パーティー
貴族、それは一言で言ってしまえば血筋。
貴族とは血筋が最優先だそうです。
例え娘が結婚し婿を迎え入れようが爵位を譲るなんてできません。
爵位を得るのはその子供です。
どう足掻いても婿の中に娘の血筋を混ぜるなんて出来ませんので。
なので血筋である子供に渡るそうです。
ターニャのお兄さんであるクレイトンさんは兄妹で唯一の男なのでお母さんとお父さんの両方の爵位等々を譲り受けるそうでして………
「それ……大丈夫なんですか?」
パーティー会場へ続く城の廊下、会場での演奏が聞こえる中でいきなりそんな貴族事情をセリスから聞かされた私の返答がこれ。
だってクレイトンさんって自分の命の危機にすら疎いんですよ?
セリスという大蛇に睨まれた蛙だって言うのに、権力なんて効くと本気で思ってた馬鹿さ加減ときたら………
「アレでも学問の成績は優秀らしいよ」
「え、うそ?」
「ふふ、メリルも大概失礼だよね~。そういう所が大好きなんだけど。
だけどね、勉強ができるのと頭が良い事は別問題だよ。
ターニャは勉強はできないけど頭が良い、クレイトンは勉強はできるけど底無しの無能だってだけ」
ターニャが頭良いのは理解できます。
冒険者にしては探り合いが得意ですし、こちらの意図を先読みしてくれる力も凄いですから。
しかしそうなると………
「なるほど……でもそれ、けっきょくクレイトンさんで大丈夫なのですか?本当に?」
「私もアレが第一候補だって爵位式で知ったんだよね。
大丈夫か大丈夫じゃないは置いておくとして、どんな世界も最大の敵は無能な味方だからねぇ~」
「やっぱり大丈夫じゃない……こらミューズ、そんな先いかないの」
「え?うん、わかった」
お城なんて普通入れませんからね。
そのせいでミューズの尻尾が先ほどから忙しそうでせっかくのドレスが着崩れしてしまいそうで不安です。
「このお城でこれなら天空城だとどうなってしまうんでしょうね」
「う~ん……何も考えられなくなるんじゃないかな。
初めてダンジョンに落ちたメリルみたいに」
「それもありそうだね」
……って、つい先週覇王の方のセリスに宝物庫を見せてもらってあまりの凄さに「凄い」以外の言語を忘れたんじゃないかと不安になったばかりじゃないですか。
「さて、そろそろお喋りは控えましょうか」
両サイドに居る兵と、扉一枚越しから聞こえてくる音楽がこの部屋ですと教えてくれている。
……やだなぁ。帰りたい。
「ま、私がいる限り控える必要は無いけどね~」
「セリスを前提にした保証なんて物騒すぎるので遠慮します……………と、言いたい所ですけど」
「ふふ、分かってる」
紺のシンプルだけれど体のラインがハッキリと出る綺麗な体型でなければ着こなせないドレスを着たセリスが手を差し伸べる。
反対側にいるミューズは白と黒の動きやすいドレスを着ていて、普段着と全く変わらない動きでセリスの腕に抱き付く。
ミューズのドレスに関しては装飾を付けようとすると暴れるのでこれは仕方なくです。
私は自分のドレスに問題が無いか改めて確認をするのですが、やはり何度見てもセリスの趣味全開ですよねこれ。
赤をベースとした黒のヒラヒラやリボンを付けたお人形さんのようなドレスで、可愛いと誉めてくれましたけど、こういうの私には似合わないだろうに。
「それじゃ行くよ」
私が手を重ねた事を確認して足を踏み出す。
そして扉を開ける事無くすり抜け音も無く中へ入る。
変に目立ちたくありませんからね。
兵に注目されようが良いんです。お貴族様から無駄に目を付けられるのは嫌なんですおっかない。
これから私はなるべく音を立てずに徹底的に風景の一部になるんです。
それが一番何事も無く、平和に、平穏に終わらせられると思いません?
「うわぁ~」
「うわ……」
私とミューズの声が重なった。
ミューズの目線は料理やシャンパン等で、美味しそうという気持ちが伝わってきて声からも嬉しくて仕方ないといった様子です。
私の方は……私と言いますか……………ターニャ、御愁傷様です…………
「祈っておきましょう」
「そうだね、私も祈っとくとしようかね。ナムナム」
ターニャ……今回の主役なので貴族の集まり方が凄い事になってます。
側にハリーさんが居て、正式にそういう関係になるという話は私も耳にしているのでその話題性の上乗せは2倍じゃ効きませんよね。
英雄の誕生と同時に英雄の婚約。
婚約は平民である私にも分かるくらいの付け入る隙でしょう。
祝い品と言う名の賄賂だったりとか………
「ターニャには悪いですがあそこには近づきたくありませんね」
「同感だねぇ~」
禍々しすぎですってあの空間。
表面は綺麗でキラキラしてますけど殺伐とした魔力のたまり場みたいになっていますよ。
「セリス」
「なんだい?」
「実はね、ターニャがお貴族様と知って、家を飛び出したと聞いた時は沢山持っているのに何を贅沢な。
なんて思ったりしたのですが、今ならその気持ちに同意できると思うわね」
「まあ貴族派閥なんて面倒しか無いからね」
「はい」
さて、料理の方に行ったミューズはルールを忘れていない様子ですし、シルバーを魔力で強化する事で握り潰す心配も無くなりましたから大丈夫でしょう。
私も同業者が居るかどうか探してみましょう。
居たとして格上しか居ないでしょうけど……
・
パーティーも中盤。
ターニャは心なしか……もういいでしょう。
触れてあげないのも優しさです。
ミューズの方は……相変わらず食べてばかりですね。
パッと見凄い綺麗なんですよ。
パーティーに参加すると確定してから立食のマナーを叩き込んだのもあり、立ち食い姿が美しいです。
美しさに反して食べている量が凄いですけど……
そうそう、ミューズですが私と違って体の使い方がとても上手いんですよね。正に天才的というレベルに。
私が数週間でようやくできた事を数時間どころか数十分でマスターしてしまって、あの時は凄く悔しかったですよ……
悔しいといえば通貨の説明の時なんかもそうです。
セリスもそうだったんですが、ミューズが、セリスもですがミューズがですよ?ミューズがです!
私は9種類ある通貨の名称や価値の差を完璧に理解するのに約一年は掛かったというのに………
3日!3日で覚えきったんですよ!?
セリスは一瞬で記憶してましたけどミューズもミューズでおかしいです!
私が9歳の時、物覚えが良く商人になってみないかなんて師匠が言ってくれて、それが切っ掛けで師匠に教わって、天才なんて持ち上げられてたけど………
「どうしたんだい、そんな暗い顔をして」
なんてマイナス思考に入っていると、セリスから指摘を受けてドキッと体が少し跳ねてしまいました。
慌てて取り繕いそちらを見れば両手にグラスを持ったセリスがいました。
「い、いえ、何でもないですよ」
「そう?はい、メリルの分」
セリスは両手に持ったグラスの片方を差し出してきて、グラスを受け取る。
「ありがとうございます。
お帰りなさい。そっち何かありました?」
「何も無いね~。ただ全員の顔と名前だけ覚えてきただけだし」
ただ覚えてきただけねぇ……
忘れるのも得意ですけど、必要な事を一瞬で覚えてしまう。
そんな事サラッとできてしまうのはセリスくらいですよ。
「さ、さすがセリス………えっと、セリス?その、私、そんなに顔に出ていましたか?」
「いいや、なんとなくそんな魔力の流れしてるなって」
「えっ?」
それってもしかして……私と同じで感情を魔力で理解している?
「フフフ、もちろんメリル程正確には分からないし、それなりの時間を過ごさなきゃ分からないけどね」
「それでも凄い……流石セリスです」
私なんて……いえ、ここまで成功している事には何の不満もありません。
失敗も多かったですが、それでも上手く行きすぎて怖いくらい。
「そうですね、ただ、少し落ち込んだだけです。
ミューズは凄いなって」
「それがあの存在だからね。
そもそも存在の在り方が違う。
メリルは泳ぎで魚に負けて悔しがるのかい?」
「なんですかその例え?」
そんなの「悔しがる方が頭おかしいだろう?」
私がムスッとすると、セリスは当たったと喜ぶかのようにクスクスと笑う。
「つまりセリスは、ミューズと比べる事が既に変だと言いたい訳ですかぁ?」
セリスの様子にますます嫌な感じになり、少し強めな口調で言ってしまいましたが、セリスは気にした様子もなく、上機嫌に答える。
「そう言うことだね。
ミューズは魔法の法則を本能で理解する。
まあ、ワービーストの面が強いからドリーミー程の理解力は無く、オリジナルの完全体と比べ半分程の力しか無い。
けれどその分他の事を敷き詰められる余裕がある。
魔王の力を得た事は何よりも不幸かもしれないけれど、逆にその力が収まるだけの器があり、才能を敷き詰められる器にスペースができたなら今のミューズのように別の才能を入れられても何も不思議じゃないだろう?」
「んん?良く分かりませんが………言いたいことはなんとなく分かりますし一理あるんですかね?」
「一理どころかそれが真実だよ」
自慢気に語るセリスを横目にミューズの姿を眺めていたのですが、話の途中辺りからミューズは気に入った料理を見つけたのか立ち止まり、パッと見ではそう見えないほど綺麗ですが、忙しそうにしていますね。
「何て言うか、努力とは無関係のような気がする」
「フフフ、ミィが努力し始めたらいよいよ覇王でも勝てるか分からないね」
「笑い事じゃないんだけど」
「大丈夫だよ。ミィは雑に見えるけど、こっちの世界に来る前なら私の知る誰よりも常識人で面倒見の良い大人だったからね」
「それは知ってる」
「むっ……」
あれ?意外だったのかな?
気配りの仕方とかミィさんは凄く普通の人の感性だと思うんですけど。
「ところでメリルは混ざらなくて良いのかい?
ターニャの友人と売り込めば英雄様とのコネ目当てで貴族が近寄ってきて利益に繋がるよ?」
「それは遠目でもうお腹一杯です」
あの中に突っ込むなんてとんでもない。
確かに利益になるでしょうが、あの空気を全面で浴び続けてたら体調崩しそうですよ。
ターニャの場合ハリーさんが側にいて男性方の虫除けになっているからマシなんでしょうけど……
「コネはともかく、ターニャも悪い感じじゃ無さそうですし、たぶんハリーさんと結婚するんですよねぇ」
「メリルもやっぱりそう言うの憧れるのかい?」
「そうですけど、私の種族は未だに強く差別されがちですからねぇ………………そう言うセリスはどうなんです?
前の世界でそういう仲になった人とか居ないんですか?」
「私かい?………そうだね、そんな関係にはならなかったけど、なっても構わないと思う相手はいたね」
……どうしてでしょう。
ゆっくりと語るセリスの姿が凄く色っぽく感じるのですが、なんか、少し嫌な気分です。
こう言う話を受け付けない人が要るとは聞いた事ありますけどまさか私が?
いやいや、むしろ好きなはず……
だって、ほら。散々それをネタにターニャをからかい転がしたのですから……お酒が入っているからでしょうかね?
「…………そうなんですか?」
「まあそれは私の考えであって覇王じゃない。
覇王に私なんて人の考えは要らない。
覇王に必要なのは勝者であり続ける事。
私は、こっちに来てようやく私でいられるようになったから、今更だし、それらの事柄全てあったからこそ今がある。
だから私はこれまでの事柄全てを後悔なんてしない。
今メリル同じ時間を過ごせているからこそ、そう思える」
セリスはグラスのお酒を眺めながら語っているのに、グラスなんかじゃなくて何処か別の遠くを眺めているように私は感じた。
「それに、最近は物忘れと言うか、数分前の記憶が飛ぶなんて事も無いしね」
「あ~……」
セリスのこの記憶が飛ぶって表現。
魚など精神的に良心が痛まない感じのものは平気でも、少しでも心の傷むものを痛め付けたり殺したりってなると、その時に起きた事が記憶から抜け落ちるそうなんですよね。
自分の精神を守る為、本能的に身に付いてしまった特技なんでしょう。
なんて初めは思っていましたけど、もしかしなくてもセリスの中にいる覇王が外に出るからで、覇王がした事の記憶はセリスには無いんだと思います。
「それで、メリルはどんな相手なら付き合ったりするんだい?」
「え?え~……そうですね………」
そ、そうですよね……私から振った話題なんですから振られて当然です。
さて、どんな人……………あれ?
そういえば私、アバウトに結婚とかしてみたいなんて考えた事はありますが、肝心な相手の事は考えた事がない……?
私の理想………種族差別をしないのは当然ですね。
でないと付き合う云々以前ですし………
むしろ私のこの羽を誉めてくれる人が良いな。
隠すことを止めるようになってから、今まで以上に羽を念入りに手入れをするようになって、油を使って羽の綺麗に見えるようにしてみたりしていますから。
それに気が付いてくれるなら直嬉しいです。
同じように微妙な変化に気付いてくれるのも嬉しいです。
この辺は商人なら気付く人多そうですが、商売の為のお世辞じゃなくてちゃんと誉めてほしい。
私を大切にしてくれて守ってくれる優しい人。
もちろん守られるだけじゃなくて、私を守って頑張ってくれる分だけ沢山甘えてきてくれて、持ちつ持たれつ、お互いに理解し合おうとする対等な相手。
それで格好良くて、私の身長くらいに肩があって、赤い瞳で同じ銀髪で……………
「………ん?」
思わず隣に立つセリスを見る。
いつも通りで見上げてような形で。
えっと………私はセリスが好き?
いや、まあ、それはもう大好きですけども………
あれ………おかしいな………セリス?
うん………セリスしか浮かばない………何故?
いや何故って居酒屋で一瞬だけ見た男のセリスは物凄く、それはもう他と比べてしまえば全てが醜く写ってしまう程格好かったですよ?
でも、セリスは女性で………
でも、女性でもセリス格好良いです。
守ってくれますし、変わりに沢山甘えてきてくれて、それを私はヤレヤレと思いながらも受け入れて…………
…………あ、それが答えですね。
「そうですね、強くなくても良いのでセリスみたいな男性がいたら完璧です」
「おっと、思った以上に難しそうだねそれは」
「あくまでも理想ですからね。
セリス、私達はずっと独身かもしれませんよ?」
「私はメリルとならそれも悪くないと思うけどね」
「私も悪い気はしませんね」
セリスと店を持って、旅はしなくなっても場所が場所ですから、お祭り事も他の町と比べて多いです。
仕事はセリスと私と、ミューズにも入ってもらって、欲を言えばターニャのような人も入って四人体制で回すのが理想ですね。
仕事の無い時間は基本セリスと過ごして、周りにミューズなんかがいる方が私にとってイメージしやすくて、結婚して家庭を築く事よりずっと幸せで………
「……なっ?」
いきなりセリスに抱き抱えられ、すぐには何をされたか分からず変な声が漏れてしまいました。
「ちょ、ちょっとセリス……ここで甘えてくるのは恥ずかしい………セリス?」
セリスは私を見ておらず、とても真剣な表情で周囲を見渡し、軽く舌打ちをする。
セリスが舌打ちするなんて、初めて見ました。
「どうやらお迎えがきたのかも……メリルも来てくれるかい?」
少しだけ、困ったような表情をして聞いてくる。
けれどそれ、悩む要素が無いのでは?
「付いていくかと言われれば当然付いていきますよ」
なので私は笑顔で手を出す。
「そっか、なら行こうか」
私はセリスに手を引かれ、廊下へと出て行きました。




