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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
五章、少しの緊張と長い休日
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神様


 セリスに手を引かれ廊下を進む。

 一歩進む毎にパーティー会場の音が遠退いていき、周囲の雰囲気が暗くなっていきます。


「あ……セリス、ちょっと、まって!」


「メリル?」


 私の言葉にセリスが足を止め振り返る。


「少し……だけ……歩くのが早いです…………ふぅ、もう少しゆっくりに、してもらえませんか?」


 私は軽く息を切らしながらそう言う。


 ヒールのある靴なんて私には一生無縁な物だと…………商品で扱うくらいにしか思ってませんでしたからね。


 普段の歩くペースも遅いのですが、足が遅いのは身長に比例して歩幅が狭いだけで断じて体力が無い訳ではありません。

 ミューズと遊んでバテていたのはミューズが底無しで比較対象がおかしいのであって私は平均的です。


「あ~……そうだね、ごめんね。

 ただでさえ慣れない格好をしているというのに、少しだけ気が急いでしまったみたいだ。気を付けるよ」


 セリスらしくないミスに気付いて手を差し伸べてくれる。

 自分で言っていたようにセリスは少し焦っている様子だった。

 たぶん、私に対して何かあるんだと思う。


「はい、そうしてもらえると助かります」


 だから私はセリスを信じて手を重ねる。

 ギュッと、いつもより強めの力で握られほんの少しだけ痛い。

 けれどすぐ力を緩めてくれて、今の痛みは確かな愛情を感じられたから、むしろ心地好くて、嬉しかった。


 セリスと私、手を繋いだまま二人並んで廊下を進む。


 何となく私はセリスの顔を見る。

 セリスはターニャよりも身長が高く、これだけ近い距離だと見上げないとセリスの表情を伺うことができません。


 そのセリスの顔は内心の焦りとは別に、本当に、本当に珍しく何かに期待しているというか、何処となく楽しそうに見えます。

 セリスは表情を隠すのが得意なので分かりにくいですが、私には分かります。


「…………ん?」


「ん~ん。ただ、楽しそうだなと」


「分かるかい?」


「魔力以外でも分かるくらいにはセリスを見ていますので」


「………そうかい」


 あ、顔を反らされてしまいました。

 一瞬頬がつり上がるのを見たので喜んでいるのは分かりますが、目立ちたがりやなくせに意外と恥ずかしがり屋なのは変というか………まあ、セリスらしいですね。


 これなら大丈夫。

 何処に向かうかは分からないけれど、何処に行こうがセリスなら守ってくれます。


 ………ん?

 いつも通りです、そう、いつも通り。

 あ、あれ?

 セリスって私は当然、ターニャより身長高いですし、一人で歩く時はターニャの歩くペースより早かったような………

 もしかして…………


「あの、セリス………」


「なんだい?」


「やっぱり……セリスは紳士的だと思います」


「何の話だい?」


「いえ………なんでもありません。忘れてください」


 セリスがずっと前から私に歩幅から何まで細かい部分を合わせていてくれて、それに気付かなかった事もありますが、なんかこう………他にも良く分からない暖かな気持ちになって、何故か、少しだけ……いいえ、物凄く恥ずかしくなってしまいました。


 そんなやり取りがあってから私は恥ずかしくてセリスに声を掛けられず、セリスも空気を読んで何も話してこないで廊下を進んでいき、ようやく目的地に着いたのか足を止める。


 私もセリスも扉に触れる事無く立派な木製の扉が開いていく。


「お待ちしておりました。どうぞお入りください」


 扉を開き出迎えてくれた男性は中年を超えたくらいの男性で………


「え……神父様?」


 私はその男性の格好と紋章から神父様だと理解し戸惑います。

 宗教とかそう言う物は嫌いだと思っていたので、態々セリスから会いに行くなんて……

 そう思っていたからこそ、その戸惑いはとても大きかったです。


「この子は今回の事で要になる存在で私にとってとても大切な親友だから一緒でも構わないね?」


「もちろん構いません、貴女がその方に強い愛情を持っていることは良く理解しております。

 人並外れた強い愛情を持つと理解されたのでこの場をお作りした程で有りますゆえ」


「なっ……」


 愛情……愛情って!

 えっ?………あ、最近慣れすぎていましたけどおはようのキスとか確かにそういう風にとれますよね!

 私も最初恥ずかしくていけない事している気がして……他にも他人から見たらスキンシップが過剰ですし………それは恋愛関係と思われても仕方ないかもしれませんね。

 しかしその愛情とは友情の事ですよね……うん……………


「あの…………」


 恥ずかしいき気持ちが沸いてくる中で否定しようと声をかけようとした時、セリスはなんともなさそうにこちらに顔を向けてきたので言葉を切る。


「だってさ。行こうかメリル」


「え………」


 ……なんか、変に意識した私が馬鹿みたいですね。


 あまりにも素っ気なく言うもので恥ずかしさが退いてしまいました。


「ふぅ、分かりました。でも一声くらいかけてくれても良かったんじゃないですか?」


 報連相がありませんよ?

 私何も分かってませんからね?

 なんで私が話の要になるんですか?


「……よし、行こうか!」


「はぁ、まったく……」


 私の知らない所で事態が目まぐるしく動いてた事が馬鹿馬鹿しく思え、文句を言いつつもセリスに手を引かれ入っていく。


 赤い絨毯、左右には椅子といった正にお祈り等をする部屋です。

 奥にある祭壇の左右には二人の男性が立っています。

 正直協会関係の役職については良く分からないので二人の豪華な服装から神父様よりずっと上の役職なのかもしれません。


 その二人に向かって真っ直ぐと進んでいくと、祭壇に置かれている精霊像が光り始め、男とも女とも思える人が現れたのです。


「精霊様……」


「ふ~ん………精霊ね、こっちじゃ実在するんだ」


 背に大きく透き通った4枚の羽を持つ人物が現れ、私がつい漏らした言葉にセリスが相づちを打ちつつ興味深そうに見ています。


 というより……


「その言い方、もしかしてセリスの世界には精霊様が居ないのですか?」


「そうだよ、私の世界じゃ精霊や神ってのは何でもできる万能な存在であり架空の存在。本当にそんな存在が要るならば私が覇王になる事も無かっただろうね。

 だから信じてなかったんだけどこの世界には実在するのか………

 それで、精霊様は無礼にもその存在を否定する者が目の前に要るのに何も言ってこないのは、私の世界の事まで知っているからって認識で良いかな?」


「えぇ、あなたの事は実際に見て良く理解しました。異世界の神よ」


 精霊様の声は見た目と同じで男性か女性か判断できない声をしていて、優しげな声色でセリスに微笑みかける。


「神か……私が神だとでも言うのかい?」


「歴史から名を消さざるを得なかったワービーストの神であり、勇者と称えられた存在。それは我々が破壊神と呼ぶ存在であり、その存在と遜色無い力を持つ存在を指すのに神以外の言葉を我々は持ち得ておりません」


 神……そういえば以前似た話がありましたね。確か神の定義とか。

 その強大な力の前では嵐が過ぎ去るのを祈るのと同じように、ただその力がこちらへ向かないよう祈るしかない………でしたっけ?


 ………何を今更、私はセリスが「実は私は神様だったりするんだけどね」とか言い出しても信じられますよ。


 セリスは神様扱いなんて絶対に望んだりしないでしょうけど。


「それは確かに神以外の呼び名は無いね。

 その力で守護してくれるのであれば神と呼び、向けてくるのであれば邪神と恐れ嵐が過ぎ去るのを待つしかない…………これでも私は農民から産まれたんだけどねぇ。

 さて、無駄話もここら辺にして本題に入りたいんだがその前に確認が必要だね。

 ここにいるのは国を動かすのにあたって発言権があるくらいには重要な存在だって認識で良いのかい?」


「その認識で構いません。

 ですが、あなたは精霊の認識があまりにも無さすぎる。

 メリル嬢、あなたにとって一般常識である精霊の事を異世界の神へと説明してもらえませんか?」


「え……はい!えっとねセリス、精霊様は人々の思いを少しずつ貰って存在しています。

 思いを渡すのは、信仰心による物はもちろん、祭等の祝い事や、食事を取る前の挨拶なんかの些細な感謝でも精霊様の存在の糧となります。

 精霊様は人々から思いを貰う対価とし、恵みを授け豊作にしてくださったりと私達にとっては神のような……もちろんセリスの言う神とは違いますよ。

 それでですね、精霊様は私達が見えていないだけで、私達の思いを受け取る時にちゃんと私達を見てくれていて、悪い事をする者は精霊様からの恵みを貰えなくなります。

 えっと、他には……人食い部族に拐われて食べられてしまいますよと言う話しが子供向けの絵本にも良くあります………こんな感じですね」


「この世界が平和なのは精霊様という抑止力があるからなのか。

 だが、ヒューマン以外に対しての……特にドリーミーの扱いが酷いのは矛盾してないかい?

 それとも、精霊様ですらヒューマン以外は人では無い、魔物だとでも言ってたりするのかい?」


「いいえ、ヒューマンが我々の言葉に耳を傾けなかったからであり、破壊神の再来を予見し助言した事で初めて破壊神を知る一部の者達が危機感を抱き今の形になったのです。

 破壊神の存在は他種族との戦争によってその力を開花させてしまった事が原因であり、神の力を持つ者を刺激したりしなければ、理性の無き破壊神の再来はあり得ません」


「………まぁ、そういう事にしておくよ。

 それで、精霊様が私達をここに呼んだのは?」


「………?

 あなたが私のように、それなりの権力を持つ存在と対話をしたい様子だと思ったのですが、違ったのでしょうか?」


「対話?なんで私が貴様ごときと対話なんかしなくちゃならないんだい?」


 瞬間、私の視界を埋め尽くす程の閃光が放たれる。


 いえ、光など発生していません。

 そう錯覚してしまうほど膨大な魔力がセリスから溢れ出して、その魔力にあてられて一瞬眩んでしまったのです。


「対話というものは同じレベルの者同士で初めて成立するものであって、現状私と貴様らとでは対話は成立しない。

 端っから脅迫をしようとしている相手の前に出るのはどういう要件だと聞いたんだが理解できないのかい?」


 セリスが杖を取り出し、コンッ、と床を突く。

 すると背後から、バサッ!、と大きな音がし私は反射的に振り向きました。


 そこには白銀の翼を広げた天使達の姿、それはもう神々しく……

 この光景だけ見ていたら彼ら四人が天空城で頭のおかしな研究に没頭しているなんて思いもしないでしょうね。


 恐らく、精霊様に喋らないように言われていて黙っていた教会側の二人も、流石にこの光景には「なんと……」と驚愕の声を漏らしています。


「たった4匹か……他のやつらは忙しくて来れなかったのかい?」


「申し訳ございません、他の者は調整作業や離れてしまうと危険な実験をしているため来られませんでした」


「そうかい。それで、そこに面白いサンプルが有るんだけどどう思う?

 精霊って言うんだって」


「おぉ!」


 反応したのは私とターニャが比較的に仲良くなれた天使Cちゃんです。

 Cちゃんは神すら凌駕する究極の生命体を造る事を目指しているので、彼等が前にいた世界では架空の存在らしい精霊様は是非手に入れたいとか思っていそうですね。


「………あ、ちょっとセリス」


 呑気に変な感想を思い浮かべてましたが精霊様に危害を加えるなんてとんでもありません。


 事態がとても早く変わっていき、ようやく飲み込めて他人事じゃ無くなった私はハッと我に返ってセリスを止めに入ります。


 しかしセリスは私の前に手を出して、口を出さないでほしい意思を向けてきます。

 セリスの顔色を伺えば、珍しくぎこちない笑顔を浮かべており、その溢れる魔力から、セリスは不快感を感じているのだと理解し従う事にしました。


「さっきも言ったが私がするのは脅迫であって対話ではないんだよ」


「そんな気も無いのに良く言いますね」


 精霊様の言葉にもう一段セリスが不機嫌になるのが分かります。

 しかし……セリスは何故こんなにも不機嫌になっているのでしょうか?

 普段のセリスは懐が大きすぎるくらいで、ここまで短気に思えるのはとても変です。

 あ、今舌打ちしましたよ、本当に珍しい。


「そうだね。じゃあハッキリと本音を言うが、貴様の態度が気に入らないねぇ。

 だからお互いの為に対話は必要無い。

 何かお前らが手に負えないような脅威が発生したら守ってやるから報告しろ、それ以外でお前らからは一切関わるな、不快で仕方ない」


 コンッ!と音が響く。


 音の発生源は祭壇に飾られている精霊像の額であり、その額には小さなナイフが突き刺さっていた。


「え……セリ「その紙のナイフはあげるよ、来年から私はそこで暮らす予定だから、泣いて喜びな。

 今後のお前達の態度で帝国の行く末が決まるのだからねぇ?」


 セリスは私の声を掻き消す程大きく、それでいて透き通った声で語り、言葉を終えるともう用は無いと足を進る。

 私はどうすれば良いかと天使達の顔を見て、対処法を教えてくれる事を期待しましたが、期待も虚しく天使達は転移で消えてしまい、仲良しの天使Cちゃんだけが一瞬だけ「ゴメンね」と言いたげに苦笑して消えてしまいました。


「メリル行くよ」


「はい!」


 声を掛けられようやく動けた私は駆け足で出入り口に立っているセリスの方へ向かい出ていきました。


セリスの世界には精霊はいませんが、精霊種はいます。

エルフやダークエルフなんかが人種の中の精霊種に当たります。

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