異世界から来た青年はどうやら無双するようです。6
レベスが元に戻ったその後、すぐには薬を飲まず、夜叉刃丸が落ち着くのを待っていた。
「あぁ、何てご不幸。我の主なるレベス様がまさかこの生意気な妖精に、“木”に、されているなど・・・・。お主、よくも夜という重要なスキンシップの場を壊してくれたな、許さぬ。」
最後の方は明らかに夜叉刃丸の本音だろう。夜叉刃丸本人はぼそりと呟いたつもりだろうが、レベスとティルには、しっかりと届いていた。そして、それを聞いたレベスは、ぶるりと背筋を凍らせた。
今は背筋と言うより、幹だが・・・・・
〈いや、別に俺が薬飲む時間変えればいいだ______〉
いいだけだから。夜叉刃丸の気を少しでも落ち着かせようと言おうとしたレベスの言葉を、ティルが躊躇なく遮った。
「貴方みたいなのがいるから、“わざわざ”こんな事してるの!!このっ、巨乳美人が!!その脂肪邪魔だろうから貰ってあげようか!!?」
頬を膨らませ、むくれるティル。自身の成長期を終えた(本人はこれから大きくなると思っている)胸と、夜叉刃丸の育ちに育った胸を比べ、引け目を感じていた。所謂嫉妬心、というやつだ。
なので、ティルの貰ってあげようか!!?は、下さい、と懇願しているだけだ。
その光景を見た夜叉刃丸もまた、ティルを茶化す。
「あら、立派な胸板をお持ちで……本当、邪魔なものがなくて、軽そうですね。あぁ、ずるい。」
なんてクスリと笑うが、羨ましそうに、ではなく、ティルを哀れと思っての笑みだ。それを見たティルは顔を真っ赤にして飛び回り、こうなったら勝負よ!!と夜叉刃丸に勝負を仕掛けていた。断るかと思えたが、夜叉刃丸もノリに乗り、目を輝かせていた。これが刀の性というものだろうか・・・・。
「・・・・・。」
小さな妖精と、大きな刀。
2つが自らの大きさについて全力で闘う。
魔法を1つ使えば花が舞い、刀を一振りすれば花が切り裂かれる。
レベスの側で、おそらく、レベスとマルカが戦った時よりも熾烈な闘いが繰り広げられているそこで、動くことも出来ず、その闘いに割り込むことも出来ず(物理的には割り込んでいるといえる)、いつ巻き沿えを食らうかもわからず、じっと見つめているのには限界が来たようで、ティルに、ここでは争うなよ!!と思いを伝えるが、それも虚しく、わかった。の諦める声の代わりに、うるさい!!と罵声と炎を受け取った。
〈えっ?ちょっ、・・・・・。燃えるって〜〜〜〜〜!!!!!!〉
枝が少し燃え始めた頃、その異変にいち早く気がついたのは夜叉刃丸だった。夜叉刃丸には、主がどんな形であれわかるようで、主?!と驚愕し、ティルとの闘いを忘れ、火を消すことに専念しようとした。だが、夜叉刃丸は、今は人型と言えど、元は刀だ。ティルのように魔法を使えるわけでも何でもない。
そこで夜叉刃丸は考えた。
目には目を。
歯には歯を。
じゃあ、炎には炎を・・・・。
いや、根本を断ち切ってしまえばいい。
と。
スパッ、スパッ
冷徹な目で淡々と、燃えている枝を、葉を切った。その間、レベスは痛っ、と切られるのを我慢しており、夜叉刃丸が主を助ける為の行為だと思い込んでおいた。
「主」
〈ん?どうした?〉
「その、あの・・・・。」
深刻そうな顔をした夜叉刃丸が、俯きながら何か言いたげにレベスを見つめた。
残念ながら、見つめると言っても、夜叉刃丸の方が圧倒的に背が高いので、上目遣いになることは有り得ない。寧ろ、俯いているということは、レベスを完全に見下ろしている状態になる。
レベスはそんな夜叉刃丸を見て、すみませんと謝罪してくるのかと、鼻を高くして待った。
ゲスである。
「この枝、貰ってもいいですか?」
〈・・・・・。〉
「主?」
〈えっ?あっ、うん。枝・・枝、ね。いいけど〉
予想外の答えにレベスは狼狽した。
「ありがとうございます!!」
だが、子供のようにはしゃぐ夜叉刃丸を見ていると、それも段々落ち着いて、フッと笑みを零した(本来の姿の表情は何一つ変わっていないが)。
翌朝
「ねぇ、レベス。時ノ日まで残り1日になったけどどうする?」
ティルが唐突にそう言う。
「そういや、やるかやらないか決めないとな」
レベスは2錠目の黄色い薬を飲み、再び人の姿になり、夜叉刃丸は素直に刀に戻っていった。
どんよりとした雲は、暫くすると雨が降ってきそうだ。
「でも、内容が内容だろ?その人を観てからにしたいけど、どう観るか・・・・。」
レベスがうーんと唸っていると、夜叉刃丸が一言呟いた。
〈主、刀を交えてみてはどうですか?ほら、拳で語り合うと言いますか・・。〉
「いや、拳じゃないし・・・・ん?待てよ」
「何か思いついたの?」
そこでレベスが思いついたのは、先日、マルカと戦ったあの場所だ。
そもそも、サーカスへ行った際、依頼された内容は、全身真っ白で、黒いステッキを持ったピエロを殺して欲しいとのこと。
殺しとなれば、レベスもそう簡単には出来ない。
「いただろ?全身真っ白な黒いステッキを持った奴。俺達が観戦したあの試合に出てた。」
「あ、確かに」
「よし、決まりだ。いっちょ闘ってきますか!」
そう言って、レベス達は来た道を戻って行った。
激戦になるであろうその試合に胸を踊らせながら_____。




