第15話 「マネー、スモール、ミール、ビッグ」
1週間、ハッサンの家にいた。
おじさんはほとんど喋らなかった。毎日どこかに出かけて、夕方に戻ってきた。おばさんは毎朝飯を作ってくれた。猫が一匹いて、俺の毛布のそばで寝ていた。
夕方になると、テレビからトムとジェリーが聞こえてきた。誰が見てるのかよくわからなかったけど、なんか落ち着いた。
アミナが片言で話しかけてくれた。俺もたどたどしく返した。ほとんど伝わってなかったけど、アミナはいつも辛抱強く聞いてくれた。
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出発の朝、アミナが玄関先で何か言っていた。ハッサンに言っているようだった。ハッサンが「ハイハイ」みたいな顔をして出ていった。
アミナが俺を見た。
「ビー セーフ」とゆっくり言った。
それから背中をバンバン叩いてきた。
痛い。
「サンキュー」と俺は言った。
アミナが笑った。
頼れるアネキみたいだな、と思った。
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また港から出た。
俺は前よりちょっと慣れていた。前回と同じメンバーだった。ハッサンも、なんかいつも通りだった。
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何日か、また海にいた。
星を見た。葉っぱを噛んだ。叩き起こされた。たまに懲りずに釣りをした。そういうのを繰り返した。
ある日、船が見えた。
この間見つけた船よりも今度は小さかった。マサノリが乗っていた船くらいかな。速さも、そんなでもない感じだった。
「いける」という空気がした。
追いついた。
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船が近づいてくる。でかい。鉄の壁みたいだった。錆が筋になって流れていた。
エンジンの音が変わった。みんなの顔も変わった気がした。ハッサンも、どこか別人みたいだった。
笑っていなかった。
縄に鉤をつけて投げた。金属音がした。引っかかった。
みんながよじ登っていった。俺もよじ登った。
鉄は熱かった。太陽の熱を全部吸い込んでいた。手のひらだけ焼けるみたいだった。
思ったより高かった。途中で下を見てしまった。海だった。見なきゃよかった。
腕がへたった。
なんとか甲板に出た。
ハッサンが銃を持ち上げて、何か叫んだ。たぶん「フリーズ」みたいなことだと思う。
ハッサン、完全に悪者だな。そして俺もだ。わかってはいたけど、突き付けられた感じがした。
なんか胸がドキドキしてきた。やばい、心臓がうるさい。
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船員が何人か、固まっていた。両手を上げていた。
思ったより落ち着いていた。逃げようとしなかった。怖そうではあったけど、「わかっている」感じがした。こういうことがあると知っていたんだろうか。
「チャイナ?」と一人が俺を指差した。
またか。
「ノー、ジャパン」
船員が目を丸くした。
「ジャパン?」
「イエス。ジャパン」
なんかびっくりされている。まあそうだよな。日本人が乗り込んでくるとは思わないよな。
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積み荷の確認が始まった。ついていった。
船倉に入った。木箱や段ボールが積み上がっていた。一番上の箱を開けた。洋服だった。
ハッサンが渋い顔をした。
「スモール?」と俺は聞いた。
「スモール マネー」とハッサンが言った。
積み荷が安いと、身代金も安くなるのか。なるほど。
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厨房に入ったら、業務用の冷蔵庫がどんと並んでいた。
誰かが扉を開けた。
肉。チーズ。野菜。果物。名前のわからないソースがいくつか。
おお。
「マネー、スモール」と俺は言った。「ミール、ビッグ」
ハッサンが笑った。
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その夜、飯がよかった。
肉と野菜を炒めたやつに洒落たソースがかかってた。パンも柔らかかった。
なんで拿捕した船のほうが飯がうまいんだ。
人質たちも同じ飯を食っていた。同じ鍋から取り分けた。
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翌日、ハッサンに「バン、バン」と指差された。俺を指差して、廊下の先を指差した。
あ、番人ってやつか。人質の見張りをするらしかった。
人質の部屋の前に座った。
ドアの向こうから、英語が聞こえてきた。




