第21話 「ジス イズ マックス」
縄梯子があった。
また上るのか。今回はスーツだった。スーツで縄梯子はキツかった。
甲板に上がった。ハッサンが俺の背中を押してきた。前に出ろ、ってことらしかった。
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部屋に通された。
男が一人、椅子に座っていた。腕を組んでいた。船長、という感じだった。
俺が入ってきたのを見て、上から下まで見た。何も言わなかった。
「ハロー」と俺は言った。
船長が俺を見た。それからハッサンを見た。また俺を見た。
「ユー アー ザ ネゴシエイター?」
えっ。
俺、ネゴシエイター。
心臓が跳ねた。
「イェー」と俺は言った。
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「ハウ マッチ ドゥ ユー ウォント」
わかった。いくら欲しいか、と聞いてる。
船を返す、その代金だ。
リュックを探った。ノートを出した。数字を書いた。ゼロが多かった。渡した。
船長が見た。鼻で笑った。自分でペンを取って、数字を書いて、突き返してきた。少なすぎた。
「ノー」と俺は言った。また書いた。ちょっと下げた。船長も書いてきた。ちょっと上げた。
何回かやった。でも、ある数字で船長が止まった。
「ジス イズ マックス」と言った。
まだ少ない気がした。
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あの人の顔が、急に浮かんだ。
アブディならどうしてたんだろう。
思ったら、急にそのことが頭に来た。あの人は、こういうとき、どうしてたんだろう。
こっちが強い立場なんだよな、と思った。船も人も、今ここにある。向こうは払うしかない。急ぐのは向こうだ。
席を立ったら、本当に決裂するかもしれない。
でも、急ぐのは向こうだ。
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俺は立ち上がった。
船長が見た。ハッサンも見た。
何も言わなかった。ノートを閉じて、リュックにしまった。
「シー ユー ネクスト タイム」
と言えたかどうか、自分でもよくわからなかった。船長の顔色は変わっていなかった。うーーん、わからん。これで合ってたのか?
部屋を出た。
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甲板に出た。
することがなくなった。船の中をぶらついた。
男たちがいた。甲板で座っていた。何人かは寝ていた。何人かはカードをやっていた。
怒っている感じはなかった。諦めている感じもなかった。ただ、待っている感じだった。
一人が俺を見た。目が合った。逸らさなかった。俺も逸らさなかった。しばらくそのままだった。それからそいつが先に視線を外した。カードに戻った。
前に俺もこういうところにいたな、と思った。フィリップたちと一緒に。
あのとき、どんな感じだったっけ。早く終わってほしかった。でも、怖いわけじゃなかった。なんか、待ってた。
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船長は、なんでそんなに渋るんだろう。
乗組員はみんな、早く終わりたそうだった。でも船長だけが違う。
まだ下がると思ってるのか。それとも、誰かの指示を待ってるのか。
どっちにしろ、ここは待つだけだ。
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夜になった。
ハッサンが隣に来た。
「アブディ」と俺は言った。それだけ言った。
ハッサンが黙った。それから、ゆっくり何か言った。
わからなかった。でも、アブディのことを悼んでいる、というのはわかった。ハッサンも同じだったんだな、と思った。
しばらくして、飯が出てきた。何かの肉とスープだった。
缶詰を使った味がした。そして野菜がなかった。
乗組員と同じやつらしかった。これ、毎日続いてるんだろうな。
食べながら、ふと思った。
これ、使えるかもしれない。




