第16話 「ミー、ネクスト」
ドアの前で座っていた。
英語が続いていた。何人かいるみたいだった。何を言っているのかは、ほとんどわからなかった。
しばらくして、ドアがゆっくり開いた。
中から男が顔を出した。目が「お前は誰だ」という感じだった。
「ハロー」と俺は言った。
男がじっと見てきた。
「チャイナ?」
「ノー、ジャパン」
男がドアの内側に向かって何か言った。中でざわついた。
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少し経って、ドアが全部開いた。
五人くらいいた。みんな俺を見ていた。緊張はしていたけど、さっきよりは顔が柔らかかった。
「ハウ カム ジャパン?」と一人が言った。
どうして日本人が、ってことだな。
「バイト」と俺は言った。「ジョブ」
誰かが笑った。
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暇だったので、紙を探した。
厨房の棚に伝票みたいな紙があった。裏が白かった。使っていいかジェスチャーで聞いたら、うなずいてくれた。
描き始めたら、誰かが覗いてきた。
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一番最初に話しかけてきた男の顔を描いた。
ドラゴンボール風にしたくなったけど、やめておいた。ちゃんと似せた。
渡したら、目を丸くしていた。仲間を呼んで見せていた。
「ミー、ネクスト」と別の一人が身を乗り出してきた。
また描いた。
またミー、ネクストだった。
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描いているうちに、少しずつ名前がわかってきた。
フィリップ。ロロ。エドウィン。たぶんみんなフィリピン人だった。
拿捕した船で、人質の顔を描いている。なんか、変な状況だな。
フィリップが一番若かった。俺と同じくらいか、少し下くらいか。
「ユー、アーティスト?」とフィリップが聞いてきた。
アーティストか?俺。まあいっか。
「ア リトル」と俺は言った。
フィリップが頷いた。わかったのかよくわからなかったけど、通じた感じはした。
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しばらくして、フィリップが「ティーチ ミー」と言った。俺を指差して、次に口を指差した。
日本語、ってことか。
「アリガトウ」と俺は言った。
フィリップが繰り返した。「ア、リ、ガ、トウ」
「マジか」と俺は言った。
「マジカ?」とフィリップが言った。
笑いが起きた。
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そのうち今度は俺が英語を聞くことになった。
「ハウ ドゥ ユー セイ、これ」と指で波を描いた。
「ウェーブ」とフィリップが言った。
「ウェーブ」
「グッド」
教わるのはそんな感じで進んだ。大してうまくならなかったけど、なんか楽しかった。
それから、たまに会話になるようなときもある。
「ホーム?」とフィリップが聞いてきた。
「トーキョー ハウアバウト フィリップ?」と俺は言った。
「ミー、ファー」
フィリップが少し間を置いた。「マイホーム、ルセナ」と言った。
なんか、静かな顔をしていた。
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夕方、ハッサンがやってきた。廊下に座って葉っぱを噛み始めた。
俺も葉っぱをもらって噛んだ。
「フレンド?」とハッサンが聞いた。ドアのほうを指差しながら。
「リトル」と俺は言った。
ハッサンが何か言った。わからなかった。でもなんか、そういうもんだよな、みたいな感じだった。
葉っぱを噛みながら、廊下で並んで座っていた。
特に何もしゃべらなかった。それでよかった。




