第23話 「ビジネス、エンド」
あれから、何度か交渉した。
2回目は、少しうまくいった。数字の感覚がつかめてきた。相手がどこで止まるか、なんとなく読めてきた。
3回目は、もっとうまくいった。ランチ作戦も使った。缶詰じゃない飯は、やっぱり効いた。
4回目あたりから、通訳なしで動ける場面が増えた。全部は無理だった。でも、最初の数字の交換くらいなら一人でできるようになった。
アミナが「グッド」と言った。また「ネクスト」と言った。
「ネゴシエイター」とハッサンが俺のことを紹介した。相手が頷いた。なんか、それが俺の肩書きになっていた。なんか、こそばゆかった。でも、まあ、そういうことか、と思った。
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エイルにもなんだか慣れてきた。
おばさんの飯が普通になった。猫が毛布の隣に来るのも普通になった。ハッサンが木の枝を折って渡してくるのも普通になった。
港の人たちが顔を覚えてくれていた。歩いていると声をかけてくれた。何を言っているかはよくわからなかった。でも、悪い感じじゃなかった。
アミナからのお遣いで、市場にも行くようになった。
香辛料の匂いは、最初はきつかった。今は普通だった。
ドラゴンボールを描いてあげた屋台のおじさんが、俺を見ると手を上げてくれた。焼いた肉の串焼きを渡してくれた。食べた。お、ヤギかな?独特のクセが病みつきになる。
「チャイナ!」はまだ言われた。「ニーハオー、シェーシェー」
アミナと話す時間が増えた。英語が、少しずつうまくなった。気づいたら、「ウォント? マネー」だけじゃなくなっていた。
「ユー ゲット ベター」とアミナが言った。
「まあね」と俺は言った。
アミナが笑った。
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ある夜、ハッサンが来た。
いつもと顔が違った。
地図を広げた。何かを指した。
「ネイビー」という言葉が聞こえた。紺色のことじゃないだろ、たぶん「海軍」の方だ。
アミナも真剣な顔をしていた。海軍の船が増えている。哨戒の範囲も広がっている。前は動けた場所が、今はもう使えない。周りで捕まっている海賊たちが増えている。商売にならない。
俺にはよくわからなかった。でも、空気が変わった感じはした。
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何日かして、また集まりがあった。
スパゲッティを手で食った家だった。
靴の山は相変わらずだった。でも、知ってる顔が、何人かいなかった。
誰かが怒鳴った。誰かが言い返した。地図を指差して、また誰かが怒鳴った。
ハッサンが立ち上がった。
静かになった。
「ディス ビジネス、エンド」
ハッサンが言った。
俺もうなずいた。
「海賊王に俺はなる」
なれなかったみたいだ。まあ、本気でなれると思ってたわけでもないけど。でもちょっと残念だった。
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外に出た。
星が出ていた。
エイルの夜はいつもそうだった。星が多い。
次、どうしようかな、と思った。
アミナが笑った顔が、なんとなく浮かんだ。




