異世界から来た青年はどうやらピエロに全力で挑むようです。1
遡ること数時間前
対戦相手が嘲笑うような面をした男だと送られてきた瞬間、レベスはこれまでの対戦を振り返り、自信過剰となっていた。
「俺ってさ、もしかして今、絶好調だったり?なんかあっさり勝てちゃうんだけど」
「気のせいだね。レベスは運がいいだけだし。あのピエロには絶っっっっっ対に勝てないよ。」
「いや、いけるかもしれないぞ?」
「そんな事、天地がひっくり返っても無理だと思うけど。」
「じゃあ俺がそれを更にひっくり返してやる」
「裏の裏は表なんだけど・・・・」
ドヤッ、っと効果音が付きそうなくらい得意げに言うレベスに、ティルは鉄槌を下そうかと考えたが、どうせ、ここいらで敗れるだろうと、特に手出しすることはなかった。
天地をひっくり返しても無理なことを、それを更にひっくり返した所で初めに戻るだけであって、それは結局、元に戻っただけなのだ。
「そこら辺は気にすんなよ。よし、じゃあ、今日の最終戦に向かおうか!!」
カチャリ
「ここ来んのも、今日だけで何回目だろうな?」
「7回目。」
「・・・・えっ?ティル?何でいるんだよ」
「やっとこの魔法式を少し改造出来たの。これで見つからないし、大丈夫」
「いつの間に・・ってか、勝手にいじっていいのかよ・・・・」
これまでティルはというと、姿が見えなくとも感知されてしまう特殊な魔法の結界に遮られ、この、誓約を決める部屋、通称別れ道とも呼ばれる部屋に入る事が出来なかったのだ。
別れ道、という別名は、何も知らなかった村一番のファイターが戦いに敗れた後、無理難題な誓約を結んでしまった事を悔やみ、「戦はそこから始まっていたのか・・。あの部屋は運命を決める“別れ道”なのか・・・。」と呟いたのを別の対戦者達が聞いたことが由来だとか。その後の村一番のファイターの行方は誰も知らない。
「この魔法式、相当難易度の高いモノだし、古くから使われてるモノだし・・・。こんな魔法を使える位なら、私の事どうせ見えるだろうから、いっかなーって。後、案内役とか誓約決めに来た人達見てたけど、多分、ここに結界が張ってある事すら知らなさそうだったから。」
「ふーん」
因みに、案内役は今、対戦相手を迎えに行っている。何せその相手は8563戦8563勝というとんでもない数字を叩き出した、歴代最高位の戦士なのだから。
「失礼。」
そう言って、クラウンはドアを開け、入ってきた。更に、レベスをチラリと見た後、レベスの肩を見、跪く。そして、
「御無沙汰しております。」
と言い、顔を上げ「姫君」と付け足した。
その、クラウンのいきなりの行動に案内役は驚く。勿論当の本人であるティルも、肩にティルを乗せているレベスもだが。しかし、ティルに至っては、驚く所の騒ぎではなく、自分が見えていたという事実を改めて確認し、身震いした____いや、ティルが身震いしたのは、見えていることに対してではなく、その面の奥で、ニヤリと笑っているピエロの姿を感じたからだ。
「クラウン選手、どうかされましたか?」
「いや、気にしないでくれ。何、ちょっとした、ピエロの戯れ言よ」
「そ、そうですか」
案内役は、反応に困ったのか、それともその笑みにどう返せばいいのか困ったのか、その場しのぎに苦笑していた。本人は笑っているつもりなのだろうが、苦笑いになってしまっていることは明確だ。
「そ、それでは誓約を決めます。クラウン選手は何時も通り、今後一切の出場を禁止する、で宜しいですか?」
「いや、今回は違うものにすると決めていてね。お願いを1つ、聞いて貰おうと思って。」
お願いじゃねぇだろ。とレベスは思ったようだが、口にも、顔にも出すことはなかった。
「レベス選手はどうなされますか?」
「じゃ、前回同様、俺が助けを呼んだら三回は絶対に助けに来ること、っていうので。」
レベスがそう言うと、クラウンは顔を俯け、思索する。それが終わると再び顔を上げ、挑発的な目でレベスを見る。
「騎士くん、もっと大胆な事を言ってくれても構わないよ?」
「いえ、俺はこれで十分です」
レベスもその挑発には乗らず、クラウンの方を真っ直ぐ見て答えると、その様子を見たクラウンは「・・・・やはり面白い。」と呟いた。
「それでは、誓約成立と言うことでよろしいですね?」
案内役がそう聞くと、レベスとクラウンは、ニッコリ、目だけ笑っていない、強烈な笑顔で同時に答える。
「はい。」
「勿論。」
その場の空気は、外にも漏れだしていたらしく、ドアの外側では、たまたま通りかかった警備員が、鳥肌を立てていた。
「クラウン、レベス、その名を誓約に刻む」
「【誓約を絶対とし、誓約に背く者には鉄槌を!】」
レベスとクラウン、双方の外見に魔法式が見えることはなかった。つまり、どちらも内部に刻み込まれていると言うことだ。レベスについてはもう知っているかもしれないが。
「騎士くんもか。お互い、なかなか特殊なようだ。」
「そうですね」
そう言い、ハハハハ、とこれまた2人同時に笑う。勿論、面白くて笑っているわけではない。これから始まる闘いに、少なからず興奮しているのだ。
闘いはもう______
_______すでに終わっていると言えるが。
レベスは、この時、まだ自分は勝てる、悪くても、引き分け位にはもっていけるだろうという、希望を持っていた。




