第九話 ――隠されたもの――
あの夜から、数日が過ぎた。
リンクはいつも通り依頼を受けてダンジョンに潜り、
金を稼ぎながら、ダンジョンの“ある場所”を探していた。
トリグレアが「マキマキシに帰る」と言っていた。
あの言葉が、ずっと胸に引っかかっていたからだ。
いくら街中に人が溢れていたとしても、鶏足はかなり目立つ。
それにヘルハウンドを連れているような魔物使いもいない。
最初から街ではないとしたら──
マキマキシに帰る──それは、ダンジョンのどこかにある“隠し部屋”のことなのかもしれない。
ダンジョンに、あいつの隠し部屋がある。
そう考えてから、リンクは空いた時間に地図を広げ、
不自然な空白に目を留めては、静かに考え込んだ。
ローランドとは、特に話していない。
避けているつもりはないのに、距離だけが空いていく。
街で、女性の肩を抱いて笑っている姿を見かけるたび、
リンクは反射的に足を止めてしまう。
ローランドは気づくと、いつも手を振ってきた。
「おーい、リン──」
けれどリンクはまた嫌な顔をしてしまい、
そのまま踵を返して歩き出す。
背後でローランドが動きを止めた気配がするが、
振り返らなかった。
そんな日が、何度か続いた。
今日もリンクは、依頼を受けてダンジョンに潜っていた。
10階層以降は稼ぎがいい。
それまでの階層は、人もまばらだ。
特に5階層は割に合わない迷宮品ばかりで、不人気の場所だった。
(……逆に怪しいんだよな)
深い階層を拠点にするのは現実的じゃない。
魔物も多いし、移動にも時間がかかる。
(最低でも……6階層くらいか)
5階層は人が寄りつかない。
6階層は魔物の質が上がり、動きづらい。
(……やっぱり、5階層までに“何か”あるはずだ)
リンクは当たりを付けた壁に“鑑定”をかけ、
1階層から順に、地図に載っていない空白を探していく。
1階層は比較的狭く、魔物も弱い。
弓を引けば、矢は正確に急所を射抜いた。
2階層はやや広いものの、同じように危なげなく進む。
(……ソロでも十分やれる範囲だな)
淡々と魔物を倒しながら、
地図の怪しい場所をひとつずつ消していく。
ふとした瞬間──
ローランドが女性と笑っていた姿が脳裏をよぎった。
(……あいつ、ホントに冒険者か?
遊び人の間違いなんじゃないの?)
眉をひそめる。
(関係ないだろ……僕には)
そう思うのに、胸の奥がざわつく。
矢をつがえる手に、わずかに力が入った。
(……なんでこんな気分になってんだよ、僕は)
そんな自分に、さらに腹が立つ。
魔物を倒すたび、ため息がひとつ漏れた。
ある程度まで進んだところで、リンクの足が止まる。
魔石や鉱石は袋いっぱいだ。
胸の奥のざらつきは消えないまま、
リンクは静かにダンジョンを後にした。




