第十話 ――すれちがい――
翌日、ギルドの扉を押し開けた瞬間──
足元に、不自然な影が滑り込んできた。
(……またか)
誰かが足を引っかけようとしている。
反射的に体をひねり、
軽くステップを踏んでかわした。
転ぶ気配すらない。
そのまま何事もなかったように歩き出す。
背後で小さく舌打ちが聞こえた。
(くだらない……)
リンクは表情ひとつ変えず、カウンターへ向かった。
最近、表立って絡んでくる者は減った。
“ローランドのお気に入り”という噂が広まっているからだ。
だが、よく思わない輩は一定数いる。
小さな嫌がらせは続いていた。
「リンクくん、こんにちは。納品ね……
って、さっきの、大丈夫?」
受付嬢のアリサが心配そうに顔を上げる。
リンクは軽く首を振った。
「なんでもないよ。こういうの、慣れてるから」
アリサはほっと息をつき、
書類を受け取りながら、少し声を潜めた。
「ねぇリンクくん……
ローランドさんと、パーティー組まないの?」
「……え?」
「最近ローランドさんのこと避けてるって聞いたけど……
ケンカでもしたの?」
リンクは慌てて首を振る。
「……そうかな、向こうが忙しいんじゃないの?」
曖昧に笑ってごまかす。
胸の奥が、またざわついた。
アリサは“そっかぁ……”と納得したようなしないような顔で、
書類に視線を戻している。
手続きが済むと、リンクは軽く会釈しながら、
静かにその場を離れた。
(……避けてるつもりなんて、ないんだけどな)
ただ、ローランドが女性に囲まれている場面を見ると、
どうしても足が止まってしまう。
そして、嫌な顔をしてしまう。
(……なんなんだよ)
自分の反応に、また腹が立った。
週に二日は、ヨゼフの店で鑑定の仕事をしている。
「おいリンク、そろそろ出てけよ。店は宿じゃねぇんだ」
ヨゼフは口を尖らせる。
「……分かってるよ」
「まぁ、お前の鑑定は助かってるけどな」
無造作に、迷宮品を棚へ並べていく。
リンクは淡々と仕事をこなした。
(……ここに居座るのも、そろそろ限界かな)
そう思いながらも、なかなかふんぎりがつかない。
夜。
店の奥の小さな部屋で横になりながら、
リンクは天井を見つめた。
(……パーティー、ね)
そもそも誰とも組む気はないし、
ましてやローランドとなんて論外だ。
(隠し部屋を探してることは、誰にも知られたくないし……)
トリグレアが残した言葉。
マキマキシの不自然な空白。
5階層あたりの違和感。
全部ひとりで確かめないと。
(……あいつが勝手に忙しくしてくれるなら、その方が都合がいい)
ローランドが女遊びに夢中なら、こちらに構う暇もないはずだ。
その方が……隠し部屋のことに集中できる。
そう理屈で片づけようとするのに──
胸の奥が、またざわついた。
(……なんであいつのことばっかり思い出すんだ)
静かな夜。
リンクはひとりで、深く息を吐いた。




