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漁業補助スタッフ(ソマリア) 〜借金から逃げたら、海賊だった〜  作者: 華雪β


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第20話 「スーツ、暑い」

次の日、アミナが何かを抱えて来た。


スーツだった。


「ホワイ?」


アミナが俺に向かって差し出した。着ろ、ってことらしかった。


ジャケットとパンツと、ワイシャツはオーソドックスなタイプ。それにネクタイがついてきた。ネクタイは真っ赤だ。


「誰のやつ?」


アミナが何か言った。わからなかった。


---


着てみた。スーツを着たのなんて、高校の卒業式以来だ。


サイズは大体合っていた。ちょっと肩が広い気がしたけど、まあいいか。


ネクタイを締めた。締め方、たぶん合ってる。たぶん。


アミナが近づいてきた。俺のネクタイをじっと見た。


「グッド?」と俺は言った。


アミナがため息をついて、ぐいっと引っ張り直してきた。


「痛い」


「グッド」とアミナが言った。


鏡を見た。おー、意外とイケてるじゃん。少なくとも見た目は敏腕ネゴシエイターに見えなくもない。


ちょっとポーズを取ってみた。


アミナが呆れた顔をした。


いや、いいじゃん。


---


ハッサンを呼んだ。


ハッサンが見た。


何か言いながら、笑った。


「いや笑うなよ」


ハッサンが肩をたたいてきた。なんか良さそうな感じだった。


---


外に出た。


暑かった。


日差しがジャケットに全部ぶつかってくる感じだった。ネクタイが首に張り付く。


「なんでこんな格好で来なきゃいけないんだ」


ハッサンがさっさと歩いていた。普段通りの格好だった。


---


港まで歩いた。


視線を集めた。おじさんが二度見した。子供が指差して、何か言ってきた。


ハッサンが何か返事をしていた。みんなが笑った。


俺も笑っておいた。


---


船に乗った。


3回目だった。


最初はマサノリの船だった。何もわからなかった。

次は拿捕だった。縄梯子を上った。手のひらが焼けた。


今回は、スーツを着ていた。


---


出港した。


海風がジャケットに入ってきた。楽になった。


アミナに教えてもらったやつを頭の中で繰り返した。ネゴシエイション。オファー。カウンターオファー。


使うんだな、本当に。


---


エイルが遠くなっていった。


俺が、本当にこれからネゴシエイションするのか。急に息苦しく感じて、ネクタイを緩める。


ハッサンが葉っぱを出してきた。ひとつかみ、こっちに渡してくれた。


噛んだ。いつもの苦みが、じわっと広がった。


少し、落ち着いた。

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