異世界から来た青年はどうやら無双するようです。5
マルカとの初戦を無事終えたレベスは、ティルと共に再び街をぶらりぶらりと歩いていた。
「よし、これでお金も手に入ったし、いい経験も出来たし、一石二鳥だね」
「無理やりやらせたんだろうが・・・。」
レベスがこっそり呟くのを耳にしたティルは、思い切りレベスを睨みつけ、顔まで近づくと星の杖を出し、レベスの右目に当たる直前で止め、黒い笑みを浮かべて一言。
「何か、言った?」
ここでレベスが『YES』と答えれば、その杖がレベスの目を貫くのは必然だろう。そこでレベスは、ティルに心を覗かれていようがここは素直にならず、ティルの癪に触らない程度に嘘をつこうと考えた。ポーカーフェイスが得意だと過信して・・・。
「い、いえ。ナンデモアリマしぇン。」
「「・・・・・・・・。」」
くっそ。くっそッ!
なんだこれ。俺すげぇ恥ずかしい。
ポーカーフェイスは得意だぜ。とか何とかドヤ顔してたらまさかのですか。噛んじゃう系ですか。いや、わかってたよ。そんなフラグ建てだの俺だし?!
そんなレベスの心を読んだティルは、フッと鼻で笑う。
雲一つない満月の夜に、場違いの太った雀が一羽飛んでいった。
「おい、もう出てきてもいいか?待ちきれん。」
「「!!??」」
突然、2人には聞き覚えのない声が脳内に響いた。しかし、今2人のいる場所には、色とりどりの光る花々が綺麗に咲いている野原だ。暗くとも、花が輝いているため、視界も良好だ。そして、それを遮るものは何もなく、人1人いない。となると、幻聴か、見えないモノの類か・・・・。
どちらかと言えば前者の方が良いのだろうが、この際それは関係ない。2人が同じ幻聴を同時に聞くなど、天変地異でも起こらない限り有り得ないからだ。
暫く放心状態になっていた2人をよそに、ソレは再度言葉を発した。
「もういい。我慢ならん。出る。」
「落ち着いて下さいぃぃぃぃぃ!!!早まるな、頼むから!!」
「わかった。早く出よう。」
「話聞けよ!!!!」
何を言っても、どうやら通じないようだ。
ソレが言葉を発した瞬間、レベスの背中に掛かっている大太刀の鞘から紅い光が放たれ、野原一面を染める。そして、そこから出てきたのは_______
「嘘、だろ・・・・」
「くっ・・・」
レベスを唸らせ、ティルに嫉妬心を抱かせるほどの女性だった。
漆黒に染まる、腰まである長い髪。鋭い紅い目。芳醇な胸は、形よし、大きさよし。そして、それらを際立たせる赤黒いドレス。頭からは先の尖った2本の角が生えており、微笑みを見せた口元からは吸血鬼のような牙。本来ならば、恐怖を抱くはずの姿は、この世のものとは思えない程、美しく、魅入るばかりだ。
「・・・・!!!!」
口をポカンとあけているレベスに目をやった女性は、目を見開くと、何か聞き取れないほどの声の大きさでぶつぶつ呟きながら、ツカツカとヒールを鳴らし、レベスの目の前で止まった。
「あ___」
「あ?」
「主ぃ!!!!!!」
何をするかと思えば、いきなりレベスに抱きついたのだ。更に、女性の身長の、ちょうど胸あたりにレベスの顔がくるため、勿論、それに当たるわけで・・・。
思春期真っ只中のレベスにとっては、相当刺激が強く、思いっきり当てられている胸に窒息死をしそうであったが、その顔は、今までにないほど幸せそうだ。
だが、ティルがそれを許さない。その光景を見た瞬間、即座にレベスと女性を引き剥がした。
「何?そんなに幸せそうな顔して!そんなに巨乳が好きなの?!」
「あれは、男のロマンだな」
「っ~~~!!!レベスのバカ~!!」
真顔で、即座にそう答えたレベスを見たティルは、顔を真っ赤に染めてレベスの頬を思い切り叩き、ふん、とふてくされ手を組み、レベスに背を向けた。
だが、それをいいことに、女性もレベスに猛アタックし始める。
「主ぃ、あんな可愛げのない妖精なんてほっといて、イイコト、しましょう?」
後ろからレベスの肩に手を滑らせ、顎にそっと触れる。そのまま正面になるように向きを変え、顔にぷるんと潤った唇を近づける。
レベスは、幾ら顔の整った美人でも流石に、初対面でのキスは受け付けなかったようで、手を正面に突き出し、その行為を制した(突き放した)。
だが、その行為は失敗であった。
「あぁ、親愛なる我が主はそちらをお望みだったのですね。気が利かず、申し訳ありませんでした。さぁ、存分にお楽しみ下さい!」
頬を赤く染めながら手を後ろで組み、物欲しそうな顔をしてレベスを待つ。
なぜこうなったのかというと、キスという行為を制したはずのレベスの手は、ちょうど両胸を揉む形となり、かえって興奮させてしまったのだ。
「あっ、じゃあ遠慮なく____じゃなくて!!名前は?」
「あぁ、我は何という失態を・・・・。では改めて、夜叉刃丸と申します。」
「お前っ、刀の・・・・。」
「はい、では、主。自己紹介も終わった事ですし、ご褒美を下さい。」
「ご褒美・・・?」
レベスは、何となく嫌な予感はしていたようだが、キラキラと目を子供のように輝かせる夜叉刃丸を見ると、内容を聞かなければならないという使命感に駆られた。
「主ぃ、抱いても、いいですか?」
「え?」
「抱きたい、のです。」
「いや、待て。それはご褒美なのか?違うだろ?よく考えろ。」
突然の発言に、戸惑うレベス。だが、そんなことをしている暇はない。早まるなと夜叉刃丸を落ち着かせようとするが、一向に足を止める気配はない。
尖った角を見ても、鋭い牙を見ても恐怖を感じなかったレベスも、ここで初めて、たらたらと冷汗を流した。
「主______」
絶体絶命、もう駄目だと諦めたその時だった。
ポン。
聞き覚えのある軽快な音と共に、レベスの周りを白い煙が覆う。
そう、レベスは、ここでの、元の姿に戻ったのだ。そして、また、現実を思い出した。
〈そう言えば俺、木だった~~~~~~~!!!!あっ、でも今はナイスタイミング〉
ふてくされていたティルも、その状況を逃れられたレベスも、ホットしたのか、溜め息をこぼしていた。ただ1人、夜叉刃丸だけが、主____レベスを抱けなかったことに不満を持ち、むくれていた。




