フレイ村
7月31日
フレイ村。懐かしの私の故郷。
その見慣れた光景をボーッと眺める。
見渡す限り畑で、畑で………畑です。
…………それ以外ですか?
山に山に山に川に山ですね。
あ~………他にはですね……その……ほら……あそこみたいにたま~に水車や家があったりするくらいですかね?
ご近所さんですか?
歩いて30分はかかりますけどそれがどうかしましたか?
最早村と呼べるのか……いや、確かに村なんです、地図からしてみたら。
村のくせに城下町の2倍以上広いんですよ?
一面畑ですが。
他に……他…………あ、強いて言うなら臭くないですかね。
城とか貴族の屋敷付近でないと都会って臭いが凄くて……初めて訪れた都会の人の多さと臭いで体調を悪くする田舎者は多いそうですし私もそうでした。
例外としてお城のあるブルガンドはとても綺麗です。
その辺は置いておくとして、どれだけ言い繕っても……
「ほんっとド田舎……」
「私はこういう場所も好きだよ?」
馬車に揺られて通る道の左右は見渡す限り一面の畑と山。
こんな田舎でもやっぱり自分の故郷。誉められれば嬉しいものですね。
「ねえねえメリル様、ここって人が全然いないのにどうして畑がこんなに広いの?」
「魔法で種を撒いてしまうからですよ。収穫も同様です。
あとは家畜の鳥が勝手に害虫を食べますし、野性動物は滅多に降りてきません。
たまに降りてきても手前の部分しか食べられませんし、むしろそれで貴重なお肉が手に入るのですから、もう少し来てほしいくらいですね。
猪ってすごく美味しいんですよねぇ~」
「そうなのか!」
「そうなのだ。だから暇な時にでも狩に行こっか」
今の私なら猪なんて余裕も余裕、物凄く簡単に狩れます。
油断とかでなくただの事実。
商人としての経験で自分の身の丈に合うか合わないかを見極める事には長けていると自覚してますし、慎重に考えた上での発言ですから。
自分を過大評価するのは身を滅ぼしますが、自分を過小評価するのはチャンスを逃してしまいます。
雑談をしながら進んでようやく目的地へと着きました。
「ここが私の実家だよ」
うん、いつ見ても見事なくらいボロボロです。
あえてそれっぽく言い繕うならそうですね……
広大な土地にポツリと立ったその家はまるで大樹を切り倒した切り株のようで、平でありながらも力強さと歴史を感じさせる……
「……なんか少し目頭が暑くなってきた気がします」
「久々の実家に感動でもしたのかい?その気持ち分かるよ~」
セリスが共感してきますが、たぶん全く分かってません。
ほんと、何が悲しくてこのボロ家を良く見立てようとしてるんだろ……どれだけ言い繕ってもボロ家はボロ家ですって。
この家の廊下で床が抜けてハマった事もあるくらいですし、そもそも4人で住む大きさじゃないですって。
だから管理が行き届かなくて渋々諦めて天然の罠が家の中で発生して、一時期蜂が大きな巣を作って大変な事になったのは今でも苦い思い出です。
「それにしてもこの構造は私の世界の東の方にあるニャッバーンって国の和式って感じの家に良く似ているね、もしかして丸っきり同じなのかね?」
「わしき……?」
「文化が違えば言葉も名称は違ったりするんだけど、世界を越えても考える事は同じなのかねぇ……」
セリスの世界がどうだかは分かりませんが、この土地って数百年前までは魔界って呼ばれていて帝国の領土では無かったようなんですよね。
私の家系はずっとこの家に住んでますし、私からしたら都会の家の構造に驚いたくらいで……
まあ、魔界云々は私よりお父さんの方が詳しいですから機会があったらにしましょう。
「ふ~ん?
でも、それよりさ、確かに思ってたより大きいけど壊れそう……?」
「壊れそうではなく、良く壊れるよ。主に床が抜けたり」
「え?壊れるのに住んでるの?」
「私が物心付いた頃からこんな感じですよ」
そう、ずっと昔から変わらない光景。
私は時が止まったかのようなこの村で日々を過ごすのが嫌で、都会で暮らしてみたいという気持ちが切っ掛けとなり、やがて商売の面白さを知って商人の道を目指した。
私の種族への風当たりの強さは理解していたつもりでいたけど、いざ出てみれば予想よりもずっと当たりが強くて大変だったなぁ……
「ただいま~。お母さ~ん……って、皆居ないのね」
馬小屋なんて無いので適当に止め、玄関に入ると靴が一足も置いてない。つまり誰も居ない。
気づくのに遅れたのは靴のまま部屋に入ることに慣れてしまったからだと思う。
そこで靴のまま入りそうになったのに気付いて少し慌てて靴を脱ぐ。
「ほら、二人とも入ってきて。靴はそこで脱いでね」
「え?脱ぐの?」
「……分かる」
「何が?」
その気持ち分かる。逆に私は脱がないの?って凄く混乱しましたもの。
「ここまで同じだとなにかありそうな気がしてくるね……」
ま~たセリスが深読みしてますよ。
最近無くなってきたと思っていたのに、さっき話に出ていたニャッバーンって国で何かあったのでしょうか?
「少なくともセリスの考えそうな物騒な事は無いと思いますよ?」
「………だろうね。それじゃお邪魔するよ」
「お邪魔します」
「あ、そこの所床抜けるから気を付けて」
……という感じにセリス達を招き入れてから三時間程が経ちました。
無駄に多い空き部屋の中から私の部屋から近い部屋を選んで掃除をし、セリスの魔法で床等の復旧をし、途中から私も見よう見マネで魔法を使ってみたり、延び放題の庭の雑草を処理して………
「誰も帰って来ないんだけど迷子になったりしてないのかな?」
あまりに誰も帰ってこなくてミューズの耳も尻尾もヘタレて不安そうにそう言った。
田舎だと一度家を出たら、戸締まりもせずに住人全員が半日は帰ってこないなんて良くある事です。
意識すらしてなかったですけど、それをしらないミューズからしたらそんな発想が出るんですね。
だとしてもお父さんは今年で47歳になるので迷子ってそれは……
「迷子って……お父さんとお母さんは魔力調査の方行ってるんだと思うし、アシュリーも狩りをしているだけだと思うから大丈夫だよ」
「そうなのか」……と言いながらも気になって仕方ないと魔力が物語っている。仕方ありませんね。
「セリス~、ミューズと少しお母さん達を探してくるから作業続けて貰っても良い?」
「ん?りょ~かい。このまま家の強度上げておくよ」
「お願い。それじゃ行こっか」
「うん!」
セリスに任せ私とミューズへお母さん達を迎えに行く。
探してくると言いましたが、今頃調査をしてるのでしょうから場所は分かっているんですよね。
・
あ~……やっちゃったぁ。
投石外してムキになって池に落ちるなんて私のバカバカバカ。
「ごめんね手羽先。私が不甲斐ないばかりに……」
3日前くらいに都会の方に続く山からそれなりに大きな規模の狼型のモンスターの群れが村に来て、それの影響でいつもの狩場の野鳥達が追いやられてしまってこんな山の中入って……
こんな事、少なくとも私が生まれてから一度も無かったのに………
いやまあ、数日お肉を我慢すれば野鳥も戻ってくるだろうからそれで良かった話なんだけど、やっぱり食べたいじゃん。新鮮なお肉が。
塩漬けの非常食はしょっぱ過ぎて美味しくないんだもん……
お母さんはともかくお父さんは味も栄養も無頓着なんだし………
けっきょく一匹も狩れず適当な野草を取って山を降りとぼとぼと馬車道を通っていく。
「ただいま~」
裏戸から入りつつ、誰も居ないと分かっていながら挨拶だけはして小屋に手羽先の入った鳥カゴを戻そうと向かっている時。
「お帰りなさい」
庭の方に出ると掃き掃除をしていた銀髪の女性が作業を止め、笑顔で手を振り出迎えてくれる姿があった。
「………………っ!」
私は咄嗟に家の影に隠れる。
え……え?………誰ッ!?
………って……え……あの人…………凄く綺麗だった…………………
裸真っ白だし髪が光ってるし………村娘のような格好と麦わら帽子なところに違和感が…………
そう……何て言うか……全身から都会の大人なお姉さんと言った感じのオーラが全然隠せていないというか…………
「初めまして。私はセリス・アルバーン。セリスで構わないよ。
アシュリーちゃんのお姉さん、メリルの友なんだけど姿をみせてくれないかな?
というよりアシュリーちゃんはメリルと入れ違いになったのかな?」
「お姉ちゃんの……?」
ゆっくりと顔を出してマジマジ見ると、やっぱり美人さんすぎる。
確かにそろそろ帰るって手紙は届いてたし、セリスさんって名前が書いてあった覚えあるけどこんな綺麗な人なの!?
「ま、そんな事よりびしょ濡れじゃないか。
足、泥だらけで気持ち悪くないかい?
私はこう見えて魔法の腕には自信があるから洗ってあげるよ」
「え……あの…………」
そ……それは助かるけど、こんな綺麗な人の手を煩わせるのは申し訳無いような………
「……な………何…………?」
とか考えてたらいつの間にかセリスさんが目の前に居て、私の頬に触れて赤い瞳で真っ直ぐと私の瞳を覗いてくる。
「ん?あぁ、すまない。メリルに似た魔力に瞳だなと思ってね。
凄く魅力的で素敵だと思うよ」
ニッと、とても柔らかな笑みを見せるセリスさん。
見たことは無いけど、都会の女優さんというのはきっとセリスさんのような凄い美人さんがする仕事なんだろうな。なんて関係無い事を考えながらも私は混乱してどうしたら良いのか分からなくなった。
「お、この子が噂の手羽先かい?」
「え………あ……はい…………マジックオウルの手羽先です………………」
「そっか。それじゃ後でじっくり見させてもらうとして、こんな時期でも長時間そんな姿でいたら風邪引いてしまうよ」
「は……はい!」
セリスさんに言われ、慌てて手羽先も一時小屋に入れておく。
後ろから「そんなに慌てなくても良いんだよ?」とどこか楽しんでいるような声がして何故か恥ずかしくなる。
うぅ……なんでお姉ちゃん出掛けちゃうのバカ…………
「お……お待たせしました………」
「それが素なら良いけど敬語はいらないよ。
メリルの話じゃ来年の雪解け頃までお世話になるらしいし」
そ……そんなに長く泊めるの!?こんな綺麗な人をこのボロ家で!?
「それじゃ少し失礼」
セリスさんがそう言うと同時に体が軽くなり、足が地から離れる。
「わっ……体が………」
「掃除したばかりで床汚したくないからごめんね」
え……これ、上位飛行魔法!?
普通のレビテーションだって難しい魔法だって話なのに無詠唱!?
お姉ちゃん……この人とパートナーとして店を開くとか書いてたけど釣り合ってないんじゃ…………
とかなんとか考えていたら脱衣場まで来ていてお風呂に………お風呂こんなに綺麗だったっけ?
そして流されるままお風呂入っちゃって………
ど………どうしよう……………流されて流されるままセリスさんが髪を洗ってくれるという話になりまして………どうしたら良いの?
お姉ちゃん……お姉ちゃん!
「あの……わ、私。自分で……洗えますから…………」
「ん……あぁ、ごめんね。説明不足だったね。
メリルや私も使っているんだけど、髪に使う美容薬みたいなのを使おうと思ってね。使い方が分からないと思ったから最初だけ教えようとして、報連相ができないってメリルに注意受けてるのに中々直らないなぁ~」
な……なるほど。
髪に使う美容薬……それで髪があんなに光ったりするのかな………?
それは少し……ううん、凄く憧れるかも…………
「よ……よろしくお願いします」
「ん、お任せあれ」
その後されるがまま髪を洗われ、何か色々馴染まされて、お風呂に浸かされる。
その間に少し冷静になって羽を使ってセリスさんを知ろうとしたんだけど……もしかしなくてもセリスさん私の事子供扱いしている?
ま、まあこんなに凄く綺麗な人からしてみたら子供ですよね。
縫い目の目立つ安物のワンピースに麦わら帽子。
私だって持ってる貧乏人御用達衣装だというのに、セリスさんが着たら全く別物に見えるようでとっても素敵に着こなしていて、
「あの…………っ」
さっきまでずっと背を向けていたから見てなかったけど、今セリスさんの全身が目に入った。
何これ……美しい過ぎる。
裸を見て、同性だから何も感じないとか、エッチとかそんな風に思えない。
もうとにかく美しすぎる。神々しいと言うレベルだと思う。
しなやかでありながら力強さも感じさせる腕や足。
女神の彫刻なんかは裸だったりするけど、セリスさんがそういう存在でも何ら違和感が無いと思える。
「ちょっと失礼」
「あ、はい……」
………あれ?セリスさんがお風呂に入ってもお湯が漏れない?
私だけでお湯はスレスレだったのに?
「うん、風呂が広いのは良いね。
あと二人くらいならギリギリ入るかねぇ?」
「あ……そうですね…………」
うちのお風呂が広いのはここに液体の魔法生物を入れとく為なんだけどお母さんの猛反対で開けたんだよね。
お父さんが珍しく家を良くしようとか言い出して積極的に改装するから何かあるとは思ってたけど流石に予想外過ぎだって。
「それでアシュリーちゃんはテイマーなんだってね」
「あ、はい」
暖かな魔力……見た目にばかり目が行っていたけれど、こんなに好意的でしっかりと私を見ようとしてくれる人は初めてかも………
お母さん達は好意的というか、普通?例えるならあって当然って感じで好意的とは全然違うし。
「メリルに私の事どれだけ知らされているか分からないけど、私は海よりも遠くから来たんだよね。そこで私もテイマー業界でも名が知れていたんだ」
「え?魔法使いじゃ……」
「魔法使いがメインだけど使い魔とは別にテイムもしててね。
けどこっちと向こうとじゃテイマーが違うみたいで是非語り合いたいと思っていたんだよ」
「同じテイマーなのに?」
「そう。こっちじゃ野生のモンスターを使役するらしいけど、私の方じゃ卵や生まれたてのモンスターを1から育ててるんだよね」
「え……それって食費が凄く大変なんじゃ……」
「そうなんだよねぇ~。流石分かってる」
生まれたてのモンスターは種類にもよるけど食欲が一番凄い時期。
それを知っている人はとても少ないらしいのだけどセリスさんは知っているみたい。
「けどね、あの食欲は食べ物を欲しているんじゃなくて魔力を欲しているのは知っているかい?」
「え……そうなんですか?」
「そうなんだよ。だから魔石を砕いて食べ物に混ぜてやったりしてさ、属性魔石なんかを調整する事でモンスターの方向性をある程度誘導してあげたりできてね」
「うちの手羽先がマジックアローを使うのと同じ感じ?」
「そうそう、だから………」
セリスさんのテイマートークが続く。
その話がとても面白くて途中から自然と話せるようになった頃、そろそろ上がろうと提案される。
のめり込み過ぎてのぼせかけてた自分の状態に気付かなかった。
本当にセリスさんは良く見てるなと感心しながら二人で湯から上がる。




