第5話 「サンキュー尾田さん」
二日目も、やることがなかった。
甲板に出て、海を見た。飽きた。船内に入って、壁を見た。飽きた。甲板に戻った。
周りを見ると、みんな緑の葉っぱを噛んでいた。ぼーっとしながら噛んでいた。楽しそうだった。
なんだあれ。
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誰かに葉っぱを渡された。試しに、自分も噛んでみた。うーん、青っぽい感じ。よくわからん。楽しいかこれ?そっと吐き出した。
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リュックからスケッチブックを出した。
持ってきて良かった。特に理由はなかった。なんとなく、あったほうがいいかと思って入れてきた。
鉛筆を持って、海を描いた。水平線。波。遠くに見える船。
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ハッサンが覗き込んできた。スケッチブックを指差して、首をかしげた。
「えっと……スケッチング?」
ハッサンはわかったのかわからないのか、ソマリア語で何か言った。三人くらいが集まってきた。全員、スケッチブックを覗き込んでいた。
暇なんだな、こいつら。
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なんか、見られてる。
居心地が悪いかと思ったけど、そうでもなかった。
「グッド」と誰かが言った。
「サンキュー」
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ハッサンが自分を指差した。それからスケッチブックを指差した。
俺を描け、ってこと?
ハッサンが笑いながら頷いた。そういうことらしかった。
まあ、いいか。
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ハッサンの似顔絵を描いた。
ただの似顔絵じゃつまらないので、ワンピースのキャラ風にアレンジした。ゾロっぽく。目つきを鋭くして、筋肉を盛って。
(ドラクエのキャラは海外じゃ通じない気がするからな、配慮できてる俺すげぇ)
ハッサンに見せた。
しばらく沈黙があった。
それから爆笑した。
ソマリア語で何か叫んで、仲間を全員呼んだ。
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全員が集まってきた。
スケッチブックを回し見して、全員爆笑していた。ハッサンが何か言うたびに、また笑いが起きた。
何を言っているのかわからなかった。でも、笑ってるのはわかった。
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「ネクスト、ネクスト」と誰かが自分を指差しながら言った。
俺も描け、ということらしかった。
その夜は、ずっと似顔絵を描いていた。ウケたよワンピース、サンキュー尾田さん。
そういえば、この船全然動いていないな。大丈夫か、こんなに船員たち遊んでるけど。




