……あれで良いんだよ。冬が終わればこっちに戻ってくるから」


「ふ~ん………それで、次何処に行くの?」


「私の実家だけど……あれ?言ってなかっ「聞いてない!」


 そんな食い気味に言わなくても……最近は忙しすぎましたから報告漏れもあるでしょうが注意しましょう。


 報告し忘れ怒っても文句言えない私に対し、楽しみって気持ちの現れで尻尾も凄く忙しそうですから良さそうですね。


「そうだね、私しか説明受けてなかったんじゃないのかい?」


「あ……そう言われればそんな気がしますね……」


 良く思い出せばセリスの居た場で話した事はありましたけどミューズに話した事はありません。

 ルートの説明をしてる時も私とセリスの一対一で、その間ミューズはボールを乗っけたりして遊んでいた記憶があります。

 そんなに気に入ってくれるのならもって高価な素材を使ったボールを買ってあげれば良かった。


「それじゃもう一度。これから向かうのは私の実家のあるフレイ村だよ。

 ここから見えるあの山を越えてもう1つ向こうにある山を超えた先にある無駄に広い土地全てがフレイ村。

 そろそろ麦を取る時期だから、この子の足にもよるけど金色の麦畑が見れるかもね」


 ここからフレイ村まで15日くらい掛かる。

 けどそれはこの子が普通の馬だった頃の話ですしもしかしたら半分も掛からないかもしれませんね。


「金色?どれくらい金色なの?」


「どれくらい……えっと、遠くに川が見えるよね。

 ここからあの川の向こうまでずっと金色な感じかな」


「おぉ~」


 私としては見飽きた光景なのだけど、こう言ってもらえると悪い気はしませんね。

 まあ誰がどう聞いても田舎も田舎、ド田舎なんですけど。


 教会が無い、酒屋が無い、服屋が無い、薬屋が無い、武器屋も無い、金具屋も無い、冒険者ギルドも無い、天下の商業ギルドすら無い、行商人も月1で来ない時がある、隣村まで1日かかる、一番近い町まで3日はかかる、ギリギリ都会に半月かかる、畑と家だけはやたら広い、たま~に作物目的に降りてくる猪が御馳走。

 正にこれぞ田舎。


 金具屋がある村を都会と勘違いしていた子供の頃の思い出。

 今思えばあれが普通の田舎ですって。

 田舎には金具屋があってド田舎には金具屋すら無い。


 師匠の店は行商人が好き勝手持ち込んだ物で品揃えが毎回変わるんですよねぇ~……


「さて、メリルの実家に向かう時まで掘り起こさないようにしてきた話題をそろそろ掘り起こそうじゃないか」


「う……お手柔らかに………」


 猫のような笑みを浮かべたセリスがそれはもう楽しそうに私の背後を取り腕を回してくる。

 触れた部分から流れてくる『どうしてくれよう』という楽しさに溢れたその感情の言葉から深くまで突っ込んでくると諦めて覚悟する。


「そうだね、まずメリルは一人っ子なのかな?」


 ………一人っ子?


「妹の話はしたことありませんでしたっけ?」


 私に抱き付き体重を掛けてきていたのをピタリと止め、数秒の思考の末に口を開く。


「え?何?つまりメリルみたいな天使のような……この場合本物じゃなくて表現的な意味の子がもう一人居るってことかい?」


 天使ってちょっとセリス?そんな風に思ってたですか?


「深く考えた末にその発言ですか?

 それに私はそんな可愛くありませんよ」


「そうかい?頼んでも無いのに私の為におやつ用意してくれてたり、なんやかんや文句言いながらも付き合ってくれたりさ。

 それってやっぱり凄く嬉しい事だよ?」


「うん、それ私も分かる」


 セリスとミューズがうんうんと頷き会う。

 セリスに関してはまだ言い足りない雰囲気を魔力から感じて自重してくれた事に感謝します。


「そ……そうかな………」


「そうだよ」

「うん」


 現時点でも恥ずかしくて変に頬が吊り上げって痛い。

 とても暖かい雰囲気…………でした。


「メリル様はちゃんと話を聞いてくれる。私を見てくれる。私と遊んでくれる。ネームレスはそんな事してくれなかった。

 だからメリル様が大好き」


 お……重い…………

 ミューズからパァッとした温かく柔らかな魔力が漏れる中で確実に私とセリスの魔力が一段階どんよりとしましたよ。


「わ……私もミューズが大好きだよ」


「それで、妹ちゃんの名前と年齢は?」


 無理矢理話題を戻してくれたので、ここはセリスの助け船に飛び乗るしかありません。


「アシュリーって言って私の5つ下でね、私と違ってお母さん譲りの金髪で、恥ずかしがり屋で人見知りかなぁ。

 アシュリーと私の関係はかなり良いと思うわよ。

 行商の旅に出るって言ったらずっと側に居てくれたんだけど、口数が少ないからけっきょく何も言ってくれなかったなぁ~」


 ずっと側に居るくせに最後に玄関まで見送っただけで何も言ってくれなかった。

 てっきり何か御守りでもくれるのかなって期待してたけど何も無くて……うん、懐かしいな。


「メリルと違ってグイグイ来る性格じゃ無いのか」


「そうだね、あまり自分から何か言う感じじゃないかな。

 アシュリーとはかなり良好だったからてっきり話してたと思ってたんだけど話してなかったのですね」


「そうだね、話してないよ。けど、ミューズの扱いに慣れてる感じがしてたのはそういう訳なんだねぇ」


「ミューズは妹と呼ぶにしては聞き分けが良すぎて可愛いすぎですよ」


「まあ……ミューズのはコレが素のようだしね」


「はい……」


 片手を手綱から放してミューズの首の辺りに近づける。

 すると自分から当ててきて「グルルルル」と気持ち良さそうに目を細めるミューズの喉元を撫でてあげて……

 うん、確かに妹のようでもあるけど……今私物凄く失礼な事考えてますね。この考えは良くない。止めましょう。


「そうそう、ミューズといえばアシュリーはテイマーなんですよね」


「???」


「へぇ~、確かこっちだと野生のモンスターを手懐けているんだよね」


「はい。実は金髪だけじゃなくてテイマーの素質もお母さん譲りで、私達が生まれる前からいるホワイトイーグルの教授と、アシュリーがテイムしたマジックオウルの手羽先がいます」


「うん?……冗談かい?」


 あぁ、やっぱりこの名前首をかしげたくなりますよね。


「冗談じゃなく教授と手羽先って名前なんです」


「なるほどねぇ、じゃあ次は……」


 ……と、こんな感じに私の実家について答え続けます。


 そんな中、決められた時間でセリスと操縦を交代し、再び私に戻って10分もしない内の事です。


「……あ、少し止めて」


「ん?はい」


 言われた通り馬車を止めるとセリスが荷台に毛布を敷きはじめる。


「どうしたの?」


「メリルの覚醒が始まるからそろそろ橫になってもらおうと思って」


「え?覚醒が始まるのですか?」


 覚醒……あの噂の覚醒ですか。

 モンスターが進化するのと原理は全く同じらしい覚醒。

 正直専門的すぎてよく分からないあの覚醒が。


「ここから先は私が操縦するからメリルは橫になって。

 ミューズは絶対にメリルを起こしちゃ駄目だから」


「はーい」


 なんて言われて流されるまま荷馬車で毛布にくるまれて眠るように言われる。

 真上から照りつける太陽を眺め、こんな眩しいのに寝れるわけ無い……なんて考えながら、10分もしないうちに意識を手放した。



 ・



「ん……ふあぁ…………」


「メリル様!」

「おはようメリル」


 ガタガタと揺れる中、上体を起こしてもハッキリとしない意識の中でミューズとセリスの声がする。

 なんか……かなり長く寝てた気がする………


「おは……よ……う…………」


 んん……?なんか口の動き?が変………?

 ………あ、これ魔力だ。

 私の胸にある魂の辺りの魔石から今までと比べ物にならない魔力が通り、舌へと行き着くまでに特殊な魔力を練り上げている。


 ………って、何この白い糸。

 薄く黄色がかった白い糸が大量に服に付いていて……


「なにこれ……脱皮?」


「脱皮というより羽化だよね。

 まさかドリーミーは覚醒の仮定でサナギというか、純度の高い魔力の繭ができるなんて想像もしてなかったよ」


 は?羽化?サナギ?


 え……この下半身をスッポリと包んでる糸の塊は私が覚醒の時に出したの?


「………ドリーミーって何なの?」


「メリルが知らなきゃ私にだって分からないなぁ……よっと」


 荷馬車が止まりセリスが荷台へ移ってくる。


「ちょっとごめんよ」


 そして全身をパンパンと叩くように触られる。

 魔力の流れからしても私の体が正常かどうか………うんんッ!?


「え……えぇ?」


「うん、羽だね」


 腰とお尻の間くらいの部分でシャツをめくり上げ羽が出ている。

 羽の形状は頭の羽と同じようにコウモリと似た形状で、頭のモノより一回り大きくて、セリスに触れると触れられている事が分かる。


「覚醒……やっぱり私はドリーミーとして覚醒したみたいですね」


「ドリーミーとして?………あぁ、つまり純粋なドリーミーは頭の羽2枚だけじゃなくて背中も含めた4枚が本来の数って事?」


「はい、そうです」


 セリスの察しの良さが凄すぎで凄いです。

 ……まだ寝惚けてるんでしょうか私。


「ね……ねえ、もう良い?」


「あぁ、ごめんね。ミューズはかなり我慢してたから少し甘えさせてあげてくれないかなメリル?」


「そうなんですか?」


 ……確かに、嬉しいという感情の中で寂しいという気持ちが色濃く残っている。


「おいでミューズ」


 繭だったらしい謎の糸を端へ退け、正座して手招きすると側に寄ってきて、とりあえず膝枕してあげて撫でてあげる。


「それで……この様子だと私は何日くらい寝てたんですか?」


「5日だよ」


 つまり今日は7月31日……って、あの金色の畑は…………


「今気が付いたんですけど……あの一面金色の畑は………」


「イビルホースは持久力に優れたモンスターだからね。

 睡眠を必要としない私とミューズの二人じゃこんなもんだよ」


 ………という訳で、私の感覚としては半日も掛からず故郷のフレイ村へと帰ってきたそうです。


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