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三好之長

 不穏な事態になった。いや、非常事態だ。

 (元長の息か。ーー次から次へと火種が舞い込みよる)

 京には既に、二千五百の三好軍がいる。ここで万一本願寺が動けば、ことだ。定頼は、歯噛みしただろう。

 細川晴元は、閏六月十七日、高雄神護寺(右京区梅ヶ畑)へ移る。京都北西の山嶺で、退京して山に入ったことになる。そこに、細川一族を招集。

 (応仁の乱になる!?)

 義晴は、畠山義総(よしふさ、能登守護)武田元光(若狭守護、妻が澄元娘)ら諸大名に出兵を命じる。自身の慶寿院(近衛尚通娘)と義輝も、八瀬へ避難させる。

 その上で、定頼とともに、工作に奔走した。

 

 義晴・定頼は、そもそもの紛争当事者である三好政長と長慶を和睦させようとする。

 

 政長は、晴元に招集されて、兵を引き連れて入京していた。この極限の緊張状態で、七月十四日、話し合いが持たれるが、決裂。

 逆に、右京区花園妙心寺のあたりで、小競り合いが発生してしまう。

 (戦いが始まったか)

 ここで我を通せば、六角氏や若狭武田氏が敵に回る。

 

 もしかすると、名将かもしれない。三好之長には、老獪と言えるほどの人心操作術と、倨傲なまでの自我があった。元長は、そこまで傲慢だったとは思えないが、おのれが讒謗されると苛烈に怒り、晴元のお気に入りである木沢長政を攻める激しさがある。

 長慶も、ここまでの行動を見る限り、とんでもない猪武者だ

 ーーだがどこか、曾祖父・之長の老練さが一匙ある。

 

 長慶は兵を引いた。結句、河内十七箇所の代官職は手に入らなかった。

 天文八年(一五三九)八月、摂津越水城に入った。半年も洛中で粘ったのに、小競り合いが発生すると、半月で兵を引いた。

 そうやって、京都に衝撃だけ残して

 

 彼は、阿波に撤退し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 (!!おいおい)定頼は、目を瞠った。これまで、阿波細川家は、畿内での軍事進出に失敗すると、本拠地である阿波に引き上げ、そこで捲土重来の力を蓄えた。

 長慶は畿内に留まり、あたかも、京都を観望する姿勢を見せた。

 傲然と。

 

 もう、義稙も髙国も鬼籍に入った。

 『三好之長軍は、二月二十日に大山崎(京都府乙訓郡)にまでやって来るが、上洛は見合わせた。

 どうも、あの紙の城は、意気揚々と奪うとたちまち捲土重来されて奪い返される。船岡山合戦の大敗北を思い出し、暴動で揺れる洛中を観望していた。

 三好之長が、ようやく京都に向かったのは、三月十八日。

 慎重である。

 いやな戦い方をする男だ。徳政を布告して住民を慰撫する一方、伏見庄や三栖庄(どちらも伏見区)を劫略。

 征服者の相貌をして、三月二十七日に入洛した。』

 前回の三好之長の京都進出だ。

 もし、この場に髙国や義稙がいれば、畿内に留まったまま圧力を加える姿に、曾祖父と同じものを感じただろう。

 

 さらに、長慶が籠もったのは、奇しくも摂津越水城。

 

 『さらに、摂津で池田久宗三郎五郎(摂津池田氏、池田輝政とは別の一族)が下田中城を確保したのを契機に、十一月六日、兵庫と尼崎から上陸。

 越水城(兵庫県西宮市)を包囲し、髙国方の救援を撃退、永正十七年(一五二〇)二月三日に越水城を陥落させる。

 この混乱が波及して、京都で暴動が起こり、徳政を求める騒ぎになる。

 越水城、兵庫県西宮市は、大阪市まで十数㎞程度だ。京都民が恐慌に陥るはずである。

 この情勢に乗じて、之長はさらに西進、尼崎まで押し寄せ、細川髙国は撤退を決意、近江坂本へと逃れた。

 之長軍、機を見るに敏ではあるが、どこか慎重な足取りである。』

 

 (ううううううううううううう~~~~~~~~~!!)亡霊たちがいれば、戦慄しただろう。

 蒲生対い鶴御所に押し潰された老雄に、通底する用兵をしている。

 

 

 


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